日産の外貨建て債、過去最高利率で発行へ-金利負担は再建に逆風
日産自動車が計画する外貨建て社債の利率は、同社として最も高い水準になる公算が大きい。信用力の低下により調達コストが上昇し、利払い負担の増大が経営再建の足かせとなる恐れがある。
日産はユーロ建てとドル建ての計5本、総額40億ドル(約5800億円)の社債発行に向け、需要調査を実施している。事情に詳しい関係者によれば、ドル建て10年債では参考利率として8.125%が提示されている。ブルームバーグのデータによると、過去最高は1986年に発行した10年債の7.5%。発行条件は米国時間10日に決まる予定だ。
販売減少により業績が急速に悪化している日産は、ブルームバーグの集計によればグループ会社と合わせて2025年から26年に計約1兆円の社債償還を迎える。今後は信用力の低下を背景に高金利での資金調達や利払い負担の増大が懸念される。
日産は電子メールで、調達コストについて過度な負担になるとは考えていないとした上で、電動化など将来の収益力を高める分野への投資を進める計画もあり、中長期的には業績の押し上げにつながるとした。
ただ、クレジット市場では悲観的な見方もあり、大きいほど信用リスクが高いことを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は8日、09年以来の高水準を記録した。
10日の東京株式市場で日産株は一時2.1%下落し、09年以来の安値を付けた。
日産の格付けは、ムーディーズ・ジャパンが2月に投資適格から投機的格付け(ジャンク級)に引き下げた。S&Pグローバル・レーティングも23年からジャンク級にしている。7月現在はムーディーズが「Ba2」、S&Pが「BB」で、いずれもジャンク級の上から2番目だ。信用リスクが低い債券は投資適格債よりも利率を高く設定して投資家を呼び込む。
野村証券の荻野和馬シニア・クレジット・アナリストは、業績が悪化している企業にとって「日本市場では調達できる金額に限りがある」とし、「大規模な資金が必要な場合は海外が有力な選択肢になる」と話す。
ブルームバーグのデータによれば、同社が外貨建て社債を発行するのは約5年ぶり。ムーディーズとS&Pがともに投資適格で最下位の格付けにしていた20年にドルとユーロで総額1兆1000億円の社債を発行、ドル建て10年債の利率は4.81%だった。
アセットマネジメントOneの加藤晴康ファンドマネジャーは、米国の関税政策を巡る不透明感が高まっており、国内投資家が流通市場で自動車メーカーの社債を買いづらくなっていると指摘。このタイミングでの起債は「案件をより難しくしている」と話す。一方で、事業改革を進める決意の表れでもあり、「外貨でこれだけ取れれば信用力にはポジティブだ」とみている。
日本企業のジャンク債に強い需要
日本企業による外債発行が増えており、楽天グループやソフトバンクグループといったジャンク級の格付けでも海外市場で需要を集めるケースが相次いでいる。市場規模が大きいことや、リスク資産への投資に慣れた海外投資家の存在が背景にあり、日産の外債は日本企業がこうしたマネーを継続的に取り込めるかを占う試金石となる。
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日産の広報担当者は、年度内に外債償還を控えているため、海外市場での調達を選んだと説明。今後も定期的に外債発行を続ける方針を示し、資金調達の手段を多様化することでリスク分散が可能となり、グローバル市場でのノウハウ維持にもつながると語った。
経営再建を進める日産にとっても、海外市場での安定的な資金調達ルートの確保は財務基盤の強化だけでなく、今後の成長戦略でも重要な位置付けとなる。