青酸カリより強い毒性、みそ汁混入で殺人未遂事件も…身近な有毒植物キョウチクトウの危険
青酸カリよりも強い毒性を含む植物がある。暑さや乾燥に強いことから公園や道路沿いによく植えられている「キョウチクトウ」。広島市では原爆投下後にいち早く咲いたことから「復興の象徴」として「市の花」に制定され、市民に親しまれてきた。一方で猛毒のオレアンドリンなどを含み、場合によっては死に至ることも。今夏には事件に使われたことも明らかになった。その高い危険性とは―。
キョウチクトウはインド原産の常緑低木。強くて育てやすいことから、街路樹として各地に植えられ、初夏から秋にかけてピンクや赤、白色の花を咲かせる。
ただ、植物に詳しい東京都薬用植物園の主任研究員、中村耕さんによると根、葉、茎、花のすべてに青酸カリを上回る強い毒素のオレアンドリンが含まれている。
オレアンドリンは体内に入ると、直接心筋に働いて、不整脈や心臓まひなど深刻な症状を引き起こす。少量でも毒性が強いのが特徴。体重1㌔当たりの致死量は0・3㍉㌘といい、青酸カリよりも毒性は強いとされる。
千葉ではキョウチクトウを使った事件も起こった。7月17日、千葉県市原市の自宅でキョウチクトウの葉を刻み、みそ汁に混入させて伯父を殺害しようとしたとして男子高校生が殺人未遂容疑で9月1日に再逮捕された。伯父は味の違和感や口の中にしびれを感じ吐き出したが、腹痛などで救急搬送された。みそ汁に混入されていたのは致死量のキョウチクトウだったという。
8年前には高松市で小学校の児童2人が校庭に植えられているキョウチクトウを間違えて食べ、食中毒となり一時入院する事案も。
直接葉を誤食しなくても注意が必要だ。中村さんは「枝を燃やした際の煙を吸って、中毒症状が出た事例もある」と指摘。枯れ葉や落ち葉が重なって作られた腐葉土にも毒素があり、1年間は抜けないという。
犬が散歩中にキョウチクトウの枝や落ち葉を口にするケースも多く、嘔吐や下痢症状のほか、重篤の場合は不整脈や呼吸困難に陥ることも。中村さんは万が一、口にしてしまった場合には「無理に吐こうとしたり、経過観察したりせず、迷わずに医療機関を受診してほしい」と呼び掛ける。
原爆ドームとキョウチクトウ(広島市提供)一方で、キョウチクトウはその生命力の強さから「復興の象徴」としても知られる。広島市によると、原爆投下後、「75年間は草木も生えない」といわれた焦土で翌年夏に花を咲かせて市民に希望と力を与えたとして「市の花」に制定された。
大気汚染に強く、市街地の緑化に貢献していることから、千葉市、尼崎市、鹿児島市でも市花として制定。千葉市ではキョウチクトウの有毒性についてSNSなどで定期的に注意喚起を行っている。
意外に多い有毒植物 食中毒や死亡のケースも
キョウチクトウのように毒性を含有する植物は意外に多い。きれいな見た目から園芸用として栽培されている有毒植物が多く、中にはタマネギやニンニクなど食用と間違えて食べてしまい、食中毒により死亡するケースも後を絶たない。
厚生労働省によると、令和6年までの過去10年間で有害植物を誤食し、食中毒となったのは726人。うち、死者は18人に上っている。今年に入っても1人が死亡しており、各自治体が注意を呼び掛けている。
6月下旬、岡山県内の80代の男性が、猛毒成分「コルヒチン」を含む「イヌサフラン」の球根をタマネギと誤って食べ、死亡した。県によると、男性は自宅で観賞用としてイヌサフランを栽培していたという。
昨年5月にも札幌市でギョウジャニンニクと間違えて、イヌサフランをみそ汁に入れて食べたとみられる2人が死亡しているのが見つかった。
厚労省によると、有毒植物による食中毒の発生件数は年間30件台~70件台で推移。最も多い平成10年には114件が発生し、18年と22年にも100件を超えた。
食用と間違われやすい有毒植物はイヌサフランのほか、スイセンやバイケイソウ、ユウガオなど。中でもイヌサフランの誤食による食中毒は多く、死亡する割合も高い。誤食による食中毒は令和6年には41件発生し、死者は3人に上った。厚労省の担当者は「コロナ禍が明けて以降、増加傾向だ」と指摘する。
高齢者の誤食が多く、死に至らない場合でも嘔吐(おうと)や下痢、しびれといった症状が出るなど、重篤な健康被害を引き起こす恐れがある。担当者は「食用と確実に判断できない植物は、人にあげたり食べたりしないで」としている。(堀口明里)