病気の原因が謎? 「メタゲノム解析」を試してみるといい

2019年、カリフォルニア州フレズノに住む3人の子どもの母ニコル・カノは、次第にひどくなる頭痛に悩まされ始めた。それまではいたって健康で頭痛とも無縁だったが、メキシコのティフアナで脂肪吸引手術を受けた後から症状が始まったように思えた。

まずかかりつけ医を受診し、その後神経内科医にも診てもらったところ、片頭痛と診断された。標準的な片頭痛治療として、注射を打って錠剤を処方されたが、痛みは強まるばかりだった。「頭蓋骨が押し潰されて頭から目が飛び出しそうでした」とカノは語る。

近くの救急外来も受診したが、そこでも片頭痛の治療を施され帰宅させられた。それから数週間後、製造工場の倉庫で監督業務をしていた夫ハビエルのもとに、カノから意味の通らないボイスメールが入った。そのときひとりで自宅にいた彼女は、意識が朦朧とし混乱していた。やがて救急車が到着し、カノは病院へ搬送された。

このときには救急外来の医師が、背中に針を刺して脳脊髄液を採取する腰椎穿刺による検査を行なった。検査が終わると医師たちから、髄液が脳にかける圧力を示す「開放圧」がこれまで見たことのないほど高いと告げられた。

それは髄膜炎を強く示唆していた。髄膜炎とは脳と脊髄の周囲の組織に起こる炎症で、細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされることが多い。だが、さまざまな検査を重ねても、原因となる感染症は見つからなかった。

医師たちは真菌が原因かもしれないと推測したが、確証のないまま深刻な副作用のリスクがある抗真菌薬を投与することは避けた。「これ以上できることはない、と言われました」とカノは言う。

だが担当医のひとりは、一度に数千種類の微生物を調べられる「メタゲノム解析(メタゲノミクス)」という新しい遺伝子検査について耳にしたことがあった。その医師は、メタゲノミクス研究の第一人者でありカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で神経感染症を研究するマイケル・ウィルソンに連絡を取った。

それから1週間も経たないうちに、カノはウィルソンのオフィスで自らの苦しみを語っていた。ウィルソンは彼女をUCSFに入院させる手配をした。「わたしたちが原因を突き止めます、きっと大丈夫ですよ」と彼は言った。

まれな感染症を診断する一般的な方法は、図書館でどこかから抜け落ちた1ページを拾い、それがどの本のものなのかを突き止めようとする作業に喩えられる。そのページのなかに、きっと手がかりはある。内容のジャンルから本棚を推測できるかもしれないし、著者特有の言い回しが使われているかもしれない。だがそれでも、どうしても探し当てられないときもある。

多くの病気に診断検査は存在するものの、医師が考えるべき診断候補は数多く、あまりに珍しい原因の場合はまず候補にすら浮かんでこないこともある。

一方、メタゲノム解析はGoogle Booksのデータベース全体を検索するようなものだ。まず科学者は、患者から採取したサンプルに含まれる遺伝物質を網羅的に配列解析する。次に、そこで得られた結果を既知の病原体に関する膨大なデータと照合する。データとの一致が見つかれば、通常の培養検査では検出できない感染症や、想定さえされないような感染まで明らかにできる。

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