EU、ロシア資産の無期限凍結で合意 対ウクライナ融資計画への活用を念頭
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欧州連合(EU)加盟国は12日、ロシアによるウクライナ全面侵攻開始以来EU域内で凍結されてきた最大2100億ユーロ(約38兆円)のロシア資産を、無期限に凍結することで合意した。
凍結されたロシア資産の大半は、ベルギーにある国際決済機関「ユーロクリア」に保管されている。欧州各国の首脳は来週の首脳会議で、この凍結資産をウクライナの軍事・経済資金調達への融資にあてる計画をまとめたい考えだ。
ロシアによるウクライナ全面侵攻開始から4年近くになる中、ウクライナは資金不足に陥っている。今後2年間では、推定1357億ユーロ(約24兆8000億円)が必要になるとされる。
欧州はその3分の2の資金を提供することを目指しているが、ロシア当局はEUがロシア資産を盗んでいると非難している。
ロシア中央銀行は12日、EUの融資計画への対抗措置として、ユーロクリアをモスクワの裁判所に提訴したと発表した。
ロシア資産は、2022年2月のウクライナ全面侵攻開始から数日以内にEUで凍結された。そのうち1850億ユーロ(約33兆8000億円)がユーロクリアに保管されている。
EUとウクライナは、ロシア資産はロシアに破壊されたものの再建に使われるべきだと主張している。EUはこれを「賠償ローン」と呼び、ウクライナ経済を900億ユーロ規模で支える計画を立てている。
「ロシアの凍結資産を、ロシアが破壊したものを再建するのに使うのは当然だ。その資金は我々のものになる」と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は述べている。
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、ロシア資産を活用することで、「ウクライナに、将来起こり得るロシアの攻撃から効果的に自衛する力を与える」ことになると述べた。
ロシアが凍結資産をめぐり法的措置を取るだろうと、EUは予想していた。欧州委員会のヴァルディス・ドムブロウスキス委員(経済担当)は12日、EUの金融機関は「法的手続きから完全に保護されている」と述べた。
ロシア凍結資産の活用をめぐり、不満を抱いているのはロシア政府だけではない。
ユーロクリアの拠点であるベルギーは、事態が悪化した場合に巨額の負担を負うことになることを懸念している。ユーロクリアのヴァレリー・ユルバン総裁は、ロシア資産の活用は「国際金融システムの不安定化」につながる可能性があると指摘している。
ユーロクリアは、ロシア国内でも推定160~170億ユーロ相当の資産を凍結している。
ベルギーのバルト・デウェーフェル首相はEUに対し、「合理的かつ妥当で正当な条件」を提示しなければ、この賠償計画は受け入れないとしている。首相は、ベルギーに「重大なリスクをもたらす」場合に法的措置を取る可能性を排除していない。
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EUは18日の首脳会議に向けてぎりぎりまで、ベルギーが受け入れられる解決策を模索している。
EUはこれまで、ロシア資産そのものに直接手をつけることは控えてきた。しかし昨年からは、その資産から生じた「偶発的利益」をウクライナへの支援にあてている。昨年は、EUのウクライナへの支援総額は37億ユーロに上った。ロシアは制裁下にあるため、その資産から生じる利息を合法的に使用できるとみなされている。利息分はロシアの主権国家としての資産にはあたらない。
しかし2025年には、ウクライナに対する国際的な軍事支援が大幅に減少した。ドナルド・トランプ米大統領の下でアメリカがウクライナへの拠出をほぼ停止したことで、欧州は不足分を補うのに苦慮している。
現在EUは、ウクライナへの900億ユーロの拠出を目的とした計画を二つ提案している。この額は、ウクライナが必要とする資金の3分の2を賄う規模だ。
2案のうちの一つは、EU予算を保証として、資本市場で資金を調達するというもの。ベルギーはこちらの案を好んでいるが、EUでの全会一致の承認が必要で、ハンガリーやスロヴァキアがウクライナ軍への資金提供に反対しているため、実現は難しいとみられる。
残る案は、ロシア資産をウクライナへの融資にあてるというもの。資産はもともと、証券のかたちで保管されていたが、現在は大半が現金化されている。当該資金はユーロクリアのものとして欧州中央銀行に保管されている。
欧州委員会はベルギー側の懸念は正当であると認めつつ、そうした懸念には対応済みだと確信しているとしている。
