「占領地のウクライナの子どもを『ロシア人』として再教育しているのか?」と尋ねると…ロシアメディア幹部の“意外な答え”(文春オンライン)|dメニューニュース

〈 「彼女の体には拷問の痕があり、DNA鑑定でようやく…」潜入した女性記者が死亡、ロシアが支配するウクライナ“占領地”の実態 〉から続く

 ロシアによる軍事侵攻からまもなく4年。ロシアが占領したウクライナの街で一体何が起きているのか? NHKスペシャル「 臨界世界 戦慄の占領地 “ロシア化”の実態 」(1月25日夜9時放送)。海外メディアが入ることすら困難な支配地域の、知られざる現実が見えてきた。(寄稿:NHK木村和穂、NHK松宮健一/全2回の2回目、 前編 を読む)

NHKスペシャル「臨界世界 戦慄の占領地 “ロシア化”の実態」 ©NHK

◆ ◆ ◆

ロシア占領地に入れないのか?

 ウクライナ側からの取材が無理なら、残された道はロシア側からしかない。しかし、どうやるか。

 私たちNHK取材班が占領地に入るという選択肢は、早々に諦めざるを得なかった。取材意図をすべて伝えた場合、ロシア外務省から取材許可証が出る可能性はかなり低いし、もし申請内容と実際の取材内容にズレがあることが発覚すれば、スパイとして拘束される可能性もある。また、仮にロシア側から許可が出たとしても、ロシア政府に「取材許可」を求めるという行為自体、ロシアの占領にお墨付きを与えかねない行為であり、ウクライナ政府から抗議をうける可能性もある。

 突破口を求めて様々な関係者にあたるなか、BBCやCNNなど西側のメディアのロシア取材を何度も支援してきたあるロシア人のプロデューサーのアドバイスがヒントとなった。

「いまロシアで何かをやろうと思うなら、可能な限りオフィシャルな方法でやる必要がある。裏道は存在しない。すべてFSB(ロシア連邦保安庁)に筒抜けになる」

 つまり、すべて政府に許可を取り、正面ルートで取材をするしか方法はないというのだ。仮に政府の許可を取らず、秘密裏に現地のロシア人と組んで取材を行った場合、もし発覚すればそのロシア人は「外国勢力との共謀」と認定されて逮捕される。ロシア人たちはそのリスクを理解しているため、政府のお墨付きがない仕事はそもそも受けないというのだ。

「これは金の問題ではく、命の問題だ。ロシア政府を甘く見ない方がよい、彼らは本気だ」

 私たちはアドバイスに従うことにした。


Page 2

 そして占領地の政府、学校、メディアなどに、取材趣旨を明確に記した正式な取材依頼をメールで送った。

 すると次々と返信が来るではないか。60件ほどの送信に対し、1週間あまりでおよそ半数の返信があった。聞けば、ロシアには、行政機関は問い合わせのメールを受け取ってから2週間以内に返信をしなければならないという法律があるらしくその影響もあるのかもしれないが。

 そのうちの1つ、占領地にできたロシアの放送局とはトントン拍子に話が進み、オンライン取材を実施することになった。

「西側メディアで私たちに取材を申し込んできたのは、あなた方が初めてだ」

 オンライン取材の冒頭、占領地の放送局の局長は「西側メディアで私たちに取材を申し込んできたのは、あなた方が初めてだ」と述べた。なぜ取材を受けることを承諾したのかと問うと、「あなたたちに真実を伝えるためだ」と言う。

 彼が実際に何を述べたのかは番組本編をぜひ見てもらいたい。

 局長とはインタビュー後さらに話が発展し、「占領地の中で撮影した映像を提供してもよい」という。「ロシアには言論の自由があり、語ってはいけないことなどない。見せられないものはない」というのだ。

 占領地の実態を知りたいと考えていた私たちにとっては、渡りに船のような話だ。ただ、彼らの見せたいものだけを見せられたらプロパガンダになってしまう懸念もある。厳しい要求を投げることにした。

(1)占領地のウクライナの子どもたちを「ロシア人」として再教育していると聞いたが、それは事実なのか?

(2)占領地のウクライナの子どもたちを「ロシア兵」に育てることを目的とした青年愛国団体は取材できるのか?

(3)占領地から逃げたウクライナ人たちの不動産を没収し、ロシア人に分配する占領政府の専門部署の詳細が知りたい。

 これらの現場の取材をあなたの放送局のスタッフが実施することは可能か? さらに関係者のオンラインインタビューも実施し、こちらから直接質問をぶつけたいとリクエストした。

 すると、意外な答えが返ってきた。


Page 3

「問題はありません、やりましょう。次回は取材を行うディレクターとカメラマンなどにも声をかけますので、彼らを交えて来週ミーティングをしましょう。費用も必要ありません」

 ベールに覆われた占領地の内側に肉薄できる可能性が急浮上した。しかし、結論から言うと、彼らとのミーティングが開かれることはなく、彼らとの“共同取材”は実現しなかった。局長からは「現場が忙しく対応できないことがわかった」とのメッセージが送られて来たきり、一切、返信はなくなった。

 どのような力が働き、いかなる判断が下されたのかは不明である。

 ただ、この放送局から返信がなくなったことと軌を一にして、既にやりとりを開始していた他のロシアメディアや占領下の学校、ロシア愛国団体などからの返信も途絶えた。

「悔しい」と涙を流したウクライナ人の通訳者

 ここから先の話は、書けないことが多い。

 どのようにロシア側の協力者を見つけたのか。そして、占領地の情報をどう集めたのか。

 取材手法を明かすことは「橋を燃やす」ことを意味する。一度明らかにしてしまえば、その手法は二度と使えなくなってしまう。

 そして、七転八倒の末、番組は完成した。

 翻訳を手伝ってくれたウクライナ人の通訳者は、番組の試写を終え「悔しい、悔しい」と涙を流していた。

 取材者としては、当初まったく見えていなかったものが見えるようになり、占領地についての解像度が格段にあがった。停戦に向けて交渉が続いているが、ウクライナが領土を諦めれば平和が訪れるという単純な話ではないことがよくわかる。

 ウクライナの人々はよく、「我々は領土のために戦っているのではない」ということを口にする。この番組が、その言葉の意味を理解する補助線となることを願っている。

◆NHKスペシャル「 臨界世界 戦慄の占領地 “ロシア化の実態” 」 2026年1月25日(日)夜9時放送。「NHK ONE」で、2月1日(日)まで見逃し配信予定

(木村 和穂,松宮 健一)

関連記事: