10分825円「相席屋」タイパ時代でも来店する若者の“本音” 約10年で85→7店舗に衰退の“根本的な背景”

 2010年代半ばは、恋愛の間口がぐっと広がった時代だった。婚活ブームで各地で盛んに街コンが開催されていたうえ、『Pairs』や『Tinder』などのマッチングアプリが浸透して、出会いの形が多様化していった。  『相席屋』もその機運を押し上げた一つかもしれない。即席で初対面の男女が相席して、あとはよろしく盛り上がる。いわゆる「即席コンパ」のような形で、出会いの場を提供するスタイルは注目を集め、最盛期は85店舗を展開していた。

 あれから10年ほど、久々に相席屋のサイトを覗くと、現在は7店舗にとどまり、最盛期と比較すると寂しく映る。まずは相席屋の沿革を振り返りつつ、栄枯盛衰の軌跡をたどっていきたい。  相席屋の運営会社セクションエイトは、相席屋を立ち上げる2014年以前、別業態の『居酒屋 はなこ』を30店舗近く展開していた。  そこに、付き合いのある取引先から、居酒屋を「街コンの会場として場所を貸して欲しい」と依頼が舞い込む。詳細を聞くと、唐揚げやポテトフライなどの簡単な食事を提供して、参加費の約半分を貰える契約だった。街コンが営業時間外に開催されるということもあり、ものは試しに快諾した。

 この「街コンの箱貸し」が、相席屋誕生のきっかけとなった。当時、現場に出ていたセクションエイト専務取締役の太田光則氏が振り返る。  「街コンの準備のために店舗を訪れたら、開催30分前にもかかわらず、入口に行列が出来ていて驚いたのを覚えています。2010年代前半はとにかく街コンがブームで、男女の出会いの主流だったんです。  一方で、参加者にヒアリングすると、思いのほか街コンに不満を漏らす人が多かった。異性と出会えるメリットは大きいものの、数日前から予約しないといけないうえ、今みたいに電子決済がないので振り込みが面倒、おまけにキャンセル料が取られるなど、手続きが煩雑だったんです。


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 「創業直後から2017年頃まで、相席屋はすこぶる勢いが良かった。コンセプトを真似た類似店が跋扈(ばっこ)したことで、商標の無断使用に対して、頻繁に注意喚起を出していたほど、当時は相席屋が繁盛していたんです。  それがコロナ禍などを経て、有象無象にあった模倣店も淘汰され、いま相席業態を軸に展開しているのは当社含め数社しか残っていない。10年足らずで業界が一周した感覚です」(太田氏)  ふらっと居酒屋を訪れて、初対面の異性と飲食を満喫できる――。展開当初は新鮮だった体験も、数年が経ち競合店が増えれば、鮮度が失われていく。

 前述したように、マッチングアプリの台頭により、事前にアプリで吟味したいニーズが高まる。後押しするように、相席屋のメイン層である20代が、コロナ禍で合コンなど対面での恋愛経験をしないまま、「出会い=アプリ」が主流となったことも痛手だった。 ■客単価は6000〜7000円  しかし、実際に店舗を訪れてみると、また違った角度から衰退した背景が浮かび上がってきた。  2025年12月末、『相席屋 新宿歌舞伎町店』に来訪すると、65席の店内はほぼ埋まっていた。年の瀬はあるだろうが、スタッフがインカムで指示を出しながら忙しなく動き、ブームが沈静したとは思えないほどの盛況ぶりだ。

 来店時は休日扱いで割高だったこともあり、料金はチャージ税込605円に、10分ごとに税込825円が加算され、時間内は食べ飲み放題が付く(女性客は時間制限なしで無料)。店舗や曜日によって料金は若干変動するが、男性客は90分ほどの滞在が主流で、計算すると6000〜7000円ほどが予算の目安となるようだ。  店内へ誘導を受けると、かつての居酒屋ルックな雰囲気は跡形もなくなっていた。照明を落とした店内は、随所にネオンサインが散りばめられ、今風な映えを意識した空間に様変わりしている。ただし、この内装は新宿歌舞伎町店だけの仕様で、店舗ごとにレイアウトは異なるようだ。


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 それなら実店舗を活かして、予約なしの即席で出会いの場を提供しようと、相席屋のコンセプトが固まっていきました」 ■1号店は月商70万円の渋い滑り出しだったが…  こうして2014年に、『居酒屋 はなこ』の赤羽店を業態転換する形で、相席屋1号店が開業した。約60席のキャパで、初月は月商70万円と渋い滑り出しとなったが、太田氏は軌道に乗ることを確信していたという。  「創業当初は、他に相席業態の居酒屋もほぼなかったので、どこかいかがわしいイメージが先行して客足がついてこなかった。

