「eSIMオンリー」となった新iPhone、MVNOに一層不利な状況をもたらす可能性も(マイナビニュース)
なぜMVNOが対応できないのかといえば、eSIMクイック転送はiPhoneとネットワークを連携して実現しているため、携帯電話会社がそれを提供するにはデバイスを提供するアップルの協力が不可欠だから。正規にiPhoneを販売していないMVNOはアップルの協力を得られないので、eSIMクイック転送を提供できないわけです。 では今後、MVNOがeSIMクイック転送を提供できる見込みはあるのか? といいますと、非常に困難というのが正直なところ。その理由は「Apple Watch」のeSIM対応にあります。 Apple WatchにもeSIMを搭載したモデルがあり、対応する通信サービスを契約すればモバイル通信が利用可能になるのですが、Apple WatchのeSIMに対応するサービスを提供しているのは、やはりiPhoneを販売している携帯4社のみ。eSIMを扱っているMVNOであっても、Apple Watch向けのサービスは提供できていないのが実情です。
その理由はeSIMクイック転送と同様、ネットワークとApple Watchとの連携が必要なためのようです。2020年に総務省が開催した「競争ルールの検証に関するWG」の第5回会合の議事録で、アップルの日本法人であるApple Japanの発言を確認しますと、Apple Watchのモバイル通信はiPhoneとペアリングすることが前提で、その実現には「技術的に非常に複雑なオペレーションが必要」としています。 そして、MVNOへのApple Watch対応に関しては「それなりのビジネスチャンスがあるということであれば前向きに検討させていただく」と答えており、そのためには「MVNO様経由で弊社のウオッチがどれぐらい売れるのか、そこに投入するためのリソースにどれぐらいコストがかかるのかというビジネス上の判断にならざるを得ないのではないか」と話していたようです。 このことは、MVNOがアップル製デバイスを携帯4社並みに販売するなど、アップル側にビジネス的メリットをもたらさない限り対応はしない、と読み取ることができるでしょう。そして、2020年から5年が経過した現在もなお、MVNOがApple Watchに対応できない状況は変わっておらず、総務省がMVNOのApple Watch対応に積極的に動くことはなかった様子を見て取ることができます。 そしてeSIMクイック転送も、Apple WatchのeSIMと構造が似ているだけに、少なくとも現時点では総務省が積極的にアクションを起こす可能性も低いと考えられます。ただ、このことは、アップル製品でMVNOのサービスが今後より使いづらくなることを示しており、アップルのシェアが非常に高い日本では一層、MVNOが不利な状況に追い込まれることにもつながりかねません。 事業規模が小さいMVNOがアップルと直接対峙するのは非常に困難ですし、ネットワークを提供する携帯電話会社と交渉するにしても、対応には難しさが伴うでしょう。事態の解決には、やはりeSIMの利用を推奨している総務省、ひいては国が動くしかないのではないでしょうか。
佐野正弘