【野球】なぜ阪神・藤川監督と広島・新井監督の“バトル”は遺恨の様相を呈したのか 評論家の視点

 「阪神3-1広島」(18日、甲子園球場)

 広島・新井監督は試合後、おもむろに語り出した。

 「前回ああいうことがあって、こちらとしては謝罪もしていたけど、ああいう風に来られたら、自分もチームを預かる者として、年長者として、腹に据えかねるものがあった」

 4月20日の阪神-広島戦は、広島が連勝して迎えた3連戦最終戦だった。阪神が5点をリードした八回、広島の5番手でドラフト3位の新人右腕・岡本が、佐藤輝と前川に安打を許した1死一、二塁の場面で、坂本の頭部に死球を与えて危険球退場となった。

 マウンドで帽子を取って謝罪する岡本に向け、坂本は手を挙げて『大丈夫』と意思表示したが、一塁ベンチを出た藤川監督は激高していた。本塁付近で広島ベンチに向け、手で『来い!』というしぐさを何度も見せた。呼応する形で新井監督も三塁ベンチを出たが、その表情は戸惑っているように見えた。

 初球だった。捕手・石原は外角でミットを構えていたが、135キロのカットボールがすっぽ抜けた。開幕前、NHKの番組内で広島投手陣の阪神に対する死球数の多さに触れていたという“伏線”も影響したのだろうか。藤川監督は自らの頭を指さしながら怒り、新井監督は手を挙げて謝罪の意を示した。

 阪神OBの中田良弘氏は言う。「藤川監督は投手出身。狙ったか、狙ってないか。すっぽ抜けたのか、そうでないのか。それは分かるはず。しかも、当ててしまった球は真っすぐじゃなくて変化球。故意に狙うなら真っすぐを選ぶはずで、あの場面を何度見ても、俺は藤川監督の初動を『あれっ』と思うね。確かに頭への死球だから、選手を守ろうという気持ちは分かるよ。でも、その坂本が狙われたものでないと判断し、大丈夫だと言って、監督を制しているんだから」と述べた。

 その時以来の再戦となった5月16日のカード初戦。試合前に岡本と石原が坂本の元に出向き、改めて謝罪していた。試合開始前直前のメンバー表交換。藤川監督は笑顔で歩を進め、新井監督と視線を合わせようとしたが、新井監督は目を合わせずに握手。藤川監督は本塁ベース付近で直立して待っていたが、新井監督は審判団と握手を交わすと、きびすを返してベンチに戻った。

 2戦目。この日も藤川監督は新井監督と目を合わせようとしたが、新井監督はあえて視線を交わらせなかった。新井監督の気持ちを感じ取ったのだろう。藤川監督は全員と握手した後、この日は自身が先にその場を去った。

 試合前、関係者による仲裁、説得があったというような情報が流れた3戦目。新井監督は今カード初めて目線を合わせて握手し、試合後に口を開き、冒頭の言葉を発して続けた。

 「ルーキーだしね。外の変化球がすっぽ抜けてしまったので、そこについても謝罪はしていたんだけどね」。広島ベンチからヤジが飛んでいたという点については「それは一切ないです。一番近くにいた坂本君が一番分かってくれていると思います」と真っ向から故意死球と挑発的なヤジの存在を否定し、藤川監督の態度が自身の態度を硬化させた理由だと説明した。

 上下関係を重んじる日本ではあるが、勝負の世界において年齢差は関係ないと思う。新井監督が言う「チームを預かる者として」という部分に納得はできるが、「年長者として、腹に据えかねるものがあった」という発言には賛同しかねる。故意や悪意ではなかったにしても、阪神は当てられた側という側面を見れば、藤川監督が死球当日に怒りの色を見せた点は理解できる。

 3戦目に目を合わせて握手したことについて新井監督は「いつまでも、とは思ってなかった。私が取った行動に対して不快に思われたファンの方とか、心配していただいたファンの方には申し訳ないと思います。もうこれで終わりです」と一連の出来事に一線を引く思いを打ち明けた。

 一方、藤川監督は試合後の会見で、メンバー表交換時の目を合わせた握手について質問されると「ここでお話しすることではないし、それがね、質問に上がること自体が、会見としてはふさわしくないんじゃないかなと。ゲーム後の会見としてはできたら、その質問は控えて頂けるとありがたいですね。今の質問に関しては、ファンの方もたくさんいらっしゃいますから、そこはあんまりするべきじゃないのかなと思いますけどね」と自身の思いを深く説明することはなかった。

 新井監督の発言を持って、一連の死球騒動が幕引きとなったのかは、藤川監督が胸の内を明かしていないだけに分からない。ただ、中田氏は今回の回答を含めた藤川監督の開幕後の発言に違和感を覚えている。「藤川監督は質問に対して誠実に答えてるとは思えないんだよね、ずっと。個人個人の考えはあっていいけど、今は監督という立場。全部の質問に対して100%正直に答えろとは思わないけど、なんかぼやかすというか、はぐらかすような答え方が多いよね。確かに、監督は勝つことが一番の仕事だとは思うけど、自分の年俸は誰から支払われてるのか。ファンでしょって。采配、戦術、心境など、いろんなことを知りたいというファンの思いは置き去りでいいのかなって思う。自分も解説者時代には取材する側にいたんだし。今回の件の発端は広島側の死球でも、より注目が集まったのは藤川監督の行動なんだからさ。説明する責任はあると思うんだけどな」と語り、今後の発言内容に変化が表れることを求めた。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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