ロシアのウクライナ領内進軍、今年大きく鈍化-強気の外交とは裏腹

ロシア軍は戦争で優位に立っていると、プーチン大統領は主張する。だが実際は、ウクライナ軍の頑強な抵抗を受け、今年に入ってからはわずかな前進しか遂げていない。

  ロシア軍は常に数で勝り、制圧地域を着実に広げてはいる。それでも戦場の様子は、プーチン氏が戦争目標を達成するには程遠いことが示唆される。オープンソースの地図データを手がけるディープステートがまとめたデータによると、ウクライナ東部における年初からのロシア軍の前進ペースは、昨年末までの同じぐらいの期間と比べ、半分程度に減速した。

  トランプ米大統領が戦争終結に向けた取り組みから手を引こうとする中で、ロシアは一方的に併合を宣言したウクライナ東部と南部の4州の割譲を迫る姿勢を崩していない。この4州について、ロシアは完全には掌握できていない。ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアの要求を拒んでいる。

ドネツク州ポクロウシクの中心部で、ロシアの攻撃により破壊された建物の前を歩くウクライナ兵(4月23日)

  外交的な取り組みが失速し、ウクライナおよび欧州全体の安全保障の未来は戦況によって決定される可能性が高まっている。現時点では膠着(こうちゃく)状態に近く、米国の大規模な支援が見込めない中でウクライナとその支援国が人員と兵器の供給を継続できるかが鍵を握る。

  ブルームバーグが追跡調査しているデータによれば、ロシア軍は昨年8月半ばから年末まででウクライナ領内の支配地域を週平均で約125キロ平方メートル拡大したが、今年に入ってからは同41キロ平方メートルにとどまっている。

  戦闘の状況は、プーチン氏に有利な方向へと動いた外交面での変化とは著しく対照的だ。同氏は今週の電話会談でトランプ氏から停戦の要求や制裁の脅しを受けることなく、時間稼ぎに成功したとみられる。一方、欧州ではトランプ氏が長く言いはやしてきた迅速な和平実現の公約を放棄するとの不安が高まった。

  事情に詳しい関係者によると、プーチン氏との電話会談後に欧州首脳と話したトランプ氏は、ロシアの勝利を確信していると示唆し、プーチン氏の主張の多くをただ繰り返した。関係者は非公表の協議だとして、コメントは控えるとした。

  だが、戦場の様子は異なる見通しを示す。公開されているデータからも、1月以降にロシアが新たに占領した領土はウクライナのわずか0.15%に過ぎないことが明らかだ。最も激しい戦闘が行われているウクライナ東部のドネツク州は、10年以上にわたり一部が支配されているが、それでもロシアは全域を掌握するに至っていない。

  確かに、こうした数字にはただし書きが付く。ウクライナでは厳しい冬の間、戦闘が下火になり、夏季に激化する傾向がある。また、全ての戦争がそうであるように、戦場から遠く離れた政治的判断によって戦争は予想外の方向に進む可能性もある。

ウクライナが設置した対戦車障害物「竜の歯」(2日、ウクライナ・ドネツク州)

  ディープステートのデータを基にブルームバーグが試算したところによると、ベルギーよりも少し小さいドネツク州の完全制圧だけでも、ロシア軍の現在の前進ペースでは数年かかる。あくまで理論上の話でしかないが、これを基に単純に計算すれば、ウクライナ全土の占領には100年を優に超える時間が必要になる。

  カーネギー国際平和財団のロシア・ユーラシア上級研究員、エリック・チャラメッラ氏は「4州全てを速やかに制圧できるとのプーチン氏の考えは、全く現実的でない。近い将来ですらない」と指摘。ウクライナの防御網がかなり発達していることを考慮すれば、ロシアは「局地的な突破しかできないだろう」と述べた。

原題:Russian Advance in Ukraine Is Slowing Despite Putin’s Confidence(抜粋)

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