ナノプラスチック2700万トンが海を満たしていたという事実
限りなく見つけにくくて、見つけても回収不可能とは。
海には何億トンものプラスチックが漂っています。唾液や血液、さらには母乳や精液のなかでまでマイクロプラスチック(5ミリメートル未満の微小なプラスチック片)が見つかっているにもかかわらず、“マイクロプラスチックが、どこに、どのくらい存在するのか”わかっていませんでした。
今回の新たな研究では、そんな“消えたプラスチック”の謎に一歩迫りました。
北大西洋に隠された2700万トンのナノプラスチック
オランダ王立海洋研究所(NIOZ)とユトレヒト大学の研究チームは、海洋における“ナノプラスチック”汚染の実態を初めて本格的に推計しました。
研究によると、北大西洋だけで1マイクロメートル未満の微細なプラスチック粒子(ナノプラスチック)が2700万トンも浮遊しているとのこと。
科学誌Natureに発表された論文のなかで、研究チームは次のように説明しています。
海洋環境におけるプラスチック汚染は広範に及んでいますが、科学的な注目は主にマクロプラスチックとマイクロプラスチックに集まっています。
一方、海洋ナノプラスチックはほとんど定量化されておらず、質量収支の把握には大きなギャップが残っています。
私たちの研究結果は、ナノプラスチックが海洋におけるプラスチック汚染の主要な原因になっていることを示唆しています。
見えない超微粒子を追え
ユトレヒト大学の大学院生で、研究論文の共同執筆者でもあるSophie ten Hietbrink氏は、アゾレス諸島からヨーロッパの大陸棚へ向かう調査船で12カ所の海水サンプルを採取し、1マイクロメートルよりも大きい粒子をろ過して取り除き、残った物質を分子レベルで分析しました。
そして、その結果を北大西洋全体に当てはめて総量を推定したといいます。
同氏は、今回の発見についてNIOZの声明で以下のように述べています。
2700万トンは衝撃的な量です。しかし、この発見によって、消えたプラスチックの謎に対する重要な答えが得られました。
目に見えない状態で大量のプラスチックが海を漂っているというわけですね…。
拡散するナノプラスチックとその懸念
残念ながら、ナノプラスチックが海洋に流れ込むルートは複数存在します。川から流れ込んだり、空から単独(乾いた状態)で、または雨と一緒に降ってきたりして、海にたどり着くのだとか。
研究チームによると、すでに海洋に存在する大きなプラスチック片が、波や日光によって分解されてナノプラスチックになることもあるそう。
現在、プラスチック汚染が地球と人間を含む生物にどのような影響を及ぼしているかが問題になっています。
NIOZの地球化学者で、この研究の共同執筆者でもあるHelge Niemann氏は、ナノプラスチックが海洋生物を通じて人間の体内に侵入していると警鐘を鳴らします。
ナノプラスチックが私たちの体内に深く入り込むことはすでに知られています。脳組織からも見つかっているほどです。
ナノプラスチックが海洋にこれほど広く存在することがわかったいま、ナノプラスチックがバクテリアやその他の微生物から魚、そして人間のような頂点捕食者まで、生態系全体に浸透していることは明らかです。
しかし、その汚染が生態系にどのような影響を与えるかについては、さらに調査が必要です。
これで「消えたプラスチックの謎」が完全に解決したわけではありません。というのも、今回のサンプルにすべての種類のプラスチックが含まれていたわけではなかったんです。
たとえば、代表的なプラスチックであるポリエチレンやポリプロピレンは検出されなかったといいます。どこに隠れてるんだか。
海に隠れているナノプラからのメッセージ
Niemann氏は、今後の課題や今回の研究が示唆するものについてこう述べています。
「検出されなかった種類のナノプラスチックは、他の分子によって隠されていたのかもしれません。また、私たちは他の海域にもナノプラスチックが同じくらい存在するかどうかも知りたいと考えています。おそらく存在するとは思いますが、まだ証明には至っていません。
そして、すでに海に漂っているナノプラスチックは、決して取り除くことができません。
そう考えると、この研究から得られる重要なメッセージは、少なくとも私たちはさらなるプラスチック汚染を防止すべきだということです。」
リサイクルがちゃんと機能しない状況のなかでプラごみを減らすためにもっとも重要なのは、プラ製品を減らすことだと思うんですよね…。