ロシア軍が再び戦術変更、ドローンの群れで都市を襲撃 子どもの「新たな日常」に
ロシア軍の空爆によって破損した住宅のがれきを片付ける住民=6日、ウクライナ首都キーウ/Roman Pilpey/AFP/Getty Images
(CNN) ウクライナ首都キーウで、ある日の夕方、オレクサンドル・レシェトニク君(4)は両親に簡潔な提案を行った。「今すぐ、駐車場に行こう。そうすればちゃんと眠れるし、駐車場まで行って帰って来るのに2回も起こさなくて済むから」
一家は高層ビルの18階に住んでおり、ロシア軍の攻撃時に防空壕(ごう)としても機能する地下駐車場に行くのは不安な体験だった。空襲が頻発するなか、オレクサンドル君にとっては、地下駐車場にとどまるのが一番理にかなっていると感じられた。
幼いながらも、オレクサンドル君はロシア軍が再び攻撃してくる可能性が高いことを知っていた。
母親のクリスティナ・レシェトニク氏は、家族がキーウ上空でドローン(無人機)が撃墜されるのを見るのに慣れてしまったと語る。以前は1機か2機、あるいは3機程度だったが、状況は変わったという。
「最近はドローンが群れをなして3、4時間やむことなく飛んでいる。窓のすぐ外で爆発が起こる」(レシェトニク氏)
ロシアはここ数週間、ウクライナへの空襲を強化しており、一晩で最大479機のドローンとミサイルを発射した。こうした攻撃は、規模と頻度が増しているだけでなく、より集中的に行われており、機関銃の射程外となる高高度を飛行するため対処がはるかに困難になっている。
ロシアがウクライナに対して送り込んでいるドローンの数の増加には驚かされる。CNNの集計によれば、ウクライナ侵攻におけるロシアの最大規模のドローン攻撃のうち7件は過去4週間に発生した。
ロシアがドローンの製造を増強
ロシアは昨秋、最も頻繁に使われているイランが設計したドローン「シャヘド」の国内での生産拡大に成功した。現在では毎日数百台のドローンを量産している。
米シンクタンク戦争研究所(ISW)の専門家クリスティーナ・ハワード氏は、現在の推計ではロシアは月に約2700機のシャヘドと約2500機のおとりの無人機を生産できると語った。「これらの数字によって、ロシアは一晩で300機、あるいは400機のドローンをより頻繁に発射できるようになった」
ドローンの一部がおとりであるという事実はウクライナの防衛にとってほとんど意味をなさない。なぜなら、ロシアはおとりのドローンを本物と区別するのが困難になるよう改造しているからだ。
「つまり、ウクライナ軍はおとりの特定に時間を費やすか、貴重な資源を使って撃墜するのかのどちらかになる」とハワード氏。いずれにせよ、ロシアのミサイルやドローンが標的に到達するチャンスとなり、ロシアにとって有利に働くという。
毎晩発射されるドローンの数が増加し、ウクライナの防衛網を圧迫している。特に、ロシアが一度に少数の地点に狙いを定め始めて以降、その傾向が顕著だ。9日の夜はキーウと港湾都市オデーサが標的となった。次の夜はウクライナ第2の都市ハルキウが狙われた。
ロシアは民間人を標的にしていないと主張しているが、それに反する証拠は後を絶たない。過去4週間で、子どもを含む少なくとも154人のウクライナ市民がドローンやミサイル、砲撃によって死亡した。さらに900人が負傷している。
死傷者の出る攻撃は、ウクライナの士気を下げ、ロシアが戦争で優勢であるかのような幻想を抱かせる。
ウクライナ軍が2023年11月にヘルソンを解放して以降、前線に大きな動きはない。
「撃ち落とすのは不可能」
ユーリー・チュマク氏は、キーウの街の屋根の上で機関銃を手に夜を過ごしている。昼間は最高裁判所の判事として働き、夜はドローン捜索隊の志願兵となる。チュマク氏は、ドローンの飛行が著しく増加していると語る。
「ドローンの数ははるかに増えている。これは客観的な事実だ。そして、もちろん数が増えれば増えるほど対処するのは難しくなる」(チュマク氏)
チュマク氏によれば、ロシアがドローンをより高い高度で飛行させ始めてから、部隊がドローンを破壊するのは不可能ではないにしてもはるかに困難になった。
ロシア軍は以前、ウクライナの防空部隊にできるだけ長く探知されないよう低空でドローンを飛行させていた。接近して初めて探知できるため、対応する時間は非常に短かった。
チュマク氏によれば、現在、ロシアのドローンは上空2~5キロを飛行している。見ることもできるし、レーダーで追跡もできるが、機関銃で撃ち落とすことはできなくなった。ウクライナは現在、ミサイルを使ってドローンを阻止しなければならないという。
だが、ミサイルの供給は大幅に不足している。そのため、ウクライナ軍は新たな解決策を模索せざるを得なくなっている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先月、記者団に対し、ロシアが空爆を強化するなか、ウクライナ空軍とチュマク氏のような志願兵を称賛した。
ゼレンスキー氏はまた、高高度からの爆撃に対抗するためドローン同士の迎撃システムを導入していると明らかにした。「我々に技術はある。問題はいつ拡張できるかだ」
ゼレンスキー氏によれば、ロシアは1日あたり300機から350機のドローンを生産できるのに対して、ウクライナは100機にとどまる。
「子どもにとっての当たり前に」
キーウ在住のレシェトニク氏にとって、ロシアの空襲で最悪のことの一つは4歳と8歳、11歳の3人の息子には、それが日常となっていることだ。オレクサンドル君からは、聞こえてくる音が巡航ミサイル「カリブル」なのかドローンなのかしょっちゅう質問を受ける。
「まだ小さいのに何が起こっているのか分かっている」とレシェトニク氏。攻撃の規模や範囲が拡大するにつれて、一家が地下駐車場で過ごす時間が増えた。3人の子どもたちは車のトランクで寝ている。
「これが子どもたちにとって当たり前のことになってしまった。心が痛む」(レシェトニク氏)
毎日恐怖を経験するが、レシェトニク氏の一家は幸運でもある。一家は比較的防空態勢が整ったキーウに住んでいる。一家が耳にする爆発音のほとんどはウクライナの防空システムがロシアのドローンを迎撃している音だ。
ウクライナの防空システムは西側諸国が割く予算によって制限されているため、ウクライナ国内の多くの人々は防空システムを備えていない。最前線に近い場所では、ロシアが小型のドローンを使って民間人を攻撃している。