アングル:スペインで「ゴーストタウン」が再生、都市部住宅不足で増える郊外移住

 6月4日、スペインの首都マドリードの南40キロの町セセーニャは、2008年の不動産バブル崩壊で都市開発計画が頓挫し、「ゴーストタウン」と化していた。セセーニャで5月撮影(2025年 ロイター/Nacho Doce)

[セセーニャ(スペイン) 4日 ロイター] - スペインの首都マドリードの南40キロの町セセーニャは、2008年の不動産バブル崩壊で都市開発計画が頓挫し、「ゴーストタウン」と化していた。しかしマドリードでの極度の住宅不足を背景に、都心部に住むことを断念せざるを得なくなった中産階級が相次いで移住し、町は活気を取り戻しつつある。

不動産業者のセギス・ゴメス氏がセセーニャの物件をインターネットのサイトに掲載すると、らわずか2分後に問い合わせの電話がかかってきた。引き合いは強く、各物件の購入待機者は70人に上る。バブル崩壊時に半値以下に下落した物件価格も元の水準に戻ったという。

住宅価格高騰への怒りが広まっているため、サンチェス首相は移民を通じた人口増を進めつつ、手頃な住宅の供給を主要目標の一つに掲げている。マドリードは2024年に人口が14万人増加したのに新築住宅建設許可件数が2万件しかないことからも、住宅不足の深刻さは明らかだ。バカンス用住宅賃貸ブームに加え、記録的な移民流入や厳格な都市計画規制などでむしろ住宅不足は悪化している。

IESEビジネススクールのカルレス・ベルガラ教授(不動産)は「問題は需要と供給を迅速に均衡させることができないという点にある。そのため価格が上昇するか、さもなければ価格の安い、都心部から遠い場所に住むしかない」と話す。

Map shows how housing prices increased in the past five years in and around Madrid, Spain

マドリードが人であふれかえる中、隣接するカスティーリャ・ラ・マンチャ州に位置し、首都への交通アクセスや公共サービスの整備が未だ十分ではないセセーニャが通勤圏として受け入れられるようになってきた。

小説家セルバンテスの代表作「ドン・キホーテ」の舞台ともなった同州にあるセセーニャでは当初、庭やプール付きの手頃な価格の集合住宅1万3000戸が建設される予定だった。開発プロジェクトは2004年に始動したが、買い手にはインフラの未整備などの説明がなく、実際の建設は5000戸にとどまった。さらに不動産バブル崩壊で物件の価格は暴落。多くの住宅が銀行の手に渡った。

<活気取り戻す>

現在のセセーニャは活気にあふれている。開発業者のインパクト・ホームズは年内に1ないし4ベッドルームのマンション156戸の建設を完了する予定で、隣接する別の建物は既に49%が購入予約済みだ。

ハイメ・デ・イタ市長は「セセーニャはフル稼働状態だ」と胸を張る。

ネストル・デルガドさん(34)は2021年にマドリード南部のカラバンチェルから一家でセセーニャへ引っ越してきた。家賃が約20%安かったためで、5月に購入した住宅の価格は24万ユーロ(約3900万円)だった。「(セセーニャを)選んだのは、私たちでも手が届く価格だったからだ」という。

その代わりにデルガドさんは、8時からの仕事に間に合わせるために、毎朝午前5時前に起きて6時30分発のバスに乗る。この便を逃すと次のバスまで1時間待たねばならない。

セセーニャと同じように開発計画が行き詰まり、ゴーストタウンになっていた他の町も活況を取り戻している。マドリード東75キロのバルデルスは、当初3万人が住むことを想定して開発が行われたものの、不動産バブル崩壊で実際にはその4分の1しか建設されなかった。エンリケ・キンターナ町長によると現在の人口は6000人だが、マドリードからの移住者によって増加しており、今後4年でさらに50%増える可能性がある。

マドリード北100キロのベルヌイ・デ・ポレロス村郊外の開発地域も、6年前まではほとんど放棄されていたが、今では住宅の仕上げ作業が進むなどにぎわいを見せている。国家公務員のルシアさん(37)は4月に家を購入した。通勤の際はセゴビアの駅まで車で15分、そこから高速鉄道で28分。30回分の割引回数券は48ユーロだ。

不動産開発が息を吹き返したのは、金融危機で発生した不良債権を引き取る目的で設立された「バッドバンク」が2021年に住宅を9万7000ユーロから販売し始めたことがきっかけ。住民によると、4年後にはある住宅がその2倍の価格で転売された。

これまで比較的コンパクトな都市だったマドリードも、今やパリやロンドンのような大都市圏へと変貌しつつあり、通勤圏は行政の境界を越えて広がっていると、マドリード州政府の高官は指摘した。マドリード大都市圏の人口は現在700万人だが、今後15年で100万人増加すると政府は予測。マドリードでは現在、住宅が8万-10万戸不足し、不足が毎年1万5000戸ずつ増えている。政府は2028年までに11万戸を建設する計画だ。

一方でセセーニャも再び大きな夢を見始めている。

イタ市長によると、新たな不動産開発プロジェクトの許認可に向けた手続きを進めており、23億ユーロを投じる物流拠点と2200戸の住宅を建設し、地域に雇用をもたらす計画だ。

イタ氏は「これはドン・キホーテのような空想物語ではない。今回は過去から学びを得た。成長を目指すならば過去の教訓に学ぶのが基本だ」と、意欲をにじませた。

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Corina is a Madrid-based business reporter focusing on coverage of retail, infrastructure and tourism including some of Spain's biggest companies like Inditex and Ferrovial. She was previously a senior correspondent in Venezuela, where she reported the Chavez and later Maduro government's efforts to retain power and the effects on the economy.

Charlie is a Madrid-based reporter and editor. He coordinates and writes the major breaking news stories for Iberia, collaborating with beat and breaking news reporters to deliver fast and accurate information. He also edits enterprise stories on Iberia as well as reporting and writing his own stories. Before joining Reuters in 2022, he was briefly the Times and Sunday Times correspondent for Iberia. Before that, he worked for 11 years for Bloomberg News in Madrid, Buenos Aires and Caracas covering finance, politics and economic news including debt defaults, devaluations, economic crises and dozens of elections.

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