ロンドン北部でユダヤ系男性2人刺される 警察はテロ事件と断定、容疑者拘束

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画像説明, 容疑者を拘束する警官ら(左)と、防犯カメラが記録した犯行場面。赤丸の男性が近くの人に刃物を向けているとみられる

イギリス・ロンドン北部ゴールダーズ・グリーンで29日、ユダヤ系の男性2人が刺された。警察は、イギリス国籍をもつ男性を殺人未遂の疑いで逮捕し、テロ事件と断定して捜査している。同国ではユダヤ系施設などを狙ったとみられる事件が相次いでおり、襲撃への非難や対策強化を求める声が強まっている。

ロンドン警視庁によると、午前11時16分にゴールダーズ・グリーン・ロードから分かれたハイフィールド・アヴェニューで刺傷事件が発生したとの通報があり、警官が急行した。

監視カメラの映像には、バス停の近くに立っていた人を男性が襲っているとみられる場面が映っていた。別の映像では、似た服装の男性が通りを走り、通行人を追いかけていた。

刺された2人は現場で手当てを受けたあと病院に運ばれた。容体は安定しているという。現地関係者らは、2人はシロミ・ランドさん(34)とモシ・シャインさん(76)だとした。

ロンドン警視庁は、ソマリア生まれで英国籍を持つ男性(45)を殺人未遂容疑で逮捕したと発表した。容疑者は駆けつけた警官らにも刃物を向けようとしたが、警官らは電気ショックを与えるテイザー銃を使って容疑者を取り押さえたという。この時にけが人は出なかったという。

警察はその後、警官の体に装着されたカメラの映像を公開した。警官らは容疑者に「地面に伏せろ」と繰り返し叫び、テイザー銃を使用。続けて「ナイフを捨てろ」と叫んでいる。

動画説明, 事件発生から容疑者拘束まで ロンドン北部でユダヤ人を刃物で襲撃、2人けが

ロンドン警視庁は容疑者について、「両手を見せることを拒み、暴力的で、明らかな脅威であり続けた」と説明。警官に取り押さえられている間も、警官を「攻撃したり刺したりしようとし続けた」とした。

ロンドン警視庁のマーク・ロウリー警視総監はこの日午後、現場で声明を発表。容疑者には深刻な暴力行為とメンタルヘルス(心の健康)の問題があったとした。

警視総監はまた、「進行中の捜査についてはコメントできないが、一部の個人が外国組織や敵対的な国家に代わって暴力行為を犯すよう、働きかけられ、説得され、金銭を受け取るなどしていることはわかっている」と述べた。

発言中、その場にいた人たちからは、「恥を知れ」、「あなたは失敗した」などとやじが飛び、辞任を求める声も上がった。

イギリスの対テロ警察を率いるローレンス・テイラー氏は、今回の襲撃を正式にテロ事件と認定したと発表した。

警視庁はこの日、ロンドン南東部サザークの建物で家宅捜索を実施しているとも説明した。この地区では前日28日午前8時50分、グレート・ドーヴァー・ストリートの住民が何者かと口論の末に「軽傷」を負う事件が起きており、捜査当局は今回の容疑者が関わった可能性があるとみている。この事件では、警官が駆けつけた時にはすでに、住民を負傷させた人物は立ち去っていたという。

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画像説明, 規制線が張られた現場付近(29日、ロンドン)

今回の事件を受け、キア・スターマー首相は、「反ユダヤ主義的な攻撃」は「全くもって許しがたい」とし、「我々のユダヤ系コミュニティーへの攻撃は、イギリスへの攻撃だ」と述べた。

首相は、国内のユダヤ系の人々の安全のために政府は十分な措置を講じているかと問われると、「警備体制の強化を検討」したいとし、ユダヤ系コミュニティーの保護に充てられている資金を増額する意向を示した。

また、「悪意ある国家の意向で行動する人物らへの対応」措置も必要だと述べた。過去の何件かの反ユダヤ主義的な攻撃事案では、敵対的な政権との関連が指摘されている。

国内最大のユダヤ系コミュニティーを代表するエフライム・ミルヴィス首席ラビ(ユダヤ教指導者)は、今回の事件について、「ユダヤ人だと外見でわかる人は安全ではないことと、はるかに多くの対策が必要だということを示している」と述べた。

そして、「私たちの国のすべての機関、すべてのコミュニティー、すべての指導者、すべての良識ある人が、意味ある行動をすべき時だ」と訴えた。

ロンドンのサディク・カーン市長は、ユダヤ系の人々が「恐怖の中で生活している」ことに対し、「怒り」、「ひどいことだと感じ」、「腹立たしく思っている」と述べた。

地元選出のサラ・サックマン議員はBBCの番組「ニュースナイト」で、今回の襲撃事件が「この国におけるユダヤ人への脅威が極めて現実的なもの」だということを示しているとし、「すべての人の安全を保証することはできない」と述べた。

自らもユダヤ系の同議員は、「自分の子どもたちを地元のシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)に連れて行くとき、つい彼らの手を少し強く握りしめてしまう。それは私に限ったことではない」と話した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の事務所は、Xで声明を発表。「この惨劇に立ち向かう」には、言葉だけでは「不十分」だと主張した。

イギリスではこのところ、ユダヤ系コミュニティーを標的とした事件が相次いでいる。

今年3月には、ゴールダーズ・グリーンのシナゴーグの駐車場で、ユダヤ系慈善団体が所有する救急車4台が放火された

今月も15日以降だけで4件、ロンドンのシナゴーグやイスラエル大使館付近などで放火とみられる事件や不審物の発見が続いている。

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