外国人めぐり危うい言説 実態と隔たり 埼玉・川口を歩く

参院選の街頭演説で外国人排除を訴える政治団体の候補者と抗議する市民ら=埼玉県蕨市で2025年7月5日午後5時8分、田原拓郎撮影

 20日投開票の参院選で、外国人規制を巡って各党が主張を繰り広げている。埼玉県内でも多くの候補者が外国人規制を叫ぶが、そこには地域の実態を置き去りにしかねない言説や差別の扇動になりかねない危うさも見受けられる。在留外国人が多く暮らす川口市や蕨市を歩いた。【田原拓郎】

「規制」の訴え

 「外国人があまりに増えると治安も悪化し、社会が崩れる」。5日、JR蕨駅西口で声を張り上げたのは参政の候補者。聴衆が拍手を送る。

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 参政は公約に「日本人ファースト」を掲げる。演説では消費減税などの経済対策に続き、外国人規制を訴えた。候補者は取材に「県南で外国人のことを言うと、『他党が言ってくれないことをよく言ってくれた』と手応えがある」と語った。

 外国人が人口の8・4%を占める川口市や、13・3%の蕨市での街頭演説では、多くの候補者が「外国人」に関する主張を強く打ち出している。

 維新が街頭で配布するチラシの最上段には「外国人問題 安心して住める埼玉を取り戻す」。陣営関係者は「外国人が少ない県北での反応はいまいちですが、この地域では有権者に刺さる」と話す。

 公明の候補者も5日、JR蕨駅で「不法滞在の方には帰っていただく。難民申請の乱用・誤用にはノーを言う」と主張。同日に川口市を訪れた石破茂首相も「ルールをきちんと守って、日本の社会でいろいろな役割を果たしてもらうことが大事だ」と演説した。

聴衆の声は

ヘイトスピーチの可能性がある街頭演説に抗議する市民ら=埼玉県蕨市で2025年7月5日午後5時10分、田原拓郎撮影

 参政のチラシを配る川口市の20代男性に声をかけた。これまで自民に投票してきたが、今回は参政を支持しボランティアに励む。

 「ツイッター(X)で興味を持った。候補者や運営党員になるには国籍情報の提出が必要で『純日本人』にしかなれないところが魅力」と話す。「外国人の受け入れ制限を支持している。夜、外に出れば中国人やクルド人が路上で話していて怖いですから」。自身が外国人から直接、何らかの被害を受けた経験はないという。

 聴衆に話を聞くと、外国人規制賛成の理由として「治安悪化」や「外国人優遇」を挙げ、「外国人増加に不安を感じる」「インターネットで外国人の優遇や犯罪を知った」などと語る人が目立つ。ネット上などで優遇策としてやり玉に挙がることが多いのは、国民健康保険と生活保護。参政は両制度について外国人による乱用を防ぐと公約に盛り込む。ただ、聴衆らが両制度に抱くイメージと利用の実態は必ずしも一致しない。

外国人を優遇?

 厚生労働省によると、23年の国民健康保険の被保険者のうち外国人は4%で、過去10年で1・4ポイント増えた。だが、外国人に支払われた医療費は全体の1・39%(23年3月~24年2月)のみ。同省の担当者は「一般的に診療にかかるのは高齢者が多い。若い人が多い在留外国人は、日本人に比べて診療費を使っていない」と話す。

 外国人の永住者や定住者らの中には、生活保護制度を「準用」した同等の保護を受ける人もいる。そうした外国籍の被保護世帯は、23年が約4万6000世帯(全体の2・8%)。10年前から約1000世帯しか増えていない。在留外国人が同期間で65%増加したにもかかわらず、である。

 一方、川口市では外国人のゴミ捨てや運転のマナーなどについて行政や警察に相談が寄せられてきた。外国人運転手のひき逃げなど個別の事件が報じられることもある。

 ただ、県警が検挙した刑法・特別法犯のうち、外国人は19年が1116人(7・9%)、24年が1127人(8・8%)。割合は0・9ポイント増えたが検挙人数はほぼ横ばいだ。この約5年間で県内の外国人が27%増加した一方、コロナ禍前の19年から刑法犯認知件数は減少しており「外国人によって治安が著しく悪化している」とは言いがたい。

ヘイトスピーチも飛び交う

参院選立候補者や応援弁士の街頭演説を聴く有権者=川口駅東口で2025年7月16日午前11時27分、加藤潔撮影

 参院選に出馬している陣営の関係者に「多くの候補が外国人規制を強く打ち出して目立とうとしている印象がある」と水を向けると、こんな答えが返ってきた。「うちは外国人問題について長くやってきた自負がある。うちに有利な外国人問題を強く訴えて、他の候補をこの土俵に引きずり込みますよ」

 地元の自民関係者は話す。「石破総理の演説にはがっかりしました。あんな弱い言い方じゃ響かない」。そこには、ゴミ捨てや騒音問題など生活トラブル解決に取り組んできた地元議員らの実績よりも、規制強化などの「強い言葉」の方が有権者に届きやすいという危機感がある。

 選挙戦が進むにつれ、激しさを増しているように見える外国人規制を巡る街頭演説。蕨駅西口では、「外国人優遇策の廃止」などを掲げる政治団体の候補者が叫んでいた。「朝鮮人は朝鮮に帰れ」「朝鮮系の反日に負けるわけにはいかない」。演説にはヘイトスピーチに該当するような内容が多数あった。

 付近を通りかかったバングラデシュ出身の30代男性は「3年日本で暮らしてきたが、社会の雰囲気の変化を感じる。まだ、日本は安全だと信じているが恐怖を感じている知人も多い」と、表情をくもらせた。

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