万博警備業務で時給インフレ、破格の「2500円」 人手不足深刻で採用競争が過熱

大阪・関西万博の会場建設工事が進む夢洲=12日午前、大阪市此花区

2025年大阪・関西万博に関わる警備業や飲食業界で人手不足が深刻化している。半年間の会期限定のためか時給が高騰し、平均の2倍以上の条件で求人する企業も。万博に参加しない企業からは採用競争の過熱を懸念する声が上がるが、専門家は高齢者ら労働人口の掘り起こしにつながると指摘する。閉幕後を見据えて人材獲得の好機に転じ、本来の目的である経済成長を実現できるかが問われる。

会場に2000人配置

「時給2500円」「経験不問」

大阪市港区のハローワーク大阪西で13日に開かれた就職面接会に、万博会場の警備業務を受託した2社がブースを出展していた。事前に時給などの採用条件を提示したところ、延べ24人分の参加枠が埋まり、参加できない求職者も出た。

大阪市内でカウンセラーとして働く女性(34)は副業として警備業に関心を持ち、面接会に参加したが「夏場は炎天下での業務になる。体力面も考慮して働くかどうかを決めたい」と会場を後にした。

万博会場で警備業務に携わる人材を採用するための就職面接会が開かれた=13日午後、大阪市港区のハローワーク大阪西

4~10月の会期中、約2820万人の来場を想定する日本国際博覧会協会(万博協会)は会場内で最大約2000人の警備員を配置し、入場ゲートでの手荷物検査や会場内の雑踏警備を行う。

求人倍率は7倍超

リクルートの調査では警備員の平均時給(今年2月)は、関西圏で1230円。首都圏の1329円に比べて割安ではあるものの、前年同月比7・3%増だ。

破格の時給2500円は、人手不足にあえぐ警備業界の苦悩と窮状の裏返しでもある。警備員を含む「保安職業従事者」の有効求人倍率(1月)は全国で7・30倍と、職業別で3番目に高い。大阪の倍率も6・78倍で、全職業の1・19倍を5ポイント超上回る。

もっとも、競争激化に合わせて全ての企業が時給を上げられるわけではない。万博で警備業務を請け負うイオンディライトセキュリティ(大阪市中央区)が提示する時給は1200~1500円。「採算を考えれば、これ以上出せない」(担当者)としながらも、日当の支給や万博後の雇用継続をアピールし採用活動を続ける。

飲食業にも波及

万博協会は昨年4月以降、会場案内や巡回などを担うスタッフ約千人を採用。時給は2021年開催の東京五輪・パラリンピックなどを参考に、人工島・夢洲(ゆめしま)にある万博会場の立地や業務負担、有期雇用などの条件を反映し、1850円に設定した。

この金額がその後の万博関連の採用にも影響したとみられ、飲食業でも時給が上昇。会場内5カ所にブースを出す「白ハト食品工業」(大阪府守口市)は計250人を採用し、時給は東京や大阪の店舗より400円高い1900円とした。

国内で人手不足倒産が増加傾向にある中、万博に関わらない企業は危機感を募らせる。大阪労働局によると、一部企業から「高時給の万博に求職者が流れ、募集をかけても集まりにくい」との声が寄せられ、開幕までに人材を確保しようとする動きが起きた。

10月の万博閉幕後には有期雇用の従業員らが離職するケースも増えるとみられ、同労働局の担当者は「企業と求職者のミスマッチが生じるようであれば、職業紹介などの対策を講じたい」と話している。(山本考志)

就労掘り起こし、人材獲得の好機に

日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長の話

藤山光雄氏

万博会場で働く人たちは、高い時給だけでなく特別な場所での経験に魅力を感じ、職場に選んだケースも多いだろう。そうした人たちが仕事のやりがいを感じれば、企業にとっては閉幕後も別の職場で働いてもらえる可能性がある。万博で学生や専業主婦、高齢者らの就労が増えれば労働人口の掘り起こしにもなり、万博に関わらない企業にも閉幕後、人材獲得のチャンスが訪れる。

企業側がチャンスをつかむためには、好条件を提示する努力が求められる。関西の飲食業界や宿泊業界は訪日客(インバウンド)の増加で活況だが、他の業種に比べて時給が低く、求職者が集まりにくい傾向にある。事務作業のデジタル化などで生産性を改善し、収益力を高めなければならない。

求職者は賃金面だけでなく、働きやすさも重視している。所得税が課される「年収の壁」などを意識して働き控えが起きる中、近年は短時間で働くスポットワークなどの需要が増えており、柔軟な働き方を取り入れることも重要だ。(聞き手 山本考志)

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