ジョージ・フロイドさん殺害事件から5年、各地で式典 トランプ政権から逆風も

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警察官によって殺されたジョージ・フロイドさんの死から5年を迎えた25日、アメリカ各地で市民らが追悼の意を表した。フロイド氏が育った街と命を落とした街では、特別な集会が開かれた。

25日には、遺族が出身地のテキサス州ヒューストンに集まり、フロイドさんの墓地近くで追悼礼拝を行った。礼拝は公民権運動家のアル・シャープトン牧師が主導した。一方、ミネアポリス市内でも複数の追悼行事が実施された。

フロイドさんの死を契機に、アメリカ社会では人種差別との「対決」が全国的に進むと期待されたが、ドナルド・トランプ大統領は、ミネアポリスを含む複数の都市で進められていた警察改革の見直しに着手しており、その機運は次第に薄れつつある。

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画像説明, 追悼礼拝でお互いに抱き合う参列者たち

米AP通信によると、25日には全米各地で数千人が、フロイドさん追悼のため集まった。警察改革や公民権運動の活動家らも参加したという。

ミネアポリスでは、フロイドさんが殺害された交差点で、毎年恒例の「ライズ・アンド・リメンバー・フェスティバル」が開催され、2020年3月25日の出来事を追悼した。イベントでは、朝の礼拝や夜のゴスペルコンサートなどが行われた。交差点は今では、「ジョージ・フロイド広場」と命名されている。

同フェスティバルを主催する非営利団体「ライズ・アンド・リメンバー(立ち上がって記憶しよう)」の共同代表で、フロイドさんのおばにあたるアンジェラ・ハレルソン氏は声明で、「今こそ人々が立ち上がり、私たちが始めた良い取り組みを継続すべき時だ」と述べた。

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画像説明, ミネアポリスの「ジョージ・フロイド広場」に描かれたフロイドさんを追悼する絵の前に、親族や地域住民が集まった

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画像説明, ヒューストンの墓地でも式典が行われ、フロイドさんの家族が参列した

フロイドさんが育ち、埋葬されているヒューストンでは、地元の団体が詩の朗読会や音楽パフォーマンス、地元牧師による演説などを開催した。

公民権運動の指導者でもあるアル・シャープトン牧師は、フロイドさんの遺族や友人、地元選出の議員らと共に記者会見と追悼礼拝を行った。出席者らは、フロイドさんの死を契機に始まった改革の継続を訴え、とりわけトランプ大統領に対し、連邦レベルでの警察改革合意を維持するよう求めた。

2020年5月の事件では、白人のショーヴィン巡査(当時)が取り押さえたフロイドさんの首を9分以上にわたり膝で押さえつけ、死亡させた。この様子を通行人がスマートフォンで撮影した。映像が拡散されたことで世界的な怒りの声が上がり、人種的な不正義と警察の過剰な暴力に対する抗議運動が世界各地で広がった。

ショーヴィン元巡査は、当時46歳だったフロイドさんを殺害した罪で有罪判決を受け、現在は禁錮22年の刑に服している。現場に居合わせた他の警察官らも、制止を怠ったとして有罪判決を受けている。

シャープトン牧師はソーシャルメディア「X」への投稿で、「フロイドさんの死は、長らく先送りされてきた制度的人種差別との対決を社会に迫り、数百万の人々が抗議のために街頭に立ち上がるきっかけとなった」と述べた。

また、「加害警官への有罪判決は、正義に向けた稀有な一歩だったが、我々の闘いはまだ終わっていない」と強調した。

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画像説明, フロイドさんの事件後、アメリカ全土で警察の暴力に対する抗議活動が盛んになった

フロイドさんの事件を受け、ジョー・バイデン前大統領の政権では、司法省がミネアポリスやルイヴィル、フィーニックス、ミシシッピ州レキシントンなど複数の地方警察に対する民事調査を開始した。調査の結果、各地の警察で制度的な不正行為が確認された。

司法省はその後、ルイヴィル市警およびミネアポリス市警と合意に達し、警察活動に関するデータ収集の強化、訓練の充実、説明責任の確保などを含む監視措置を導入した。

しかしトランプ政権は今月21日、これらの調査結果について「手法に欠陥があり、データも不完全だ」と主張。政権関係者は、司法省と地方警察との合意が「地元の警察を縛りつけている」として、警察改革合意を見直す必要があると訴えている。

他方、ミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長は今週、「今年署名した169ページにわたる同意命令の、すべての段落のすべての文に従う」と述べた。

トランプ大統領は政権復帰後、人種差別や性差別といった差別解消を目的とした「多様性・公平性・包括性(DEI)」政策にも矛先を向けている。政権初期には、連邦政府内のDEI関連施策を撤廃する大統領令に署名した。これらの施策の一部は、フロイドさんたちの死を受けて広がった「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命は大事)・サマー」と呼ばれる抗議運動を背景に導入されたものだ。

トランプ氏を含むDEI政策の批判者らは、この施策自体が差別を生む可能性があると主張している。ニューヨーク州にある陸軍士官学校ウエストポイントで25日に演説したトランプ氏は、軍におけるDEIの廃止について、「気が散る原因になる邪魔な要因を排除」し、「軍の本来の任務に集中させるものだ」と述べた。

一方、首都ワシントンのミュリエル・バウザー市長は今週、ホワイトハウス近くの道路に設置されていた「ブラック・ライヴズ・マター・プラザ」の表示を撤去した。ヒューストンでは、フロイドさんの肖像画が描かれていた有名な壁画が、建物の解体作業に伴い取り壊されたと、地元メディア「ヒューストン・パブリック・メディア」が報じている。

最近の世論調査によると、フロイドさんの死から5年が経過した現在、アメリカにおける黒人の生活に大きな改善があったと考える人は少ない。ピュー研究所が今月7日に発表した調査では、回答者の72%が「意味のある変化はなかった」と答えている。

また、ブラック・ライヴズ・マター運動への支持率も、2020年6月と比べて15ポイント低下して52%だったことが、同じ調査で明らかになっている。

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