部活顧問「人生を奪われ、楽しいことはひとつもない」 妻は「部活未亡人」化、離婚秒読みの教員も

(写真はイメージ/撮影・写真映像部・和仁貢介) この記事の写真をすべて見る

 長時間勤務などで、教員の仕事が「ブラック教職」と言われるようになって久しい。その大きな要因の一つが部活動だ。顧問を務める一部の教員からは、悲痛な声があがる。

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部活で1カ月休みなし

「楽しいことなんてひとつもない。部活動にかかわること、すべてがつらい。授業の準備をしたいです」

 東京都の公立中学校に勤めるヒロシさん(仮名、30代)は、そう語った。

 ヒロシさんはある運動部の顧問だ。

 教員はただでさえ業務量が多く、部活指導中は仕事ができないため、早朝出勤が日課になった。平日の部活は週2、3回。授業が6時間目まである日だと、午後4時から6時半ごろまで部活動を指導する。退勤は8時半ごろだ。

 休日も部活で土日のどちらかがつぶれる。特に憂鬱なのが5月から7月にかけての大会シーズンだ。土曜に練習、日曜に試合、会場の準備に駆り出されることもあり、1カ月間は休みがない。

学校や管理職から「打診」

 AERA dot.とAERA編集部が行った部活動顧問に関するアンケートには、109件の回答が寄せられ、回答者の6割が「学校・管理職からの打診」で部活動の顧問を務めた。そのうち、「進んで引き受けた」教員は4割だった。

 部活動顧問経験者に活動にかかわる時間を尋ねたところ、週10~20時間は38%、20時間以上は33%だった。「負担が大きい」「私生活が犠牲になっている」と答えた人は実に77%にもなった。

 実はヒロシさんは、担当する部活の競技経験はほとんどない。顧問になって競技の教本を購入し、部活動や仕事の合間にルールを学んだ。練習メニューはインターネットの動画を参考に考えた。部員に、「以前の顧問の先生はどんなことをやっていた?」と聞くこともある。

 現在の学校に異動したとき、管理職から「どの部活の顧問を希望しますか」と尋ねられた。だが、希望を通すための仕組みではまったくないという。

AERAが2025年3月実施したアンケートから

顧問は「ものすごく断りづらい」

「希望する部活動の顧問に空きがなければ、希望とは関係なく、異動した顧問の空きを埋めるかたちで配置されます。できるだけ楽な部活の顧問をしたかったのですが……」(ヒロシさん)

 文部科学省が定める学習指導要領は、部活動を「学校教育の一環」と位置づけるが、あくまでも「教育課程外」の活動だ。そのため、部活動顧問を断る教員もいる。

「ただ、数は少ない。ものすごく断りづらいですから」(同)

AERAが2025年3月実施したアンケートから

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AERAが2025年3月実施したアンケートから

 断ると、周囲から白い目で見られるのではないか、浮いてしまうのではないか、という不安がある。

「教員は部活動顧問はやらざるを得ないという空気があります」(同)

 顧問としての業務がほぼ“ボランティア”になる実情も不満だ。休日に部活動を行えば「部活動手当」が支給されるが、1時間約1千円の薄給だ。他校に練習試合に出かけ、1日拘束されても最大3時間分しか手当は出ない。自治体の部活動のガイドラインが休日の活動を「3時間程度」と定めているためだ。

 教員のなかには自らの「趣味」のように部活動顧問を務める人もいるという。

「僕はそういうかかわり方は、はっきりと否定したい。部活動顧問は『趣味』でもなく、ボランティアでもなく、『仕事』です。ほぼ無償で働かせるのはどう考えてもおかしい(同)

部活動は「時間外勤務」

 教員の勤務時間と部活動は密接に関係する。地方公務員の勤務時間は7時間45分だが、教員勤務実態調査(文部部科学省が実施/2022年度)によると、中学校教員(教諭)の平均「在校等時間」は11時間1分。部活動の活動日数が多いほど在校等時間は長く、活動日数が週0日の場合は10時間12分(平日1日)だが、7日の場合は12時間4分(同)だった。

 部活動にかける時間は、法的な勤務時間には含まれず、教員が「自主的」に行う時間外勤務として扱われる。公立学校の教員は「教職調整額」を除き、部活動業務に対する残業代は支払われない決まりだったが、政府は今年2月、教職調整額を現在の月給の4%から段階的に10%へ引き上げる給特法の改正案を閣議決定した。

 だが、部活動を「労働問題」の視点から研究する早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史教授は、「実際の先生の労働時間からすると、10%では全く足りません」と指摘する。

「時給」は最低賃金を下回る

 休日に部活動業務(3時間程度)を行うと、3000円(都立学校の場合)の「特殊業務手当(部活動手当)」が支給されるが、「時給換算すると都の最低賃金を下回る水準だ」(中澤教授)。

 加えて部活動は「教育課程外」にあたり、顧問が過労で倒れたとしても、十分な補償を受けられない恐れもある。

「一般労働者が職務で疾病を患ったり、死亡した場合、労働災害補償を申請しますが、部活動の場合、どこまでが教員の『公務』なのか、裁判で争われたケースもあります」(同)


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2025年3月AERAが実施したアンケートから

 中部地方の中学校教員・ダイスケさん(仮名、40代)は、2児の父だ。部活動のために、一時期家族を犠牲にしていた実感がある。

「私の妻は、いわゆる『部活未亡人』状態でした」

 ダイスケさんは書道や美術といった文化部出身。だが、割り振られた部活動は剣道や野球、テニスなど運動部が多かった。平日は朝から晩まで職場にいて、週末は部活動でつぶれた。

「部活で疲れて帰ってくる毎日でストレスが溜まり、家族にあたってしまうこともありました。休日も家族とは出かけられず、部活に行くほかなかった」(ダイスケさん)

 ほとんど家にいることができず、自分の子どもの面倒も見られず、育児は妻にワンオペ化していた。妻にとっては「つらい毎日」だったと思う。

「限界」を感じ、ダイスケさんは10年ほど前に部活顧問を辞めた。

「お互いに教員であればまた違うのかもしれませんが、こんな働き方は理解しがたいですよね。部活をきっかけに離婚してしまうケースもあるようです」(同)

「家族が精神を病んだ」ケースも

 アンケートでも、部活動で家庭を犠牲にしているという教員の声は少なくない。

「土曜日は子どもを保育園や学童保育に預けることになる。子連れで部活の指導をすることもあるが、教員の世界では別に珍しいことではない。子どもに習い事をさせたくても、多忙で断念することが多い」(大阪府、40代、女性)

「土日に休みが全く取れない。部活動手当は本当に乏しい。家族には愛想をつかされ、離婚秒読み」(千葉県、50代、女性)

「家庭を顧みる時間がなく、家族が精神を病んだ」(東京都、60代以上、男性)

「平日は帰宅が遅く、休日も出勤。家族と疎遠になった」(福岡県、60代以上、男性)

「休日は1日中、練習試合。その後、18時に学校戻り、自分の仕事をしたりするので、プライベートの時間は全くない。家庭が崩壊する」(三重県、30代、女性)

「自分の時間を失い、パートナーを探せない」(山形県、40代、男性)

「部活動で運動場を駆けずりまわり、納得いく授業を準備できない。私生活に割ける時間はほとんどない。健全な状態ではないと思います」

 先のダイスケさんは、実感を込めてこう話す。

「部活顧問を引き受けたことで結婚の機会を失った教員もいると思います。部活によって教員は人生を奪われる。それが実感です」

(AERA編集部・米倉昭仁)

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