ファン太はなぜ「J STAR RECORD」を立ち上げた? 音楽へのピュアな想い、歌に対する並々ならぬ情熱
人気ゲーム『グランド・セフト・オートV(GTA5)』のオンラインモードを舞台にした、メタバースとロールプレイを組み合わせたコンテンツ『ストリートグラフィティ ロールプレイ』(『ストグラ』)をはじめ、ゲーム配信などをメインとしたストリーマーとして活躍するファン太は、ストリーマーである一方、『ONE PIECE』のキャラクターの声マネや、ラッツ&スターのカバーでも知られ、昨年からはラジオパーソナリティーとしても活躍。
そんなファン太が、4月にエイベックスでレーベル「J STAR RECORD」を立ち上げた。同レーベルからは、すでにコンピレーションアルバム『vol.ZERO』をはじめ、瀬戸あさひ、PENKO、月夜見レオ、かんせるが楽曲を配信している。ストリーマーがレーベルを立ち上げ、コンピ盤を配信? ラジオもやっている? しかも覆面! 情報と肩書きが渋滞中のファン太に、経緯や思いなどを直撃。すると歌に対する並々ならぬ思い、鈴木雅之を好き過ぎるピュアさ、そして裏方気質の熱い一面を知ることができた。(榑林史章)
音楽活動での挫折、諦めきれなかった歌手への夢
ーーファン太さんは4月からエイベックスに所属、同時にレーベル「J STAR RECORD」を立ち上げたとのこと。どういうきっかけだったのですか?
ファン太:VAULTROOM主催の『RUST』というゲームのイベントがあって、そこで僕が歌っていたのをエイベックスの方が観てくださっていて。お声がけくださって、昨年8月31日にパシフィコ横浜で開催した『激動 -HOT LIMIT-』や、今年4月12日、13日の2日間、両国国技館で開催した『超激動 -SUPER GEKIDO-』の会場を紹介してくださるなどして、その過程でレーベルのお話をいただいて、一緒にやらせていただくことになりました。
ーーファン太さんは十数年ストリーマー/配信者として活躍されていますが、最初から「いずれ歌や音楽の活動をしよう」と考えていたのですか?
ファン太:実際は順番が逆で、音楽がやりたくてインターネットの活動を始めたんです。僕が好きな歌い手の方がいて、その人みたいになりたくて、歌をやろうと思って始めました。だから最初は「歌ってみた動画」も上げていたんですけど、周りには自分より歌が上手い人がたくさんいたので、そのときは挫折してしまって。でもその上手い人たちが全く売れていないという状況に疑問を感じ、そういう人を世に送り出すことがしたいとも考えてもいました。いろいろ考えた結果、順番を逆にしたほうがいいんじゃないかと。まずは配信者として有名になって、それから歌を出すほうが売れるんじゃないか。それで、歌をしばらくお休みして、配信やゲームのほうにシフトチェンジして行きました。
ーーじゃあ配信に力を入れながら、いつか音楽の活動もやろうと考えていて。
ファン太:はい。インターネット活動を始めたのが大学生のころだったので、就職活動も音楽系で新人発掘の部署にアプローチもしていて。結局就職したのは全く違う業種だったんですけど、音楽に対する思いは抱えたまま配信者を続けていた感じです。それでようやく注目していただけるタイミングになったときに、エイベックスさんからお声がけをいただいたかたちです。
ーーずっと夢に見ていたことが叶ったわけですね。
ファン太:そうなんです。でも最初にエイベックスさんからお声がけをいただいたときは、もちろん嬉しかったですけど、「よく見つけたな!」という疑問が先でした(笑)。当時はまだ歌を投稿していたわけでもなかったし、限られたゲーム内でちょびっと歌っていただけだったから。それで話を聞いたら、鈴木雅之さんのカバーを歌っていた動画で見つけてくれたそうです。ただやりたいと思っていたものの、一度歌で挫折した経験があったから、自信たっぷりに「やります!」とは言えず、「僕でいいんですか?」という感じだったんですけど、すごく推してくださって。
ーーラッツ&スターのカバーを歌っている動画を拝見しましたけど、すごく色気のあるいい声でした。失礼ながら、この風貌からあの歌声は意外で。
ファン太:ギャップは狙ってます(笑)。
ーーもともとは、どういうアーティストから影響を受けたのですか?
