中国総領事だけではなく朝日新聞も…高市〝台湾有事〟答弁を批判する面々… 潮匡人
『週刊ポスト』十二月十二日号の特大記事「習近平をつけ上がらせた12人の媚中政治家」から引こう。
《時の菅直人内閣は、仙谷由人・官房長官が主導して「超法規的措置」で中国人船長の釈放を認め、帰国した船長は「国家的英雄」として迎えられた。評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏が言う。
「中国の圧力に屈して検察が処分保留のまま船長を釈放するのを認めた当時の仙谷官房長官、それで解決を図ろうとした菅首相の対応が、習近平に〝日本は脅せば言いなりになる〟という強烈な成功体験を与えたのは間違いないでしょう」》
評論家の潮匡人『週刊ポスト』十二月十二日号の特大記事「習近平をつけ上がらせた12人の媚中政治家」から引こう。
《時の菅直人内閣は、仙谷由人・官房長官が主導して「超法規的措置」で中国人船長の釈放を認め、帰国した船長は「国家的英雄」として迎えられた。評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏が言う。
「中国の圧力に屈して検察が処分保留のまま船長を釈放するのを認めた当時の仙谷官房長官、それで解決を図ろうとした菅首相の対応が、習近平に〝日本は脅せば言いなりになる〟という強烈な成功体験を与えたのは間違いないでしょう」》
そう考えるのは私だけではあるまい。いま話題の垂秀夫著『日中外交秘録 垂秀夫駐中国大使の闘い』(文藝春秋)も、こう述べる。
《天皇陛下の特例会見問題で、中国共産党はこう〝学習〟したのは間違いない。/「日本政府は、圧力をかければ必ず折れる」》
《二〇一〇年九月七日、尖閣諸島沖で中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突するという事件が発生した。この漁船衝突事件は、それまで日本に対して比較的協調的だった中国外交が強硬一辺倒に向かう転換点となった。(中略)これは現在の「戦狼外交」の原点ともいえる出来事だった。》
さらに当時の内輪話も明かす。
《仙谷氏は私たちにこう告げた。/「那覇地検の判断で、船長を釈放することになる」/私は耳を疑い、思わず大きな声を上げてしまった。/「えっ⁉ そんなことをしたら政権が倒れますよ!」》
なぜ以上の話題から書き始めたのか、もはや説明は要るまい。
高市早苗総理の台湾有事をめぐる答弁に端を発した日中対立は米国をも巻き込み始めた。十一月二十八日付朝日新聞朝刊は一面トップで《日中対立「沈静化を」 トランプ氏、電話協議で高市氏に》と題した記事を掲げた。
前掲『日中外交秘録』はこうも述べる。
《米中両国は表面上いかに激しく対立していても、裏でディール(取引)を取り交わすことを繰り返してきた。その際、日本はいつも「はしご」を外されてきたという歴史がある。私たちは何よりも米中関係の歴史から学ぶことが重要なのである。》
右朝日記事の信憑性を疑う声もあるが、米有力紙(WSJ)も同様の記事を流した。いずれにせよ、日本は「はしご」を外されてきた歴史を忘れてはなるまい。
さらに垂元大使は十一月二十五日夜にスタジオ出演した「報道ステーション」(テレビ朝日)で、米中首脳による電話会談の翌日に日米が電話会談した経緯に触れ、「元外交官として申し上げれば、この順番について極めて残念だった。(中略)まず、トランプ大統領に電話をかけて、意思疎通を図っておくべきということを、まず日本がすべきだった」と苦言を呈した。
そのうえで、こう語った。
《絶対に撤回してはならないと思います。これは、国のあり方が問われているわけですね。中国から圧力があれば、つねに日本は屈してきた。こういう(中略)近年来の歴史があるなかで、「高市さん、あなたまでもか」と。そういうことになれば、もう日本の対中戦略は今後十年、二十年、組み立てることはできなくなる。》
そのとおりではないだろうか。私はそう思うが、残念ながら、そうは思わない御仁が少なくない。「首相の見解は政府による拡大解釈に道を開くものだ」と批判したり(十一月八日付朝日社説)、「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」(中国総領事)と吠えたり忙しい。月刊『Hanada』一月号の巻頭コラム「現場をゆく 門田隆将」を借りよう。
《テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」で玉川徹氏が、「じゃあ日本は、これから戦争するんですか? それも日本が攻撃されていない他国同士の戦争に日本は介入するんですか」と非難した。》
集英社オンラインの十二月三日配信記事も借りたい。
