ウクライナ各地で反政府デモ、汚職捜査機関の権限を弱める法が成立で

ウクライナのゼレンスキー大統領が汚職捜査機関の権限を弱める法案に署名し、市民の反発を呼んでいる。キーウなどではロシアの全面侵攻開始以降で初めて、大規模な反政府デモが発生した。

  ゼレンスキー氏は23日未明のオンライン演説で、汚職捜査から「ロシアの影響」を排除する必要があり、国外に逃げた元政府職員が関与するものも含め多くの事件が未着手のままにされていると主張、署名の正当性を訴えた。汚職捜査機関のトップ、検事総長とも話したと明らかにした。

  「汚職対策のインフラは今後機能するようになる」とゼレンスキー氏は述べ、「ただし、ロシアの影響がなければの話で、それを排除する必要がある。正義が今以上に必要だ」と続けた。反政府デモに対する言及はなかった。

  だが、国家汚職対策局(NABU)と特別汚職対策検察(SAPO)の独立性を剥奪し、検事総長の監督下に置くとする決定は、ウクライナ支援国からの反対と市民の非難を招いた。22日夜にはキーウ、リビウ、オデーサで数百人がデモに参加した。検事総長は大統領が任命する。

  ゼレンスキー氏の署名に先立ち、このような動きは高官レベルの汚職対策にブレーキとなり得ると、野党や主要7カ国(G7)から懸念が寄せられていた。NABUとSAPOは、ウクライナに資金を提供した西側の要請で、いずれも10年前に設立された。

汚職捜査機関の権限を弱める法に反対する市民のデモ(22日、キーウ)

  キーウではほぼ毎日のようにロシアのミサイルやドローンによる攻撃がある。それにもかかわらずデモが起きたというのは、ゼレンスキー氏が側近らで固める少数のグループに権力を集中させようとしていることへの市民の反発の大きさを物語る。ウクライナは兵器供給と金融支援の継続を西側、とりわけ欧州連合(EU)諸国に要請しているさなかでもある。

  大統領執務室に近いキーウ中心部に集まった群衆らは、「ロシアのようになりたいのか」などと書かれたポスターを掲げていた。

深刻な懸念

  西側を中心とした陣営のウクライナ支援に揺るぎはないが、汚職対策が大きく後退すれば、今後の支援に影響が出る恐れもある。さらに、ウクライナのEU加盟手続きが停滞し、EUとのビザなしの往来が停止となるリスクも出てくる。

  法成立に先立つ21日、ウクライナ検察はNABUとSAPOの職員に大規模な家宅捜索を実施し、支援国の間に懸念が広がっていた。検察の発表によると、ウクライナ法執行機関職員の身元に関するデータをロシアの情報機関に送付した疑いで、NABUの職員1人が拘束された。

  この家宅捜索では少なくともNABUの職員15人が標的とされ、G7の大使は「深刻な懸念」を表明。大使らは、この展開についてウクライナ政府と協議する意向を示した。在ウクライナ米国商工会議所は発表文で、ゼレンスキー氏に法案に署名しないよう呼び掛け、「汚職捜査機関の独立性を支持」し続けるよう求めていた。

原題:Zelenskiy Weakens Anti-Graft Agencies, Sparking Ukraine Protests(抜粋)

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