マクロスコープ:高市首相が気を揉む為替動向、政府内に日銀利上げ継続容認の声
[東京 19日 ロイター] - 日銀は19日までの金融政策決定会合で、政策金利の引き上げに踏み切る見通しだ。為替動向に気を揉み利上げ容認に傾いた高市早苗首相について、政府内からは今後も当面は日銀の追加利上げを容認し続けるとの見方が出ている。すでに焦点は「利上げ後」に移りつつあり、到達金利(ターミナルレート)の水準もささやかれ始めた。
<高市氏の「変化」は継続中>
「この予算はもうこれ以上積まなくていい」。今月、首相官邸で開かれた来年度当初予算編成に向けた協議の場で、高市氏は省庁の担当者に向けてこう話した。「この予算」は高市氏が首相就任以前にこだわっていた政策に関連する費目だったにもかかわらず、だ。
同席した経済官庁幹部は「首相になったからには以前の主張を譲らなければならないと自覚していると感じた。ポストが人をつくるというか、高市氏はかなり変わった」と驚いた。
首相就任当初、高市氏が「マクロ経済政策の最終責任は政府にある」と繰り返し述べたことは、日銀の利上げへのけん制だと市場に受け止められた。経済財政諮問会議の民間議員にリフレ派の論客を起用したことなども重なり、円は首相就任時の対ドル151円から1カ月で一時157円まで下落した。
輸入物価の高騰が家計を圧迫し続ければ高い内閣支持率に水を差しかねない。支持率の低下は解散総選挙という首相が持つ最大の武器を封じ、自民党内のガバナンスをも弱める可能性すらある。まさに政権の生命線だ。
前出の経済官庁幹部は、高市氏は過去の言動からの「豹変」を気にしない面があると指摘。「金融政策に強いこだわりがないようにも思えるが、よく言えば柔軟性がある」とした上で、「首相官邸は官房副長官や首相秘書官を含めて実力派が揃っている。チームとして力を発揮すれば政権は安定するのではないか」とも語った。
<追加利上げは「あと2回」の声も>
こうした中、政府内では日銀の追加利上げがどの水準まで継続するかに焦点が移りつつある。
前出と別の経済官庁幹部は「日銀は今回の追加利上げ後も、あと2回はそう時間を空けずに続けるだろう」と読む。当面のターミナルレートが1.25%になるとの見方だ。「すでに為替市場は今回の利上げを織り込んでいる。利上げ決定後に円安に振れる可能性すらある中で、さらなる利上げ判断は早晩求められるだろう」とも語った。
一方で、利上げによらない円安解消を目指す手段として、為替介入の可能性を指摘する声もある。
もともと政府内には、9月に加藤勝信財務相(当時)と米国のベセント財務長官との間で合意した日米の為替に関する共同声明の発出後、「介入するならまず利上げをしろという米国の思い」(日本財務省幹部)に配慮する空気が漂っていた。
今回の利上げが終わればその「くびき」から脱するというわけだ。実際、片山さつき財務相も折に触れて介入の可能性に言及している。
前出の経済官庁幹部に今後の政府対応のポイントを問うと、こう即答した。「とにかく為替の動向次第だ。過度に円安に振れたと思えば政府は動く」
日銀の政策金利と金融市場の動向(鬼原民幸 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
2025年6月からロイターで記者をしています。それまでは朝日新聞で20年間、主に政治取材をしてきました。現在、マクロ経済の観点から日々の事象を読み解く「マクロスコープ」の取材チームに参加中。深い視点で読者のみなさまに有益な情報をお届けしながら、もちろんスクープも積極的に報じていきます。お互いをリスペクトするロイターの雰囲気が好き。趣味は子どもたち(男女の双子)と遊ぶことです。