記者が目撃した伊藤匠の変化 藤井聡太「終盤、競り負けた」

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北野新太

対局を振り返る藤井聡太王座(左)と伊藤匠叡王=2025年10月28日午後9時19分、甲府市、北野新太撮影

 時代を支配する王者からの再びの奪取には、前回のような衝撃はなかった。2度目だから、という単純な理由だけではない。将棋の第73期王座戦五番勝負第5局(日本経済新聞社主催)が28日、甲府市の常磐ホテルで指され、挑戦者の伊藤匠(たくみ)叡王(23)が藤井聡太王座(23)=名人・竜王・王位・棋聖・棋王・王将と合わせ七冠=に勝利してタイトルを奪取。昨年の叡王戴冠(たいかん)時と何が違ったのか。終局後の対局室で明らかな変化を目撃した。

 午後8時過ぎ。

 決戦に終わりの時が訪れようとしていた。

 伊藤匠は再び藤井聡太からタイトルを奪おうとしていた。

 何もかも1年前と似ていた。

 2024年6月20日、第9期叡王戦五番勝負第5局。

 八冠を独占していた藤井が初の失冠を経験する歴史的な日と似ていた。

 挑戦者は同じ伊藤だった。

 舞台は同じ五番勝負の第5局だった。

 対局場は同じ常磐ホテルだった。

 同じ両者1分将棋の最終盤だった。

 秒読みをする記録係も同じ奨励会三段の福田晴紀だった。

 けれど、何もかも同じようで、何かが明らかに違っているように思えた。

王座を奪取して二冠となった伊藤匠叡王=2025年10月28日午後9時24分、甲府市、北野新太撮影

 昨年は藤井の初めての失冠で、今回は2度目。

 昨年は伊藤の初めての戴冠(たいかん)で、今回は2度目。

 結果の重さの違いは当然あるが、本質的に変化していたのは伊藤匠の何かだった。

 午後8時34分、藤井が投了。

 大勢の報道陣とともに対局室に入った記者は、伊藤の明白な変化を目撃した。

 小さな声で淡々と取材に答え…

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この記事を書いた人

北野新太
文化部|囲碁将棋担当
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囲碁将棋

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