サイクリングで認知症リスク低減か、車や電車など非活動的な移動手段と比べて 新研究
「ツール・ド・フランス」のレース前にトレーニングするレムコ・エベネプール選手(ベルギー)/Marco Bertorello/AFP/Getty Images
(CNN) 自転車は地球にも懐にも健康にも良いだけではない。最近の研究によれば、車や電車ではなく自転車で移動することは、認知機能の低下を防ぐ効果がある可能性があることがわかった。
英国人の参加者約48万人を評価した研究によれば、自転車に乗ると、車やバス、電車などの非活動的な移動手段と比べて、すべての認知症のリスクが19%、アルツハイマー病のリスクが22%低下することがわかった。研究は、JAMAネットワークオープンに掲載された。
身体活動は長年にわたって、複数の研究で認知症のリスク低下と関連づけられている。医学誌「ランセット」の専門家委員会は2024年、身体活動について、認知症の症例の約45%を予防または遅延させる14の要因の一つに特定した。世界中で5500万人以上が認知症を患っており、50年までにその数はほぼ3倍になると予想されている。
論文の著者によれば、活動的な移動の健康への効果に関する人口を基にしたエビデンス(科学的根拠)は依然として乏しいものの、系統的レビューでは糖尿病リスクの低下を含む健康状態の改善との関係性が一貫して強調されている。ただし、移動手段と認知症リスク、脳の構造変化との関連性を調査した研究はこれまでほとんどないという。
今回の研究の参加者は2006年から10年にかけて、40~69歳の50万人超の健康状態を追跡調査する「UKバイオバンク」のために募集された。参加者の平均年齢は56.5歳で、過去4年間の通勤・通学を除く移動手段として最も頻繁に利用した4種類の交通手段について回答した。選択肢は「非活動的移動」「徒歩」「混合徒歩(徒歩と非活動的移動手段の組み合わせ)」「自転車および混合自転車(自転車と他の移動手段の組み合わせ)」だった。
中央値13.1年の追跡期間中、8845人が認知症を発症し、3956人の成人がアルツハイマー病を発症した。徒歩と混合徒歩は認知症リスクの6%低下と関連していたが、興味深いことに、アルツハイマー病リスクの14%増加とも関係していた。研究チームは、アルツハイマー病の最も強力な遺伝的危険要因である「APOEε4」遺伝子も影響を与えていることを発見した。同遺伝子を持たない参加者は認知症リスクが26%低下したのに対して、持つ参加者は12%減だった。
自転車と混合自転車は記憶と学習を司る脳の領域である海馬の容積増加と最も関係が強かった。
「この研究はサイクリングが認知症リスクの低下だけではなく、海馬の容積増加にも関係していることを示す初めての研究だ」とストーニーブルック大学教授のジョー・バーギーズ博士は述べた。バーギーズ氏は今回の研究に関与していない。
マサチューセッツ総合病院ブレインケアラボの主任研究者、サンジュラ・シン博士はメールで、「この研究の強みは素晴らしいが、注意すべき点もある」と述べた。シン氏も今回の研究に関与していない。
シン氏は「移動手段は特定の時点で自己申告されたものなので、人々の習慣が時間の経過とともにどのように変化したのかはわからない」と指摘。「参加者のほとんどが白人で、ベースラインでは、より健康だったため、今回の結果は全てのコミュニティーに一般化できるとは限らない」
「そして、おそらく最も重要なのは、これは観察研究であるため、サイクリングが認知症を直接予防すると証明することはできないということだ。これは単に、関連性が見いだされたことを示しているだけだ」(シン氏)
バーギーズ氏によれば、定期的に自転車に乗る高齢者はより健康な下位修団である可能性が高いほか、自転車の利用は好ましい遺伝的特徴の指標となり可能性があり、認知症の遺伝的素因を持たない人々の間ではリスクが最も低いという。
研究によれば、活動的な移動手段を選択した参加者は、女性、非喫煙者、高学歴で、全般的に身体活動が多く、体格指数(BMI)が低く、慢性疾患が少ない傾向にある。特に自転車と混合自転車の集団は男性が多く、同年代の参加者よりも健康的な生活様式と健康状態にある人が多かった。
アルツハイマー病のリスクの高さと歩行を好むこととの関連は、参加者が既にバランス感覚や運転に問題を抱えている可能性によって説明できるかもしれないと、ガイジンガー・ヘルス・システムの行動神経科医で記憶・認知プログラムのディレクター、グレン・フィニー博士は述べた。
フィニー氏は、歩くペースも重要だと付け加えた。特に短距離のゆったりとしたウォーキングでは、長距離を速いペースで歩く場合と比べて、潜在的な効果を十分に得られない可能性がある。今回研究では、参加者の歩行や自転車の習慣の頻度、ペース、持続時間については報告されていない。
バーギーズ氏は、いずれにせよ数十年にわたる研究で運動が脳に良いことが示されていると指摘する。「サイクリングは、心血管の健康状態の改善や脳への血流増加、神経可塑性のサポート、代謝の改善によって、認知症のリスクを低減する可能性がある」