コラム:トランプ氏との関係悪化でブラジル苦境、 「最悪」の50%関税
[オーランド(米フロリダ州) 30日 ロイター] - トランプ米大統領は好戦的な通商上の脅しのほとんどを引っ込めて、主要な貿易相手と取引をまとめ始めた。つまり大半の国・地域は4月2日にトランプ氏が発表した懲罰的な関税の適用を免れようとしている。だがブラジルの状況は異なる。
50%という税率は、日本や欧州連合(EU)が合意した15%をはるかに上回り、中国を別にすれば、「相互関税」の対象国・地域で最も高い。
さらに重要なのは、こうした行き詰まりをもたらしているのが経済的ではなく政治的な要因である点だ。ブラジルは、米国が貿易黒字を計上している数少ない国の1つ。ブラジルに対する貿易黒字は2007年以降ずっと続き、昨年のモノの貿易黒字は68億ドルだったことが、米商務省国勢調査局のデータで分かる。
トランプ氏はブラジルに50%の関税を適用する理由として、思想的な同志のボルソナロ前大統領がルラ大統領の政権下で起訴されたことを挙げている。ボルソナロ氏は2022年の選挙敗北を覆そうとしてクーデターを企てたとの罪に問われている。トランプ氏は今月ソーシャルメディアに「ボルソナロに構うな!」と投稿した。
足元で米国とブラジルの外交、トランプ氏とルラ氏の関係は冷え込み、週末までにそれが改善する見込みは全くない。
ブラジル政府高官の1人は「貿易合意は交渉の結果生まれるが、米国がわれわれの書簡に反応してくれないと対話が成り立たない。心配だ」と打ち明けた。
<危機感>
ブラジル全国工業連盟(CNI)は、米国向け輸出品に50%の関税が課されれば、10万人余りが失業し、年間経済成長率が0.2ポイント押し下げられると試算。ブラジル全国農業連盟(CNA)は、国別で2番目に大きい米国向け輸出が半減しかねないと警鐘を鳴らす。
しかもブラジルは今、特に繊細な対応を求められる局面にある。
外国為替取引のフローは6月と7月がともにマイナスに転じており、今年に入ってからの通貨レアルの上昇にはブレーキがかかった。その上、外国からの直接投資(FDI)もここ数カ月で鈍化している。
ブラジルの経常収支赤字の国内総生産(GDP)比が6月までの12カ月で3.4%と、1年前の2倍以上に拡大しているだけに、これは危険な動きと言える。FDIが現状のままでも、もはや経常赤字を穴埋めできない。
<極めて高い実質金利>
このような背景から、ブラジル中央銀行は身動きが取れなくなっている。
過去1年で物価上昇率が5%超まで高まって、中銀の目標上限の4.5%を6カ月連続で上回ったため、政策金利は20年ぶりの高水準となる15%に引き上げられた。
高金利は物価上昇率を再び目標圏に収め、赤字を穴埋めしてくれる資金を呼び込み、レアルを下支えする上で不可欠なので、中銀は向こう数カ月利下げできる余地はなさそうだ。
だが国内経済が支払う代償は大きい。ブラジルの物価調整後の実質金利は約10%と、20カ国・地域(G20)ではロシアやトルコさえ抜いて最も高く、世界屈指の引き締め的な水準にある。
当然ながら借り入れコストの高さは、融資の減速をもたらし、6月には消費者と企業のローンでデフォルト率が2018年2月以来の水準に上昇した。
さらに大規模な利払い負担が主因となり、公的債務が膨張している。連邦債務は今年上半期に5670億レアル(1015億3000万ドル)増えたが、そのうち3930億レアルは利払い費用だった。
利払いを除くブラジルの基礎的財政収支はほぼ均衡している。しかし政府の利払い費用は年間1兆レアル、GDP比で7─8%前後の規模に近づきつつあり、それによってグロスベースの公的債務のGDP比は現在の76%から来年82%を超える見通しだ。
ブラジルの政策担当者にとって、米国との緊張緩和を一刻も早く実現してほしいというのが切実な願いだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the US again. His experience and expertise are in global markets, economics, policy, and investment. Jamie's roles across text and TV have included reporter, editor, and columnist, and he has covered key events and policymakers in several cities around the world.