 ただ、来店客の評判はすこぶる良く、週3〜4回来る常連も多く、なかには毎日訪れるヘビーユーザーも。もともと私は、前職でレインズインターナショナル(牛角やしゃぶしゃぶ温野菜などを展開する飲食チェーン)にいたのですが、それほどコアなリピーターを抱えるブランドは記憶になかったので、これはいけるんじゃないかと」  太田氏の読みは当たり、赤羽店は2カ月目で150万円、3カ月目で300万円を叩き出す。さらに2号店目の歌舞伎町店を出した直後、TBSの『サンデー・ジャポン』に紹介されたことで、一気に火がついた。65席の比較的小箱で、日計100万円近くにのぼる勢いを見せ、その後の店舗も出せば当たる状況が続いた。

 それ以降は『居酒屋 はなこ』を業態転換する形で、一気呵成の展開を見せる。相席業態の先駆者として、模倣店が増える前に先手を打とうと、第1号店の開業から3年足らずで85店舗まで出店網を広げる。なかには月に9店舗を出店した時期もあり、全盛期は30都道府県まで規模を広げた。  一方で、2017年に、勢いは臨界点を迎える。マッチングアプリの浸透や、模倣店が乱立したあおりを受け、相席屋は徐々に規模を縮小していく。

 セクションエイトとしても、スタンディングバー『The Public Stand』や、ソロ活専門の相席業態『THE SINGLE』など別ブランドに注力するようになり、相席屋に回すリソースは減っていく。  結果的に、相席屋は2019年には60店舗前後まで減り、コロナ禍でさらに30店舗近い閉業を迫られた。コロナが沈静化して以降も、エリアによっては、業績はそれ以前の8割程度にとどまる。他ブランドへの業態転換も進み、現在7店舗となった。


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 案内に従うと、ゆったりとしたボックス席で待ち構えていたのは、22歳の女性2人組。クリニックの受付事務をしており、すでに1時間半いて3組と相席したらしく、卓には〆のスイーツが置かれていた。 ■相席屋を訪れる30代半ばの本音  利用動向を探ろうと、いくつか質問をしたものの、鬱陶しく思われたのか場は白け気味に。挙げ句の果てに、卓上にあるスイッチのコントローラーを指差し、一緒にゲームをやろうと提案される。いわゆる消化試合のような空気だった。

 結局、そのままゲームや飲食で時間を潰し、1時間ほど滞在して、会計は1人あたり6105円。お酒が入っていたこともあり、収穫もなくあっという間に時間が過ぎた感覚だ。力量不足なのは重々承知だが、個人的には人を選ぶ業態に感じた。  運営元のセクションエイトによれば、相席屋でのカップル成立率(相席した男女が一緒に退店することを指す)は20%ほど。前述した平均客単価6000〜7000円と掛け合わせると、単純計算で3万〜3万5000円かけなければ、相席した女性との「その後」は生まれない計算となる。

 これを高いと見るか低いと見るかはさておき、店内にいた客に相場を伝えてみると、こう反応が返ってきた。  医療機器のMRを手がける男性(30代半ば)は「この歳になるとガチで恋愛相手を探すことはない(笑)。その場で素人の若い子と飲めて、その先も期待できるなら、数万円かかっても全然良い」と話す。これまで5〜6回来店したなかで、10人近い女性と連絡先を交換したそうだが、特に真剣な交際は考えてないそうだ。  月1回ほど通う男子大学生は「会計は出来るだけ安く収めたいので、席替え(相席したい女性を変更すること)は必須。早く2軒目に行く流れを提案して、微妙な反応されれば次に行く。それか一部店舗にある相席し放題のプランを利用している」と話す。

 対して、女性陣は、来店動機が軽いように感じる。22歳女性は「近くにバイト先のバーがあるので、出勤前に軽くご飯を食べに寄っている。気になる人がいたら職場のバーを教えることも」と話す。20歳の専門学校生は「今日初めてで、まあ友達とノリで来ただけなんで」と他所行きの対応をされた。  もちろん建前な部分もあるだろうが、来店客の話で痛感したのは、男性の方が女性より本気度が高いということだ。  これは当然ながら、男性だけ料金がかかるシステムの影響だろう。一般的に考えれば、いくら長居しても料金が発生しない女性は受け身になり、いわゆる「タダ飯目的」の来店も一定数考えられる。一方で、分刻みで会計が加算されていく男性は、それだけ前のめりになる。

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