《高市首相の発言に対して中国が激しく反発し、日本の歌手イベントが次々と中止となっている。本来なら中国の過剰反応を批判すべき場面だが、なぜか矛先を高市首相に向ける政治家たちがいる。元総理・鳩山由紀夫氏に続き、石破茂氏までが同じ構図を繰り返しているのだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は、「石破前首相は、黙りなさい」と提言する。》
最近では、十二月四日付朝日朝刊の「交論 台湾有事は存立危機事態?」で、宮崎礼壹・元内閣法制局長官が「結論を先に申し上げると、安保法制が合憲だと仮定しても、法的に見れば台湾有事に集団的自衛権すなわち存立危機事態が成立する余地はそもそもないのではないでしょうか」と語る。
私はそう考えないが、その点は論じない。むしろ、立場や主義主張以前の問題を指摘したい。
高市総理はこう答弁した(国会会議録より)。
《先ほど有事という言葉がございました。それはいろいろな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国、北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれないし、それから偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、それはいろいろなケースが考えられると思いますよ。だけれども、それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。》
どうせ会議録で訂正されると思っていた私が甘かった。まず、立憲民主党の辻元清美参議院議員のSNS投稿を借りよう。
《高市総理が「戦艦」と答弁した瞬間、「あれ」と思った。2025年11月現在、展示用のものを除き、世界に「戦艦」は存在しない》(X)
さて、政府はどうしたか。辻元議員の質問主意書に、こう答弁書を返した。まず、戦艦を「(1)戦争に用いる船。軍艦。戦闘艦。(2)軍艦の一種」との『広辞苑』の説明を引き、なんと「文脈によって意味が異なり得るため、『言い間違い』との指摘は当たらない」と強弁した。
単なる「言い間違い」なら責めないが、これでは三百代言の類ではないか。じつに見苦しい。
小谷哲男教授(明海大学)の指摘も手厳しい。
《海上封鎖は武力行使だし、戦艦と軍艦の区別がつかない総理が安全保障の素人なのは明らかだが、国家安保局を含めプロが周りを固めているので慌てる必要はないものの、周辺国の情報機関は喜んだだろう。特に台湾封鎖における日本の取りうるオプションを示したのはマイナス。口の軽さは国益を害すこともある。》(X)
総理は「単なる」と言うが、海上封鎖は武力紛争の一形態であり、国際法上、武力の行使に当たる(「海上武力紛争に適用される国際法に関するサンレモ・マニュアル」他)。防衛研究所の五十嵐隆幸専門研究員も「国際法で封鎖は戦争行為で、米国の台湾関係法にも安全保障上の重大な問題と書いてあります」と、前出朝日「交論」で指摘する。
事態対処法第二条が定めるとおり、存立危機事態の要件は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し(以下略)」であり、総理が繰り返した「武力(の)行使」ではない。両者は、似て非なる別概念である(国連憲章正文の表現も異なる)。さらに言えば、台湾は「(他)国」ではなく「地域」に過ぎない(政府見解)。
見出しを変更した朝日
ちなみに、朝日新聞は十一月七日午後四時前、デジタル版で〈高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 認定なら武力行使も〉との見出しを付け記事を配信したが、同日午後十時前、記事の見出しを〈高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 武力攻撃の発生時〉と、後段部分を書き替えた。
それを前出「週刊ポスト」の別記事は《朝日新聞〝しれっと修正〟疑惑を生んだ「中国ご注進報道」体質》と批判する。もし「しれっと」だとしても、法的には「武力攻撃の発生時」が正しい。
…等々の問題を看過しながら、声高に批判したり、手放しで礼賛したりしても意義が乏しい。高市総理は端的にこう答弁すべきだった。
「いわゆる台湾有事でも、たとえば米軍への武力攻撃が発生した場合など、存立危機事態となり得るケースはあると私は考えます」
=評論家
(月刊「正論」2月号から)
うしお・まさと
昭和35年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士前期課程修了。元自衛官