ファン太:先ほど話した歌い手の方を聴いたのが中学生のときで、それ以前は米米CLUBさんや槇原敬之さん、それこそラッツ&スターさんや鈴木雅之さんを繰り返し聴いていました。
ーー年齢(笑)!
ファン太:そうなんです。完全に親からの影響です。記憶のなかで1番最初にCDを聴いたのがラッツ&スターさんで、5歳くらいだったと思いますが、一発で好きになりました。歌詞の内容まではわからなかったけど、あとで知ったら愛人の歌でした(笑)。それが中学~高校まで続いて、まわりが湘南乃風さん、ORANGE RANGEさん、EXILEさんで盛り上がっているなか僕は、財津和夫さん、山下達郎さん、大滝詠一さんなどばかり聴いていて。同時進行でインターネットで歌っていた歌い手の方が好きになり、その追っかけのようなかたちでネットにのめり込みました。
ーーラッツ&スターや米米CLUBは、一周回ってTikTokなどで十代に流行っていますよね。
ファン太:はい。ミリオンセラーのヒット曲があんなにたくさんあったのに、それを知らないのはもったいないなと思っていて。普通に生活していたら触れることがないものを、僕を通して知ってもらえたら嬉しいです。実際にリスナーの方から「鈴木雅之さんのライブに行きました」「YouTubeで昔の曲ばかり聴いています」などのメッセージをたくさんいただきます。当時の良いものを今のみんなに聴いてほしい気持ちもあって、イベントでカバーさせていただいたりしています。
ーーそういう気持ちが、レーベルを立ち上げて歌の上手いストリーマーやVTuberをフックアップしている、今の活動につながっているわけですね。80-90年代の良質なJ-POPと現在のストリーマーが掛け合わさって生まれたのがファン太さんと「J STAR RECORD」であるという。
ファン太:そういうことです。
ーー「J STAR RECORD」からは、6月に第1弾コンピレーション『vol.ZERO』が配信されるなど、すでにファン太さん含め8名の方が所属されています。
ファン太:僕は『ストグラ』というゲームのなかのバーチャル空間に『シャンクズプロモーション』という芸能事務所を持っていて、そこには歌が上手いストリーマーやVTuberがたくさん所属しているので、まずはそこに所属している人達に歌ってもらっています。これはあくまでも聴いてもらうきっかけなので、今後は『シャンクズプロモーション』に所属していない方や『ストグラ』をやっていない外の人でも、才能のある人たちにマネタイズなどのハードルを下げた状態でやってもらって行く予定です。
ーー考え方として、バーチャルでやっていた『シャンクズプロモーション』が、リアルの世界に飛び出したような。
ファン太:そういう感じです。『ストグラ』で僕らのことを知ってくれていたファンの方は、僕らの歌をゲーム内でしか聴けなかったのですが、音楽配信サイトを通じてスマホでも聴けるようになったことを、すごく喜んでくれています。
ーーその喜びが、今年4月に2Days、両国国技館で開催した『超激動 -SUPER GEKIDO-』の動員数1万6000人という規模感に表れているわけですね。
ファン太:イベントは東京だけで、内容も音楽だけじゃなくゲームコーナーがあったり、ごちゃ混ぜな感じだったので、9月から音楽だけで福岡・名古屋・東京のツアーを行う予定でいます。地方の方にも僕らの歌を聴いてもらって、そのタイミングで楽曲のリリースもできたらと思って動いています。
ーー配信者の方で大規模なライブをやられている方もたくさんいますが、大抵は個人でやられていますよね。
ファン太:それができるのはほんのひと握りです。僕もやろうと思えばできますけど、どうせならいろんな人を巻き込みたかったし、まだ一人ではできない人にも、世間に聴いてもらうきっかけを作る場を与えてあげられたらと。そういう意味では利益を追求するレーベルではないということですね。