タイ・カンボジア国境の軍事衝突 「戦争へ向かう可能性」とカンボジア暫定首相
タイとカンボジアの双方の軍による、国境の係争地での衝突は25日、2日目に入った。各国の首脳が戦闘停止を呼びかける中、少なくとも16人が死亡し、10万人以上が家を追われている。
こうした状況を受け、タイのプームタム・ウェーチャヤチャイ暫定首相は25日、「戦争へ向かう」可能性があると警告した。
タイとカンボジアの衝突は24日朝、国境の係争地で勃発。両国間の1世紀以上にわたる対立が、劇的にエスカレートした。
タイのウボンラーチャターニー県とスリン県での衝突では、数十人が負傷、10万人以上の民間人が家を追われている。
カンボジアのオッドーミアンチェイ州では、約1500世帯が避難している。
隣国マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、両国の指導者に戦闘を即時停止するよう求めたと明らかにした。
「タイとカンボジアの両政府が、この方向で前進することについて検討すると、前向きな姿勢を示しているので、それを歓迎する」と、アンワル首相は24日、フェイスブックに投稿した。マレーシアは今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めている。
しかし、アンワル氏が楽観的な見方を示す中、両国の衝突は25日にかけて夜通し続いた。
タイは、これまでに民間人14人と兵士1人が死亡したと発表している。
カンボジアの地方当局は、オッドーミアンチェイ州で少なくとも1人の民間人が死亡したとしている。
タイ・スリン県では、スポーツ複合施設が避難所に転用され、子供や高齢者を中心に避難者が集まった。24日に目撃したロケット弾や砲撃に、今も動揺していると、避難者たちは語った。
1980年代のカンボジア内戦で繰り返し砲撃されたという避難者の1人はBBCに対し、今回の衝突は自分が経験してきた中で最もひどいものだと話した。
アメリカも、「敵対行為の即時停止と、民間人の保護、紛争の平和的解決」を呼びかけている。
米国務省のトミー・ピゴット報道官は定例会見で、「我々は(中略)タイとカンボジアの国境で暴力行為が激化していることを、深く懸念している。また、民間人に被害が出ているとの報道を、とても悲しんでいる」と述べた。
カンボジアとタイ両国と政治的・戦略的な関係を持つ中国も、「深い懸念」を表明。両国が対話と協議を通じて、問題を解決することを望んでいるとした。
オーストラリア、欧州連合(EU)、フランスも和平を呼びかけている。
国連安全保障理事会は25日にも、タイとカンボジアの紛争に関する緊急の会合を開く予定。
カンボジアのフン・マネット首相は24日、安保理宛ての書簡の中で、安保理が紛争に介入して「タイの侵略行為を止める」よう求めた。
タイとカンボジアは互いに、24日に最初に攻撃を開始したのは相手側だと非難し合っている。
タイ側は、カンボジア軍が国境付近に展開するタイ軍を監視するためにドローンを飛ばしたことで衝突が始まったと主張する。
一方でカンボジアは、タイ軍が過去の合意に違反して、国境付近にあるクメール王朝時代のヒンドゥー教寺院へと進軍したことで衝突が起きたとしている。
タイとカンボジアの係争は100年以上前、フランスによるカンボジアの植民地支配後に、両国の国境が画定された時期にさかのぼる。
両国の関係が正式に敵対的になったのは2008年で、カンボジアが係争地にある11世紀の寺院を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録しようとしたことが発端だった。この動きに対し、タイ側は激しく抗議した。
それ以来、両国の間では断続的に衝突が発生し、兵士や民間人に死傷者が出ている。
両国の関係は、今年5月の武力衝突でカンボジア兵1人が死亡して以降、過去10年以上で最悪の状態にある。