犯罪被害者に二重の苦しみ、賠償金未払い解消進まず 専門家「国の介入で強権的に請求も」

民事訴訟の判決後、記者会見する堤将太さんの父、敏さん(中央)。犯罪被害者側への損害賠償金支払いを巡る課題は解消されていない=3月19日午後、神戸市中央区

犯罪被害者やその家族らに対し、加害者側から損害賠償金が支払われない問題の解消が進んでいない。支援条例の制定や刑事手続きに関する権利拡充など、犯罪被害者のフォロー体制が強化される中、賠償金の未払い問題は置き去りになっている格好だ。海外では国が被害者側に補償した上で、加害者側に支払いを求める仕組みを設けている例もあり、専門家は国内での導入を求めている。

29年経過しても支払われず

「加害者から回収できていない被害者への賠償金を国が立て替えてほしい」。平成9年に神戸市須磨区で発生した連続児童殺傷事件で亡くなった土師(はせ)淳さん=当時(11)=の父、守さん(70)は今月、産経新聞の取材にこう訴えた。

事件を巡っては、神戸地裁が事件当時14歳だった加害男性(43)に賠償を命じていたが、男性が27年に出版した手記の印税での支払いを申し出たため、遺族側は拒否。民法上、損害賠償は支払い申し出から10年経過すると時効となり請求権は消滅するが、土師さんは請求権の更新を求める再提訴を見送った。事件から29年が経過しても賠償金は支払われないままだ。

賠償金の未払いは相次いでいる。日弁連が平成30年に実施したアンケートによると、殺人や傷害、性犯罪の計467件のうち約半数で賠償金が一切支払われていなかった。また、過去10年間に犯罪被害関連の損賠訴訟で被害者側が勝訴するなどした363件のうち、賠償金を全く受け取れなかった事例は85件に上った。

訴訟で望んだ判決得られないことも

背景には、加害者側に支払い能力がないことに加え、加害者からの報復を恐れて被害者側が支払いを強く求められないケースが確認されている。

被害者側が加害者側を相手取って訴訟を起こすこと自体も負担が大きく、提訴に踏み切ったとしても望んだ判決が得られないこともある。

平成22年に神戸市北区で、当時17歳の男が高校生の堤将太さん=当時(16)=を刺殺した事件では今年3月、遺族が男とその両親に損害賠償を求めた民事訴訟の判決で、神戸地裁が両親の監督義務を認めなかった。

地裁は、男が事件前に面識のない男性の首を絞めたことや、ナイフを隠し持っていたことを両親が把握していたとしつつ、「刃物を用いた凶悪な事件の発生を予見できたとは言い難い」と判断。堤さんの父、敏さんは「本当に雑な判決で、突き放すような言葉ばかりだ」と語った。

海外では国が立て替え

損害賠償を巡るこうした状況は、被害者側に二重の苦しみを生じさせることになる。海外では加害者側に代わって国が賠償金を立て替え、被害者側の負担軽減を図る制度がある。

ノルウェーは、国が被害者側への賠償金を立て替えた上で加害者側に賠償金を請求したり、加害者の資産を強制的に差し押さえたりする国家機関を設置。スウェーデンでも国の犯罪被害者庁がこうした役割を担い、被害者側が加害者側と交渉する負担を軽くしている。フランスでは賠償金が支払われない場合、全額や一定額を基金から補償する制度を設けている。

国内でも国による犯罪被害給付制度があるが、賠償金の立て替えではなく給付であるため、加害者側から賠償してもらうには別にやり取りする必要がある。

地方自治体では、兵庫県明石市で賠償金を市が最大300万円まで立て替える制度を運用しているが、担当者は「収監中や収入がないなどで、加害者側からの回収が難しいケースがある」と話す。同様の制度を導入している自治体が一部にとどまり、地域差が生じることも課題の一つだ。

「新全国犯罪被害者の会」(新あすの会)副代表幹事の米田龍玄弁護士は、北欧などを参考に、国が被害者の賠償請求を「買い取る」制度を整備するよう提唱する。

米田氏は、北欧のような制度について「国が介入することで、被害者個人よりも強権的に賠償金を請求することができる」と評価。「被害者救済、そして加害者に本来果たすべき民事責任を果たさせるためにも、実効性のある仕組みが必要だ」と訴えている。(宮崎秀太)

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