宇宙ステーションは「組み立てる」時代から「一発で広げる」時代へ?

Image: Max Space

宇宙ステーションと聞くと、多くの人が思い浮かべるのは、長年にわたって少しずつモジュールを打ち上げ、宇宙飛行士が軌道上で組み立ててきた国際宇宙ステーション(ISS)ではないでしょうか。

ISSは1998年の最初のモジュール打ち上げから完成まで10年以上を要した、いわば「人類最大級の宇宙DIYプロジェクト」でした。

でも、そのやり方が、いま変わろうとしています。

2030年にISSは引退

ISSは2030年に退役予定です。

この引退を見据え、NASAは「次の宇宙ステーションは民間に任せる」という方針を打ち出しました。宇宙開発は、国がすべてを主導する時代から、民間が設計し、運営する時代へと移行しつつあります。その流れの中で、いくつものスタートアップが「次世代の宇宙の住まい」を考え始めています。

なかでもひときわ異色なのが、フロリダ州のスタートアップMax Space。同社が開発しているのは、なんと「組み立てない宇宙ステーション」なんです。

組み立てない宇宙ステーション「Thunderbird」

Max Space

Max Spaceが開発しているのは、「Thunderbird(サンダーバード)」と呼ばれる商業宇宙ステーションです。

最大の特徴は、1回の打ち上げで宇宙ステーションを丸ごと軌道に持っていくこと。

Thunderbirdは単一モジュール構造で、打ち上げ時はコンパクトに折りたたまれていますが、軌道上で展開すると約350立方mの内部空間を確保できる設計です。これは一般的なマンション数戸分に相当する広さなんですって。

従来のようにモジュールを順番に打ち上げ、宇宙で接続していく必要はありません。「Falcon 9」1機に収めて打ち上げるだけ。めっちゃエコ。

2027年、まずは小さく試す

とはいえ、いきなり本格運用に入るわけではありません。

Max Spaceは2027年初頭、「Mission Evolution」と呼ばれる小型試作機を打ち上げる予定です。このミッションでは、宇宙ゴミへの耐性や、生命維持システムなど、「人が実際に住めるかどうか」に直結する要素を検証します。

風船ではなく「しなやかに変形する」内部構造

Max Space

Thunderbirdは、「膨らむ宇宙船」として知られるインフレータブル型とも少し異なります。内部にはソフトな構造材が使われており、居住スペースを実験スペースに切り替えるなど、用途に応じたレイアウト変更を乗組員自身が行なえる設計になっています。空間を固定せず、使い方に合わせて変えられる点が特徴です。

常時4人の宇宙飛行士が滞在でき、微小重力を生かした研究や、医薬品などの軌道上製造といった商業利用も想定されています。

Max Spaceは宇宙ステーションを自前で作るつもりはなかった

実はMax Spaceは当初、宇宙ステーション向けの拡張モジュール技術を他社に提供する立場でした。しかし、NASAが進める民間宇宙ステーション支援の流れを見て、実際に「人が住める形」を自ら示す方向へと舵を切ったといいます。CEOのサリーム・ミヤン氏は、「これは大きなチャンスだと感じた」と語っています。

そして現在、Max Spaceは2029年にも本格的なThunderbirdを軌道に投入する計画を描いています。さらに将来は、地球低軌道にとどまらず、月周回や火星周辺での居住モジュールとしての応用も視野に入れているそうです。

Thunderbirdは、次の宇宙ステーションというよりも、次の「宇宙の住居」を問いかける存在になるのかもしれません。

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