【大河ドラマ べらぼう】佐野政言役・矢本悠馬さんインタビュー「メインキャストを殺める重大な責務と緊張感」「斬るときは鬼になっていた」

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で佐野政言まさこと役を演じた矢本悠馬さんにインタビューしました。第28回で、田沼家のプリンス・田沼意知おきとも(宮沢氷魚さん)を斬りつける衝撃シーンを演じた矢本さん。殿中で刀を振るったときの気持ちや役作り、収録エピソードなどについてお聞きしました。(聞き手 ライター・田代わこ、ドラマの場面写真はNHK提供)

メインキャストを殺める緊張感

――台本読んだときの第一印象は?

矢本さん 最初に前半の台本と、「世直し大明神」の資料を一緒にいただきました。意知というメインキャストを殺める重大な責務があったので、はじめから緊張感がありました。

――政言はどんなイメージで演じられましたか?

矢本さん 最初の段階で、演出の方が「何か仕出かしそうな嫌らしさを出したい」と仰っていたので、ヴィラン的な役をイメージしていました。ただ、途中から引っ込み思案な性格描写も出てきたので、演出の方と相談しながら役作りも変えていきました。

――「世直し大明神」は演じているときに意識しましたか?

矢本さん 意識しませんでした。ただ、最初に「世直し大明神」の資料を見たとき、田沼家がすごく嫌われているなと思いました。意知も嫌な感じが見え隠れする人物なのかなと想像したのですが、収録が始まるとすごく好青年だったので、いったいどうやって意知を嫌いになるのか不安でした。

――最初の台本では、こんな展開になるとは思わなかったですか?

矢本さん 政言に、これほど苦しい物語をつけてくださるとは思いませんでした。森下さんも、台本を書きながら「政言がかわいそうすぎる」と仰っていたそうです。僕もここまでかわいそうな人を演じたことがなかったので、とことん哀れに見えればいいなと思って演じました。

役作りで自分を追い込む

――第27回の冒頭で、意知に役を与えられ感謝していましたが、そこから殺意が生まれるまで、どんな変化があったと思いますか?

矢本さん 意知が誠実だったので、政言も彼が好きで信用していました。ただ、そこから恨みに変化して斬るところまでいくスピード感は、演じるのが大変でした。視聴者の方に、唐突に殺しにいくと思われないよう、27回のひとつひとつのシーンで自分を追い込み、一気に感情をたたみかけていくのが難しかったです。

――介護疲れなど、精神的なストレスが殺意の背景にあったのでしょうか?

矢本さん もともと政言は家柄が良かったのに、佐野家よりランク下の田沼家が上にいて、出世のために自分を意知に売り込まなければならない。父親からはプレッシャーをかけられ、介護もしなければならない。あの時代のシステムに彼は絶望したのだと思います。

――意知に対する怒りもあったと思いますか?

矢本さん 「丈右衛門だった男」(矢野聖人さん)に煽られたので、怒りは多少あったのでしょうけど、壊れてしまったというほうが近いです。追い込まれて心が壊れ、気づいたら刀を抜いていたという感じです。

斬るときは鬼になっていた

――意知を斬ると決めたときの心情は?

矢本さん これで自分の人生を全部終わらせることができる、というすがすがしさがありました。ずっと限界に近い精神状態で生きてきたので、父親が桜の木を切りつけているのを見たときに、もう終わらせたほうが楽になれると思ったのです。死ぬなら、歴史に名を残す大きなことをしようと考えたのだと思います。

――実際に、刀を振るうときの感情は?

矢本さん 政言は人を殺せるタイプの人間ではないので、気持ちを奮い立たせて鬼になった感覚で演じました。実際に斬りかかっているときは怒りの感情が沸いていましたが、それは自分に対する怒りだったと思います。

――殺陣たての収録はいかがでしたか?

矢本さん あの場面では、急に斬りかかったほうがおもしろいと思ったので、不意打ちしたいと提案し、いつも通り意知に挨拶してから突然斬りかかりました。「覚えがあろう」のセリフも、どこで発するか段取りがあったのですが、自分の気持ちが高ぶったところで言わせてもらいました。 ――宮沢さんとアクション稽古もされたそうですね。

矢本さん 日常的に侍が刀を抜く時代ではなかったので、ぎこちない殺陣にして生々しさを出したいと思いました。氷魚くんも同じ意見だったので、二人とも本番だけ本気でぶつかりました。

――最後、切腹のシーンでは、どんなことが印象に残っていますか?

矢本さん あのときは完全に晴れやかな気持ちでした。父親が恨んでいた田沼家に対して一矢報いることができましたし、つらい人生を明日から送らずにすむ。偉くなろうとしなくてもいいし、父親の面倒をみなくてもいい。やっと終わるという感じで、空を見上げて「いい空だな」と思いながら死にました。

血まみれの手で記念撮影

――「おんな城主 直虎」では武芸に秀でた中野直之役が印象的でした。

矢本さん 直虎では最強の役でしたが、今回は最弱でした(笑)。真逆のキャラクターだったので、森下さんも、このギャップを楽しんでおられたのかもしれません。

――8年ぶりの大河ドラマでしたが、現場はどんな雰囲気でしたか?

矢本さん 直虎のときはがむしゃらで、演じるのが精一杯でした。先輩方も、僕を認知されていない方が多かったと思いますが、今回、渡辺謙さんにはじめてお会いしたとき、「作品を見ているよ、共演したかった」と言ってくださって、俳優やっていてよかったと思いました。役柄的にはアウェイに感じたかったので、なるべくみなさんと話さないようにしていたのですが、雰囲気の良い現場でした。

――演じていて楽しかったですか?

矢本さん 全然楽しくなかったです(笑)。難しい役柄で、自分を追い込んでいたので精神的につらかったのですが、意知を斬り終えたときは達成感がありました。政言として、ストレスが発散できたのかもしれません。殺陣シーンのあとは、氷魚くんと一緒に血まみれの手で“恋人つなぎ”して、ラブラブな感じで記念撮影して終わりました(笑)。今振り返ると、楽しかったです。

――28回は反響がありそうですね。

矢本さん 氷魚くんが意知を魅力的に演じてくれたおかげで、28回は盛り上がると思います。二人とも、最後は本気でぶつかりました。メインキャストがいなくなるさみしさはあると思いますが、それにふさわしいシーンになったと思うので、自信を持っています。

矢本悠馬やもとゆうまさん  1990年生まれ、京都府出身。ドラマや映画、舞台などで活躍。主な出演作に映画『ちはやふる』『ゴールデンカムイ』『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』『MIRRORLIAR FILMS Season7 Victims』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』『相続探偵』『舟を編む~私、辞書つくります~』『藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ シーズン3 俺と俺と俺』など多数。

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