計画では、EU域内で凍結されている2100億ユーロのロシア資産全額を保証することで、ベルギーは保護されるという。
ユーロクリアがロシア国内の資産の損失を被った場合、EU域内にあるロシアの清算機関の資産で相殺されることになると、欧州委員会関係筋は説明した。
ロシアがベルギーを直接訴えた場合、ロシアの裁判所の判決はEU域内では効力を持たない。
今回EUが、欧州で保管されているロシア中央銀行の資産を無期限に凍結することで合意したのは、重要な進展といえる。
これまでは、凍結期間を延長するには6カ月ごとに全会一致で承認する必要があり、ベルギーはそのたびにリスクにさらされていた。
EU各国の大使は、EU条約第122条にもとづく緊急条項を用いて、「EUの経済的利益に対する差し迫った脅威」が続く限り、あるいはロシアがウクライナへの戦争賠償を全額支払うまで資産を凍結するとした。
スウェーデンのエリザベス・スヴァンテッソン財務相は、この合意は「ウクライナ支援の強化を可能にし、我々の民主主義を守る重要な一歩」だと述べた。
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ベルギーは、自分たちは今もウクライナの強固な同盟国であると強調する。ただ、EUの計画には法的リスクがあり、事態が悪化した場合に、自分たちがその影響に対処させられるのではないかと懸念している。
ベルギーで普段は意見が対立している政治勢力も、この件についてはデウェーフェル首相の下で結束している。同首相は、計画を受け入れるようほかのEU加盟国から圧力を受けている。
デウェーフェル氏は12日、イギリス・ロンドンでキア・スターマー首相と会談し、来週にEUは「非常に重要な決定」を下すだろうと述べた。また、ベルギーとイギリスは「ウクライナが自由で民主的で主権国家であり続けられるよう、支援できるという確信を得る」ために連携していくと付け加えた。
EUは融資そのものに十分な保証を確保できると考えているが、ベルギーはいっそうの損害や罰則にさらされるという、追加的なリスクを懸念している。
「ベルギーの経済規模は小さく、国内総生産(GDP)は約5650億ユーロだ。もし1850億ユーロの負担を負わされたらどうなるか、想像してほしい」と、ルーヴェン大学のフェールレ・コラエルト教授(金融法)は言う。
同教授は、ユーロクリアにEUへの融資を認めることは、EUの銀行規制違反だとも考えている。
「銀行は資本と流動性の要件を順守しなければならず、すべてのことを一つに託すべきではない。EUは今、ユーロクリアにまさにそれを求めている」
「なぜこうした銀行規制があるのか。それは銀行を安定させるためだ。万が一、問題が起きた場合、ベルギーがユーロクリアを救済しなければならなくなるだろう。だからこそ、ユーロクリアに対して隙のない保証を確保することが、ベルギーにとって非常に重要だ」
バルト三国やフィンランド、ポーランドなど、ロシアに地理的に近いEU加盟7カ国は、一刻の猶予もないと警告している。これらの国々は、凍結資産を活用する計画を「財政的に最も実現可能で、政治的にも現実的な解決策」ととらえている。
「これは我々の運命に関わる問題だ」と、ドイツの保守派有力議員ノルベルト・レットゲン氏は言う。「もし失敗すれば、その後どうすればいいのか分からない。だからこそ、1週間のうちに成功させなければならない」。
反発するロシアは、自国資金に手をつけないよう主張している。一方で欧州の指導者らは、アメリカが独自の和平計画の一環として、ロシアの凍結資産を別の用途に活用しようとしているのではないかとの懸念も抱いている。
ゼレンスキー大統領は、復興基金設立のためウクライナは欧州やアメリカと連携しているとしている。ただ、アメリカがロシアと将来的な協力関係について協議していることも、ゼレンスキー氏は認識している。
アメリカが提案した和平計画の初期草案では、ロシアの凍結資産1000億ドルをアメリカが復興資金として活用し、その利益の50%をアメリカが取得する構想が示されていた。また、欧州が1000億ドルを追加拠出することや、残りの凍結資産を米ロ共同投資プロジェクトにあてることも含まれていた。
EU関係筋によると、12日に合意したロシア資産の無期限凍結が承認されれば、誰かが資金を持ち出すことが難しくなるという。つまり、アメリカがこの資金を活用するには、欧州に巨額の負担を強いる計画についてEU加盟国の過半数を説得する必要がある。
EU加盟国の中でロシアに最も近いとされるハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、欧州の指導者たちは「自分たちを規則より上位に置き、法の支配を官僚の支配に置き換えている」と述べた。