中古マンション価格、都心3区の過熱鮮明 賃料価格比が急低下
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東京の中古マンション市場の動向を把握する際に、売買価格の推移だけを追うことで過去から現在までのトレンドを理解することはできますが、実態を読み解くのはかなり難しい面があります。価格には人々の期待や金利などの要因が強く影響し、必ずしも現実の住宅需要と一致するとは限らないからです。そこで、基本的には自分が住むために負担するマンションの賃料と、物件の売買価格の比率(賃料価格比、年間賃料÷売買価格)という指標で、東京の中古マンション市場の動向を読み解いてみたいと思います。
次のグラフは2008年1〜3月期から2025年4〜6月期までの都区部中古マンションの平均成約単価を示したものです。
まず平均成約単価全体の傾向をみると、08年のリーマン・ショック後の一時的な下落を経て13年以降に上昇基調に転じ、20年代に入ってからは特に都心3区(千代田、中央、港)で急騰しています。08年1〜3月期に都心3区で1平方メートル当たり平均92万円だった価格は、25年4〜6月期には232万円と2.5倍を超える水準まで達しています。城西4区(渋谷、新宿、中野、杉並)、城南4区(品川、大田、目黒、世田谷)、城北5区(文京、豊島、北、板橋、練馬)、城東7区(台東、江東、江戸川、墨田、葛飾、足立、荒川)といった周辺エリアでも、緩やかではあるものの価格は上昇を続けており、各地域の上昇率は1.8〜2倍に達しています。
一方で、賃料の推移はこれほど劇的ではありません。次のグラフは、同時期における東京都区部の平均マンション賃料単価を示しています。
都心3区では08年1〜3月期から25年4〜6月期にかけて賃料単価は1平方メートル当たり約4300円から5300円と約1.24倍の上昇にとどまっています。周辺地域の上昇率はさらに緩やかで、城西、城南、城北では1.1倍前後、城東で1.28倍の伸びにとどまっています。つまり、売買価格と賃料との間に明確なギャップが生まれているのです。
では、賃料価格比に注目してみましょう。次のグラフは上述のデータを使って賃料価格比の推移を示したものです。
グラフからは賃料と価格の乖離(かいり)の大きさが分かります。08年1〜3月期に都心3区で5.6%程度だった賃料価格比は、25年4〜6月期には2.8%まで低下しています。売買価格が賃料に比べて大幅に先行して上昇し、実需と乖離した動きをしてきたことになります。
一方で、城東や城北などの周辺地域では、現在も4%前後の賃料価格比を維持しており、価格と賃料が比較的バランスよく上昇してきたといえます。特に23年以降、都心部を除く地域の賃料価格比はほぼ横ばいで推移しており、資産価格の過熱感が比較的抑えられていることが読み取れます。
賃料価格比が下がってきた背景には、金融緩和による資金流入、海外投資マネーの流入、供給減による価格上昇といった要因があります。一方で、賃料は居住者の所得水準やその地域に実際に住みたいという需要などを基に決まりやすいため急速な上昇は起こりにくく、その結果、売買価格だけが上昇して賃料価格比は低下する傾向が続いています。売買価格は将来の値上がり期待を、賃料は実需を映す鏡ともいえ、賃料価格比は「市場の体温計」として解釈することができます。
グラフからも分かるように、過去に賃料価格比が上昇した局面では08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災後の経済停滞が背景にありました。これらの局面では売買価格が下落する一方で、賃料が相対的に持ちこたえたため、賃料価格比が上昇する形になったのです。
賃料が単独で大きく上昇するケースはまれで、賃料価格比の上昇は基本的に景気調整局面で起こります。足元のトレンドが反転する可能性があるとすれば景気が停滞局面に入り、売買価格も調整に向かう場合でしょう。金利急騰や流動性の低下、自然災害などがあれば、過去と同様に賃料価格比が上昇する可能性が出てくるとみています。
(20代からのマイホーム考 第130回)
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