iPhone利用者に“新たなリスク” 誰のためのスマホ新法か

公正取引委員会が、いわゆる「スマホ新法」のガイドラインを発表。日本のユーザーに不具合が生じる可能性が出てきた。 【もっと写真を見る】

 公正取引委員会は2025年7月29日、12月より施行される「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(通称、スマホ新法)」のガイドラインを発表した。    アップルに対して、AppStore以外のアプリ配信サイトの存在を認めさせたり、iPhoneに搭載される独自機能に対して、第3者が開放を迫られるようにする、といったことが盛り込まれた。    ガイドラインが正式に公表されたことに対し、アップルは以下のようなコメントを発表した。    「Appleは日本で40年以上にわたって事業を展開しており、国内で100万人以上の雇用を支えていることを誇りに思っています。また、App Storeが、開発者の皆さまにとって魅力的なビジネスの機会を提供し、ユーザーにとって最高のアプリ体験ができる場であり続けられるよう、常に革新を重ねています。しかし、政府が導入しようとしているEU型の規制は、プライバシーやセキュリティの保護を損なうだけでなく、私たちの技術やサービスを競合他社に無償で提供することを強いるものであり、新たなリスクを生じさせかねません。こうしたリスクを適切にご理解いただけるよう、私たちは引き続き公正取引委員会との対話を重ねてまいります」    スマホ新法は、欧州連合(EU)ですでに施行されているDMA(デジタル市場法)を後追いしているとみられている。ヨーロッパはアメリカ企業に対しての風当たりが特に強い。アップルやグーグルといったアメリカのIT企業を苦しめようという魂胆が見え隠れする。表向き「ユーザーのために競争を促進する」という狙いで法制度が進んだが、実際にDMAが施行されて以降、思惑とは違った方向に市場は進み始めているようだ。   iPhone内の個人情報が見られる懸念    アップルによると「EUではDMAによって、アップルでも認識していないようなiPhone内の個人情報を他社が見てしまう懸念が出てきた」という。    DMAが施行されたことで、サードパーティでもユーザーのiPhoneで記録されたWi-Fiのネットワーク接続履歴や通話履歴、カレンダーへのアクセスができるような許可を求める動きが出始めたという。    実際、2025年5月末時点で機能を開放してほしいというリクエストが150件ほどアップルに寄せられているという。    単に「小規模なデベロッパーが面白いゲームを作るため」というわけではない。大手のテック企業、しかもヨーロッパが主体ではない企業からのリクエストが多いという。    アップルによると「Facebookを手がけるメタからは15件のリクエストがあった」という。   アメリカ企業のための法律に    メタとすれば、ユーザーがどこのWi-Fiにつなぎ、どんな友人と音声通話をして、どんなイベントがあったのかを把握することで、よりユーザーの行動履歴に合わせた広告をFacebook上に展開するということを検討しているのかもしれない。    DMAという法律によって、ユーザーの個人情報がいままで以上に丸裸になり、SNS事業者の広告収入が増えるというわけだ。    DMAが施行された当初、その導入目的はあまり明確になることなく、法整備が進んでいた。日本のスマホ新法も、文章を読むと、曖昧な表現が多く、アップルが穴に落ちそうなトラップが仕掛けられているようにも見える。    本来、これらの法律の理想は、スタートアップなどがiPhoneのプラットフォームを活用し、新たなビジネスを創出できる環境整備だ。    またDMAもスマホ新法も、本来はユーザーのための法律であるべきだ。しかし、いつの間にか、アメリカ企業であるメタのための法律になろうとしているのだ。   公取委は誰のために働いているのか    アップルの商品群は、製品ジャンルを超えた連携が魅力だったりする。    例えば、AirPodsを新たに購入すると、ケースの蓋を開けた瞬間にiPhone上にAirPodsのイラストが登場。PINコードなどを打ち込まなくても、すぐに接続することが可能だ。    今回のスマホ新法は、サードパーティのワイヤレスイヤホンでも簡単にiPhoneに接続できるよう迫るものになる。    ただ、アップルからすれば、どこの馬の骨かわからないようなメーカーのワイヤレスイヤホンをAirPodsと同列に扱うというわけにはいかない。イヤホンのように振る舞うものの、実際はiPhoneのなかにあるユーザーの個人情報が盗む懸念があるような製品の接続を認めるわけにはいかないのだ。    アップルができる対抗手段は、これまで提供していた機能を地域に限って無効化するということだ。例えば、AirPodsであれば、通常のBluetoothイヤホンと同じように接続するようにするといったように、アップル独自の利便性を排除するというやり方になる。   すでにEUでは、iPhoneの画面をMacBook上で操作できるという機能は提供されていない。DMAによって、ユーザーの使い勝手の良さがそぎ落とされるということが現実問題になっている。    日本のスマホ新法も施行されることで、日本のユーザーに不具合が生じる可能性が出てきた。スマホ新法導入を進める公正取引委員会は一体誰のために働いているのだろうか。     筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)    スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。   文● 石川温

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