川崎ストーカー、被害届取り下げも「警察は主体的に動くべき」…専門家「何度もより戻すのは深刻化の危険性高い」

 川崎市川崎区の自宅に元交際相手の岡崎 彩咲陽(あさひ) さん(20)の遺体を放置したとして職業不詳の白井 秀征(ひでゆき) 容疑者(27)が死体遺棄容疑で逮捕された事件で、岡崎さんは神奈川県警にDV(配偶者や恋人からの暴力)やストーカー被害を訴えていた。専門家は「2人は破局と復縁を繰り返しており、危険性の高いケースだった」との見方を示すが、SOSはなぜ届かなかったのか。(横浜支局 日下翔己、佐野真一)

破局しては復縁

 捜査関係者によると、2人は昨年2月頃から交際を始めた。5月頃に別れ、6月頃に復縁。その後も、破局しては復縁した。

白井秀征容疑者

 岡崎さんからの最初の通報は、復縁後の6月13日。「けんかをして服を破られた」という内容だった。トラブルは収まったが、9月には「殴られ、刃物を向けられた」と被害届を提出。しかし、10月には「事実ではない説明をした」として被害届を取り下げた。

 「何度もよりを戻す場合は、簡単に離れられなくなっていて深刻化する危険性が高い」。DVに詳しい藤田香織弁護士は、こう指摘する。

 ストーカーやDVの加害者更生、被害者支援を行うNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」(横浜市)の栗原加代美理事長は、被害届の取り下げに着目する。翌週には、白井容疑者が岡崎さんの姉宅前で待ち伏せをしていたためだ。「被害者の意思で取り下げたとは限らず、脅迫を受けた可能性もある。警察は理由を深く聞いたのだろうか」と語る。

危険性の考慮を

 ストーカー被害は昨年12月、一段と深刻になった。岡崎さんは9~20日に9回、「自宅近くをうろついている」などと通報していた。

 県警は詳しく事情を聞くため、岡崎さんに来署を求めた。しかし、応じてもらえず、「警察の対応は望んでいない」と判断した。

 この点について藤田弁護士は「ストーカー規制法の警告や禁止命令を見据え、警察は主体的に動く必要がある」と指摘。「対応を断られても危険性を考慮し、意思を再度確認すべきだったのではないか」と語る。

 岡崎さんは20日、祖母宅からいなくなり、行方が分からなくなった。窓ガラスが割れていることに気付いた祖母は22日、白井容疑者に連れ去られた可能性があると110番した。

 白井容疑者は任意の事情聴取で、行方不明になる直前のストーカー行為を認めたが、岡崎さんの行方は「知らない」と話した。

 白井容疑者は4月2日に出国。県警は「逃走の蓋然性が高まった」としてストーカー規制法違反容疑で捜索令状を取り、同30日、白井容疑者宅を捜索。台所床下から岡崎さんの遺体が入ったバッグを発見した。

他機関との連携

 今回の事案で、川崎市には岡崎さんからDVやストーカー被害に関する相談は寄せられていない。県警と市の情報共有もなかった。

 市は相談窓口を設け、シェルターなど一時的な保護施設も用意している。福田紀彦市長は7日の定例記者会見で、「どうすれば防ぐことができたのか」と厳しい表情を浮かべた。

 藤田弁護士は「警察の対応には限界がある。自治体や支援団体、民生委員など他機関と連携する仕組みが求められる」と強調する。

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