再審見直し法の成立 冤罪の救済には不十分だ

再審を見直す改正刑事訴訟法の成立を受け、画面越しに記者会見する袴田巌さんの姉の秀子さん=東京・霞が関の司法記者クラブで2026年7月17日、仲間礼撮影

 冤罪(えんざい)被害者の苦しみを真摯(しんし)に受け止めた制度とは言い難い。これでは迅速な救済という本来の目的は果たせない。

 改正刑事訴訟法が成立した。再審制度が見直されたのは戦後の刑訴法制定以来、初めてである。

再審制度を見直す改正刑事訴訟法が賛成多数で可決、成立した参院本会議=国会内で2026年7月17日午前11時37分、平田明浩撮影

 再審請求を審理する手続きに一定のルールができる。これまでは具体的な規定がなく、担当裁判官によって対応が異なる「再審格差」が指摘されてきた。

Advertisement

 だが、救済の実効性は疑わしい。まず問題になるのは、証拠開示の範囲が限定されかねないことだ。裁判所が自らの判断に必要な証拠の提出を検察に命令する規定が設けられたが、「再審請求の理由と関連する証拠」に限られる。

 2月に再審開始が確定した滋賀県の強盗殺人事件では、裁判所の勧告を受けて検察側から開示された写真のネガフィルムが決め手となった。

証拠開示が狭まる恐れ

 裁判所の判断で幅広い証拠開示を促す勧告はこれまで通りできるものの、命令制度があるからという理由で検察が応じなくなり、かえって開示の範囲が狭まる恐れがある。

 そもそも請求人側は証拠の全容が分からない。国会で証拠リストの開示を制度化するよう求める声が上がったにもかかわらず、政府はかたくなに応じなかった。

 実際に証拠開示が進むかは裁判所と検察の対応次第になる。証拠が幅広く出されるように、裁判所は命令対象となる範囲を柔軟にとらえるべきだ。検察には真摯に応じる姿勢が求められる。

 請求人側にマイナスとなる規定も加わった。開示された証拠を再審請求の手続き以外で使うことが罰則付きで禁じられた。

 再審の状況を伝えようとメディアに証拠を提供してきた弁護士らの活動が、萎縮する恐れがある。再審請求の手続きは非公開で行われるため、報道を通して捜査の問題などが示される意義は大きい。国民の「知る権利」に関わる。

 政府は関係者のプライバシーを保護するためと説明するが、個別に配慮すれば足りるはずだ。一律に禁止する必要はない。

 再審開始決定に対する検察の不服申し立て(抗告)が温存されたことも容認できない。審理を長引かせ、救済を妨げると批判されてきた。

 国会審議に先立つ自民党の事前審査で原則禁止とされたが、「十分な根拠」があれば抗告できる。これまでと何も変わらない可能性もある。

 冤罪事件を生み出してきた検察の責任は重い。にもかかわらず、検察官が要職を占める法務省は再審制度の見直しに消極的だった。先行した超党派の国会議員連盟の動きを制するように、法務省主導で急いで取りまとめたのが今回の改正法だ。

 議連案は柔軟な証拠開示を可能としており、検察抗告も認めていない。改正法が被害者救済の実効性において見劣りするのは明らかである。

検察の反省が見えない

 検察の不誠実な姿勢は改正法の国会審議中にも明らかになった。

 福井市の女子中学生殺害事件で前川彰司さんの再審無罪を決定付けた捜査報告書は、1審段階で警察から検察に出されていた。複数の検察官がその存在を把握していたにもかかわらず、裁判や再審請求審で有罪の主張を続けていたという。前川さん側に報告書が開示されたのは、最初の再審請求から19年後だ。

 最高検は「国民の検察に対する不信を招いたことを真摯に反省する」とのコメントを出したが、最初に頭を下げるべき相手は前川さんではないか。冤罪で人生を台無しにしたことへの反省が見えない。「公益の代表者」としての責任を自覚すべきだ。

 再審見直しのきっかけとなったのは袴田巌さんの冤罪事件だった。死刑確定後、最初の再審請求から再審無罪まで43年かかり、長期拘束が心身をむしばんだ。

 改正法成立後、姉の秀子さんは「もう少しまともな改正になると思っていたが、がっかり」と無念さをにじませた。冤罪被害者らの思いに応えられていないことを重く受け止める必要がある。改正法を通した国会も責任を免れない。

 改正法の付則には施行から5年ごとに制度のあり方を検討するという条項が盛り込まれた。再審は人権救済の「最後のとりで」である。5年を待たず見直すべきだ。

関連記事: