欧防衛スタートアップ、低コスト極超音速ミサイル開発が実用化段階に移行

米防衛スタートアップは低コスト極超音速ミサイル=ブラックビアードを開発中だが、英独合弁の防衛スタートアップ=ハイパーソニカも低コスト極超音速ミサイルの開発を進めており、11月2日「1億ユーロのシリーズB資金調達ラウンドが完了した」と発表し、同社の開発は実証段階から実用化段階に移行した。

参考:Hypersonica raises €100M Series B to build Europe’s sovereign deterrence

低コスト兵器は従来兵器をただコストダウンしたものではなく、従来兵器の製造を支える防衛向けに特化したミリタリー規格のサプライチェーンとは別の産業能力、つまり生産規模と調達性が優れた商用サプライチェーンから生み出される兵器のことで、欧米の防衛スタートアップ=Anduril(アンドゥリル)、CoAspire(コアスパイア)、Zone 5(ゾーン5)、Destinus(デスティナス)は小型の低コスト巡航ミサイルを、Covenant(コベナント)はトマホークの弾頭重量の半分強=最大250kgを運搬できるやや大型の低コスト巡航ミサイルを既に生産もしくは生産開始寸前だ。

出典:Castelion

米国のCastelion(キャステリオン)は米陸軍のMLRSやHIMARSで使用する低コスト極超音速ミサイル=ブラックビアードを開発中で、米海軍はF/A-18への統合作業を進めながら最大2億ドル分の生産(444発分)を発注済みで、米空軍のF-16に対する統合作業も開始された。

ブラックビアードの詳しい性能は公開されていないが、大気圏内を極超音速=マッハ5以上の速度で機動飛行を行うため「予測可能な軌道で飛翔する弾道ミサイルよりも迎撃が困難だ」と言われており、従来型兵器よりも低コスト兵器の開発テンポが早いのは「究極の性能を追求しないから」という側面もあるが、最大の違いは軍当局にアイデアを持ち込み、開発要件を策定し、コストを精査し、議会に予算を承認してもらい、契約を締結してから開発が始まるのに対し、防衛スタートアップは資金を投資家から集めて自らのアイデアを形にしてから軍当局に持ち込むためだ。

出典:Hypersonica

英独合弁の防衛スタートアップ=Hypersonica(ハイパーソニカ)も低コスト極超音速ミサイルの開発を進めており、2026年2月「構想から9ヶ月間で極超音速ミサイルのプロトタイプ(HS-1)試射に成功した」「HS-1はマッハ6を超える速度まで加速し、射程は300km以上に達した」「我々の目標は欧州独自の極超音速攻撃能力を2029年までに開発することだ」「2,330万ユーロ=約41億円のシリーズA資金調達ラウンドが完了した」と発表していたが、11月2日「1億ユーロ=約177億円のシリーズB資金調達ラウンドが完了した」「この資金調達は実証段階から実用化段階への移行を示している」と発表した。

ハイパーソニカは極超音速ミサイルの開発コストについても「従来のアプローチと比較して80%以上のコスト削減を実現しており、従来の常識よりも迅速かつ低コストで極超音速ミサイルを開発できることを我々は実証した」と述べ、詳しい性能については明かされていないもののハイパーソニカ製の極超音速ミサイルは米国の国際武器取引規制(ITAR)で主権の制限を受けないものになるらしい。

出典:Brody Franzen

ここまで低コスト兵器分野が盛り上がっているのは「迅速かつ手頃な価格でミサイルを製造できると証明さえすれば、契約を短期間で獲得でき死の谷を回避できる」と期待され、ベンチャーキャピタルが有望な防衛スタートアップに惜しみなく資金を供給し始めたからで、ロッキード・マーティンはPAC-3 MSE後継ミサイル(将来迎撃ミサイル計画)の契約を獲得したが、最後まで契約を争ったのはアンドゥリルだったため、防衛スタートアップの挑戦は低コスト兵器に留まらず「大手防衛企業が独占している高度な兵器分野」にも手が伸び始めている。

ロッキード・マーティンも通常のコストプラス契約ではなく、開発費用の39%(4億2,300万ドル)を負担することでその他取引契約(Other Transaction Agreement=OTA)を締結し、この形態では通常調達契約で義務付けられている連邦調達規則、国防連邦調達規則、原価計算基準など大半の規則が免除され、煩雑な行政手続きや原価監査プロセスを省略できるため通常の契約締結に要する期間(1年~2年)を数ヶ月間に圧縮することができ、もう兵器開発のアプローチは2022年以前の「政府に開発リスクを丸投げする方式」から大きく変化してしまった。

出典:Destinus

これも防衛スタートアップとの競争が激しくなっていることを物語っており、欧州におけるデスティナスやハイパーソニカの台頭はMBDAにとって強力な挑戦者の登場になるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Hypersonica

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