「人と違うところ武器に」 左手の指が少ない県岐阜商・横山が適時打
2025年8月11日12時20分
(11日、第107回全国高校野球選手権1回戦 県岐阜商6―3日大山形)
左打席に入ると、県岐阜商の7番打者、横山温大(はると)選手(3年)は右手でバットをしっかり握り、指が少ない左手で挟むように支えた。
「最後まで左手を離さないように。左手でしっかり押し込む」
1点を追う五回1死二塁。4球目の変化球に反応した。球を捉えた瞬間から、右手一本でバットを振り抜いた。鋭い打球で一、二塁間を破る同点の適時打。盛り上がるベンチの仲間を見て、塁上で笑顔がこぼれた。
「甲子園の大会まで低く強い打球を意識して挑んできた」
横山選手は生まれつき左手の人さし指から小指がない。「人とは違うところを武器にする」と猛練習に励み、春夏通算4度の甲子園優勝を誇る強豪校で、先発の座を勝ち取った。
■捕って投げる「自分で考えた」
兄の影響で野球を始めたのは小学3年生だった。中学では投手も兼任していたが、高校では外野手に専念する。
右投げだが、右手にグラブをはめて守る。ボールを捕ると、グラブを左手で抱え、瞬時に右手にボールを持ち替えて、投げる。手の入り口が広いグラブを丁寧に手入れし、中学時代から現在まで愛用している。
「中学1年のときに自分で考えた。何回も捕っては投げる、握り返すを反復してやりました」
右手に比べると、左手の力が弱いという。「左手の分までカバーできるように」と、右手を中心にダンベルやゴムチューブを使って鍛えてきた。
懸垂をする際はバーに左手首をひっかけ、右手で握る。藤井潤作監督は「自分で『大丈夫』と言って、工夫してやっている」と目を細める。
「人と違う分、人より努力しないといけない」と横山選手。投手時代に培った強肩を生かしつつ、独自の打撃技術をさらに磨いた。
■「恩返しができたかな」
この春に初めて背番号「17」をもらってベンチ入り。さらに最後の夏は「9」で、岐阜大会では強打のチームでもトップの打率5割2分6厘を記録した。チームの31度目の夏の甲子園出場に大きく貢献した。
野球をやっている中で、誰かに「無理だ」と言われたことはない。むしろ周囲の背中を押す声が、自信をつけてくれた。
「親とか周りの人たちが肯定してくれる。『温大ならできるぞ』という言葉をたくさん言ってくれた」
それは高校でも変わらない。「ハンデとか関係なく接してくれるので、自分的にはありがたい」と感謝する。
目標は、自分のプレーで勇気と希望を与えること。そして、今まで支えてくれた人たちへ。「ここで、恩返しができたかな」。4打数2安打1打点。人一倍積んできた努力の成果を、大観衆の前で発揮し、2回戦へ駒を進めた。(室田賢)