焦点:目論見外れたネタニヤフ氏、イラン攻撃で成果出ず支持率低下
[ドバイ 14日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相にとって、イランとの戦争は歴史に自らの名を刻む大勝利をもたらすはずだった。ところが攻撃開始から6週間以上が経過した今も、圧倒的な軍事力を政治的得点に結びつけられずにいる。
あらゆる戦線で敵勢力は弱体化こそしたものの、無力化には至っていない。イランは米国とイスラエルから激しい攻撃に遭い、指導者らを亡くしてもなお体制を維持し、抵抗の構えを崩していない。
イランは核開発能力を維持し、そのミサイル攻撃能力は実証され、さらに世界の石油貿易の5分の1が通過するホルムズ海峡の支配権も握っている。
パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスは武装解除も解体もされておらず、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラはイスラエル北部へのロケット弾攻撃を続けている。
イスラエル国家安全保障研究所のイラン上席研究員、ダニー・シトリノビッチ氏は「ネタニヤフ氏は勝っていない。この戦争は戦略的な失敗だ。作戦開始時に彼が約束したことと、現状との間には大きな隔たりがある」と断言した。
<ネタニヤフ氏の支持率低下>
76歳のネタニヤフ氏は、トランプ米大統領とともに開始した軍事作戦が決定的な成果を出せないことで、政治的な代償を払っていると、政治アナリストらは指摘する。
ヘブライ大学のラボが11日に行った世論調査では、今回の戦争を成功と見なすイスラエル国民はわずか10%で、ネタニヤフ氏への支持率は攻撃開始時の40%から34%に下落した。半数以上が、同氏の指導力を「不十分」または「非常に不十分」と評価している。
10月後半に議会選挙を控え、同氏の政治的リスクは高まっている。
攻撃開始当初、ネタニヤフ氏はイラン国民に対し「街頭に繰り出し」聖職者による統治体制を打倒せよと呼びかけた。しかしイスラエル軍高官によれば、治安当局はその後、体制転覆は近い将来実現しないとの見方を強めるようになった。
イスラエル当局者2人がロイターに語ったところでは、当初は迅速な作戦により3週間で「目的を達成する」と期待されていた。しかし現実には、戦争は地域的・世界的な影響を伴う広範な対立へと拡大している。
<空軍力頼み>
ネタニヤフ氏の元顧問アビブ・ブシンスキー氏によると、ハマスによる攻撃で傷ついたネタニヤフ氏の威信は、イラン攻撃当初は回復していた。ハマスおよびヒズボラに対する強硬姿勢が一部国民の共感を得たためだが、その後は支持率が低下している。
3月19日、エルサレムで記者会見するネタニヤフ首相。代表撮影。REUTERS
地域の政治アナリストは、ほぼ空軍力のみに頼った作戦は戦術的には印象的で成果も上げているが、戦略的な最終目標達成に向けた首尾一貫した流れにはつながっていないと指摘する。
シトリノビッチ氏は「F15やF35(戦闘機)が中東を再編できる、十分な数のイラン指導者を殺害すれば体制は崩壊する、という考え方がある。しかしそれは誤った前提であり、その代償は回を追うごとに高まっている」と語った。
ブシンスキー氏も、指導者の殺害に頼るイスラエルの姿勢を疑問視する。「常に誰かが代わりを務める。(指導者殺害は)熊を目覚めさせるだけで、仕留めることにはならない」
イスラエル当局者と西側情報筋によると、先週合意に至った停戦案について、ネタニヤフ氏が知らされたのは最終段階になってからだった。西側情報筋は、同氏は交渉プロセスから外されたことに憤慨していたと語る。
ネタニヤフ氏はその後、パキスタンが仲介する交渉で蚊帳の外に置かれたという印象を打ち消そうとしており、バンス米副大統領が機内からの電話で交渉内容について報告してきたとする声明を14日に出した。
<解き放たれた魔神>
イスラエルが決定的な軍事的勝利を得られない中、ガザやヨルダン川西岸地区での安全保障問題が残り、レバノンとの紛争も続く。地域の外交官らは、ネタニヤフ氏のジレンマは深まると見ている。
またネタニヤフ氏は、米国とイランが合意すれば自身の政治的苦境が深まるとの読みから、停戦に向けた即時の外交的進展を阻止しようとする可能性もあると外交官らは言う。
イスラエルは、イランのミサイル・核プログラムを抑制し、濃縮ウランを撤去する合意であれば受け入れるとしてきた。
しかしイラン専門家らによれば、米国も今回の戦争でこれまでと異なる現実に直面することになった。イランが米国との紛争に耐えられることを悟り、湾岸のインフラを攻撃してホルムズ海峡を支配すれば敵を脅かせることを確信してしまったからだ。
シトリノビッチ氏は、イランによる海峡支配について「一度瓶から出た魔神は元に戻せない」と言う。「イランは今、自信を深め、勢いづいている。以前の交渉で提示された内容より、はるかに多くのことを要求してくるだろう」と予想した。
かつて米国の中東交渉官を務めたアーロンデービッド・ミラー氏は、最大の敗者はペルシャ湾岸のアラブ諸国だと指摘する。より強硬化したイラン指導部と対峙せざるを得なくなったからだ。
サウジアラビアを拠点とする湾岸研究センターのアブドゥルアズィズ・サゲル所長は、湾岸諸国はイランが船舶や港湾を脅かすことを許すくらいなら、イランとの対立が続くリスクを取ってホルムズ海峡の通航を維持するだろうと述べた。
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