ロシアの弾道ミサイル備蓄が大きく減少、消耗に補充が追いついていない
ウクライナ国防省情報総局は「2026年7月中旬時点におけるロシアのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通し」を明かし、約1年前と比較してイスカンデルMは400発減、イスカンデルKは240発減、キンジャールを50発減で、長距離攻撃での消耗と補充が釣り合っていないように見える。
ウクライナメディアのRBC-UkraineやKyiv Independentは2025年6月、ウクライナ国防省情報総局の声明を引用して「ロシアのミサイル保有数は1,950発以上」「戦術弾道ミサイルのイスカンデルMを最大500発、巡航ミサイルのイスカンデルKを最大300発、Tu-160やTu-95から空中発射する巡航ミサイルのKh-101を最大260発、艦艇や潜水艦から発射する巡航ミサイルのカリブルを400発以上、Tu-22Mから空中発射する空対艦/空対地ミサイルのKh-22/Kh-32を最大280発、MiG-31Kから空中発射する弾道ミサイルのキンジャールを最大150発、北朝鮮から入手した弾道ミサイルのKN-23を最大60発を保有している」と報じた。
ロシアのミサイル生産能力についても「ロシアは月最大195発のミサイルを生産できる」「イスカンデルMを月最大60発、イスカンデルKを月最大20発、Kh-101を月最大60発、Kh-32を月最大10発、カリブルを月最大30発、キンジャールを月最大15発生産している」と、イラン製無人機シャヘドのロシアバージョン=ゲランについても「ゲラン2と中国製エンジンや部品で構成されたシャヘドの代替品=ガルピヤA1を計6,000機以上、Shahedを模した安価な囮無人機=ガーベラも6,000機以上保有し、ゲラン2とガルピヤA1を合わせて1日最大170機生産している」と報告していた。
ウクライナメディアのNew Voice(NV)は18日「ロシア軍は6月から現在まで200発以上のミサイルを発射した」「特にパトリオットミサイルのPAC-3が不足している状況に乗じ、弾道ミサイルで重要インフラや住宅を攻撃している」「これによりロシアが保有する弾道ミサイルの備蓄が大幅に減少したが、ミサイルの量産体制を維持して備蓄を進めている」と報じ、ウクライナ国防省情報総局はNVに対して2026年7月中旬時点でのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通しを明かしている。
ウクライナ国防省情報総局によるロシアのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通し ミサイル 備蓄量 月あたりの生産能力 イスカンデルM 100発+ 約50発 イスカンデルK 60発+ 15発 キンジャール 約100発 5発 カリブル 450発+ 20発 オニキス 600発+ 5発 Kh-101 最大100発 60発 Kh-32 250発+ 10発 ツィルコン 120発+ 3発 KN-23 約50発 – RM-48U 400発+ 40発 Kh-69 最大20発 4発ウクライナへの弾道ミサイル攻撃で使用されるのはイスカンデルMとS-300用の迎撃ミサイル=5V55/S-400用の迎撃ミサイル=48N6で、RM-48Uは5V55/48N6を改造して作られた標的ミサイル(Raketa-Mishen)であり、RM-48Uは対空訓練で使用される標的なので地上目標に対する精密な誘導能力はほとんどない=イスカンデルMの囮として使用されているというのが戦術的な評価だ。
約1年前の見積もり保有数と比較してイスカンデルMは400発減、イスカンデルKは240発減、キンジャールは50発減、Kh-101は160発減、Kh-22/Kh-32は30発減で、この結果はウクライナに対する長距離攻撃での消耗と補充が釣り合っていないことを示唆しており、現在の攻撃ペースを維持するのは不可能なように見える。
出典:Lockheed Martin
巡航ミサイルのイスカンデルK、Kh-101、カリブルを阻止可能な迎撃ミサイル(パトリオットシステムのPAC-2 GEM-T、SAMP/TのASTER30、IRIS-T SLM、ホーク、NASAMS)は豊富なため攻撃効果は異常に低く、このあたりはウクライナの防空リソースを削るため使用している可能性が高く、イスカンデルMとキンジャールを合わせた補充能力も月55発程度、これを全てウクライナで消耗できない事情、約1年前の生産量を維持できていても生産量がほとんど増加していないことを加味していくと、イスカンデルMでウクライナの産業基盤を崩壊させるというのは大げさかもしれない。
ちなみにウクライナは7月2日に発射された弾道ミサイル24発のうち4発しか迎撃できず、ゼレンスキー大統領も「迎撃ミサイルの残弾がないので弾道ミサイルを迎撃できない」と公に認めていたが、米国とポーランドがPAC-3 MSEを供給すると約束し、7月14日に弾道ミサイルの迎撃(イスカンデルM/S-400×8発中5発迎撃)が確認され、19日にはイスカンデルM/S-400×25発とツィルコン×10発の計35発中17発を迎撃しており、ウクライナに対するPAC-3 MSEの供給はニーズを完全に満たしていないかもしれないが供給自体は続いている。
個人的に思うことはウクライナの長距離攻撃が本格化したことで、目標に着弾した自爆型無人機が引き起こす爆発、目標から逸れた自爆型無人機の着弾、迎撃した自爆型無人機の残骸落下による民間人の犠牲がロシアでもほぼ毎日のように発生しており、こういう言い方は不謹慎かもしれないが「長距離攻撃で発生する民間人の犠牲」という部分でもウクライナとロシアは対称的になってきたのかもしれない。
追記:皆さんが記事の内容をどう解釈するかは自由ですが、管理人の伝えたい意図は「情報総局が明かすロシアのミサイル備蓄と生産能力の見通しが初めて減少に転じた」「この情報が正しいなら弾道ミサイル攻撃の主力=イスカンデルMによる攻撃は月50発を超えない程度になり、限定的なPAC-3 MSEの供給で幾らか防衛シードルを貫通して被害が生じても、ウクライナの産業基盤を崩壊させるような大打撃には至らない可能性が高い」という点で、ロシアも攻撃量を調整すると思うのでイスカンデルMの備蓄が枯渇するとは思えません。
出典:Wild Hornets
イスカンデルMの弾頭重量は約480kgなので50発全てが着弾しても投射火力は約24トンに過ぎず、同じ投射火力量をSu-34の運搬量で換算するとたったの3機分、自爆型無人機シャヘド(改良型の弾頭重量は90kg)なら267機分に過ぎず、ウクライナ全土を焦土化するには投射火力量が絶望的に足りないため、1万機のシャヘドが運搬できる約900トンの投射火力量の方が強力です。
ロシアが長距離攻撃において不利なのは輸出総額の約60%を占める石油関連施設=戦費を稼ぎ出す産業施設が明確過ぎて攻撃効率がよく、逆にウクライナの輸出総額において50%以上を占めるのは農産物なので生産施設を破壊するのが不可能に近く、輸出施設のオデーサ港を4年以上も攻撃しても穀物輸出を止めることができず、ウクライナによる長距離攻撃が本格化してガソリン不足に悩まされているロシア人ミルブロガーが「不公平だ」「なぜロシア軍がウクライナの穀物輸出にダメージを与えられないのか」「これはもう軍の能力の問題だ」と不満を言っています。
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※アイキャッチ画像の出典:Mil.ru/CC BY 4.0