ジャングリア沖縄が開業-新テーマパーク誕生地は戦略地政学上の要
沖縄本島北部に広がる亜熱帯ジャングル「やんばるの森」に25日、日本の新たな観光拠点「ジャングリア沖縄」が誕生した。このテーマパークでは大自然を体験できるほか、緑豊かな山々を望むインフィニティスパを楽しめる。四輪バギーや気球も用意され、冒険気分も味わえる。
一方、ここから車で1時間もかからない場所では米海兵隊がジャングル戦の訓練を行うなど、インド太平洋地域で最大級の米軍部隊が駐留する。沖縄諸島は東京よりも台湾に近く、中国などによる侵略の可能性を阻む米国の戦略地政学上の要だ。
それと同時に、沖縄は日本有数の観光地であり、2024年の観光客数は約1000万人と、ほぼハワイに匹敵する水準だった。
沖縄の人々はこうした二面性と長年向き合ってきた。地元の政治家は米軍基地の撤去・縮小を訴え続け、専門家は基地の存在が日本で最も貧しい地域である沖縄の発展を妨げていると指摘する。
ジャングリアは、そんな沖縄の経済を活性化すると期待されている。関西大学の分析によれば、建設効果を含め、初年度に約6600億円の経済波及効果が予想されている。
ジャングリアを開発し、運営も手がける株式会社刀は、沖縄は東アジアの主要都市から航空便で容易にアクセスできる距離にあるとして、国内外からの集客を見込む。
「非常に恵まれた立地だ。沖縄は東アジアの主要都市の中心であり、3-4時間圏内に20億人の市場がある」と話すのは、かつてユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の運営を手がけ、17年に刀を創設した代表取締役CEO(最高経営責任者)の森岡毅氏だ。
本部(もとぶ)半島に位置するジャングリアは、ユネスコ世界自然遺産に登録された広大なジャングルに隣接している。那覇市や那覇空港のある沖縄本島南部の経済中心地と比べると、この地域は人里離れ、開発も進んでいない。
かつてのゴルフ場跡地に建設された60ヘクタールの園内には、ジップラインや恐竜がテーマのサファリ、各種レストラン、夜の花火ショーなどのアトラクションが設けられている。
西平弘樹さん(32)は「ここまでわざわざ来る機会が今までなかった」と語る。那覇市の自宅から約80キロの距離を移動し、正式オープン前のプレオープンに家族と参加した。
ジャングリアは1500人の直接雇用を生み出し、沖縄本島北部の活性化を促すほか、より多くの観光客を呼び込み、観光収益をより均等に分配する効果があると森岡氏はみている。
刀によれば、総事業費約700億円はエクイティ(資本)とデット(借り入れ)ほぼ半々で調達し、株式出資者のおよそ7割は沖縄の企業だった。
地元住民は慎重ながらも楽観的だが、16年にUSJを運営するユー・エス・ジェイが同地域におけるテーマパーク建設計画を撤回した記憶はまだ新しい。観光客や労働者の急増により、交通渋滞や住宅不足が深刻化するとの懸念もある。
ジャングリアの地元、今帰仁(なきじん)村の観光協会で事務局長を務める横澤一美氏は「何かがバズってしまうとブワーってくる。そうなったときの怖さはある」と話す。同村はこれまで、心身のバランスを整えるウエルネスプログラムに重点を置いた地域づくりに力を入れてきたという。
同村商工会の島袋禎好・事務局長が心配しているのは、ジャングリアによる経済効果が地域社会に十分に還元されるかどうかだ。例えば、地元産のスイカやマンゴーが施設内のレストランで使用されるかどうかは不確実だ。
「当初は懐疑的というか、大丈夫なのかなという声もあった。そんなに否定的ではないが、大歓迎というわけでもない微妙なところだ」と同氏は述べた。
沖縄の観光産業は23年度に約8500億円規模となり、県内総生産(GDP)の2割近くを占めた。米軍は県内に31の基地と約2万6000人の人員を抱える。沖縄国際大学の宮城和宏教授(経済学)によれば、基地は沖縄本島の土地の約15%を占めるが、経済活動への寄与度は約5%で、雇用への寄与度は1%程度に過ぎない。
基地反対派の井浦みつる氏ら多くの人が、米軍基地の存在によって沖縄が攻撃対象になり得ると警戒している。
井浦氏は、ジャングリアから車で20分ほどの小さな港で抗議活動を行っていた。ここから砂が運搬されている辺野古では、米軍普天間基地の移設工事に伴う埋め立てが進んでおり、島民の強い反発を招いている。
井浦氏は、このテーマパークが沖縄文化を軽視しているのではないかと不安視しており、観光業は住民の雇用や地元産品の活用、民意の反映を通じて地域の活性化に貢献すべきだと考えている。同氏は「大きな資本が入ってきて沖縄が壊されるというようなやり方には反対だ」としている。
20年余り日本に在住する元米海兵隊大佐で、現在は日本戦略研究フォーラム(JFSS)の上席研究員を務めるグラント・ニューシャム氏は、沖縄における観光、開発、地域安全保障の相互作用が「複雑な状況」を生んでおり、「私が何十年と見てきた中でも解決が難しい問題だ」と指摘。
ジャングリアについては、「素晴らしいし、目先は経済にプラスになる。ただ、それが沖縄の経済や社会が抱える構造的課題に影響を与えるかというと、恐らくそうではない」との見方を示した。
原題:Japan Tourist Hub Is at the Heart of US-China Rivalry: Dispatch(抜粋)