AOL、2025年9月にダイヤルアップ接続を正式終了--ネット黎明期の技術に幕(ZDNET Japan)

 「You've got mail」という音声を、ノイズ混じりの電話回線越しに初めて聞いた何百万人もの人々にとって、デジタル史の象徴的な一章が終わりを迎えようとしている。AOL(America Online)は、米国時間2025年9月30日をもってダイヤルアップインターネットサービスを終了すると発表した。これは、かつて「インターネットに接続すること」と同義だった技術の引退を意味している。  AOLはインターネット黎明(れいめい)期の象徴的な存在だった。特に、Tom HanksとMeg Ryanが主演したロマンチックコメディー映画「ユー・ガット・メール」によって、その名は広く知られるようになった。この映画は、文化的にも大きな影響を与えた作品である。  AOLは、CompuServe、GEnie、Prodigyといった、商業インターネットやウェブが普及する以前に人々をオンラインに導いたサービスの最後の生き残りだった。しかし、AOLは他のライバルとは異なり、インターネットを受け入れ、対抗するのではなく共存の道を選んだ。  その結果、AOLのダイヤルアップネットワークは1990年代に家庭へインターネットを届ける役割を果たした。1995年には100万人だったユーザー数は、1997年には3400万人以上にまで増加した。モデムが接続する際の独特な音は、AOLが郵便で大量に配布したCDと並び、当時の象徴的な存在だった。これらのCDは、何時間もの無料インターネット接続を約束していた。  当時、AOLはTime-Warnerとの合併によって、さらに膨大な価値を持つ企業になるという夢を抱いていた。この合併は当時、米国史上最大の企業合併であり、2000年1月にはAOLが米国最大のインターネットサービスプロバイダー(ISP)となり、数十億ドルの価値を持っていた。しかし、同年3月に起きたドットコムバブルの崩壊によって、その夢は悪夢へと変わってしまった。 ダイヤルアップは風前のともしび  その後、ブロードバンド、ケーブル、光ファイバー接続が全国に広がり、通信速度が飛躍的に向上したことで、ダイヤルアップは過去の遺物となった。現在では、主にブロードバンドの整備が遅れている地方の一部で、かろうじて生き残っている状況である。  それでもなお、数万人のユーザーがAOLのモデムアカウントを通じてインターネットに接続している。AOLは「製品とサービスを定期的に評価しており、ダイヤルアップインターネットの提供を終了することを決定した」と述べているが、実際にはStarlinkやT-Mobileの5Gブロードバンドといった、高速かつ高価なインターネットサービスの台頭が、終わりの引き金となった可能性が高い。  2020年の国勢調査によると、米国では現在でも16万3000人がダイヤルアップを利用している。こうしたユーザーの接続を維持するために、DSL Extreme、Juno、NetZeroといった少数のISPがダイヤルアップサービスを提供している。ただし、これらのプロバイダーが利用者の地域に対応した市内電話番号を提供しているかどうかは、また別の問題である。 楽しかった日々  AOLの発表は、オンライン上で懐かしさを呼び起こしている。多くの人々にとって、このニュースは初めてのウェブ体験や、チャットルーム、素人が作ったサイト、アニメーションGIFがあふれていた時代、そして固定電話を使うとネット接続が切れてしまう日々の記憶を呼び覚ました。  筆者自身は、学校や政府関係の仕事を通じて、AOLが登場する以前からインターネットを使っていた。ネット上では当時から「年長者」だった筆者は、AOL経由で入ってきた初心者たちが、UsenetグループやGopherなどの初期インターネットサービスについて何も知らないことを、よくからかっていたものだ。今では、そうした記憶も歴史の脚注に過ぎない。長く生きていれば、かつて新しかったものはすべて古くなる。  AOLはその後、何度も所有者が変わり、衰退の一途をたどった。2015年にはVerizonの傘下に入り、Yahooと合併し、2021年にはApollo Global Managementに売却された。そして今回のダイヤルアップ終了によって、AOLはAIM(AOL Instant Messenger)、Skype、Internet Explorerといった、かつてのデジタルの定番サービスと同様に、初期インターネットの歴史に幕を閉じることとなった。  現在のAOLは、メールサービスを提供している程度である。実際、筆者の友人の中には、今でもaol.comのメールアドレスを使っている人が2人いる。彼らがそのアカウントをいつまで使い続けられるかは分からないが、AOLの最後の名残も、近いうちに消えてしまうかもしれない。  ダイヤルアップが終わってしまうのは寂しい。あの頃は本当に楽しかった。そして、モデムが接続する音を聞くたびに、今でも笑顔になってしまう。 この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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