「二股をかけてアプローチ」「高齢のメスがモテるんです」2頭のゴリラがカメラの前で絡み合い…日本人写真家が目撃した“野生ゴリラたちの性事情”

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血まみれのケンカでも「絶対にトドメは刺さない」ジャングルに生きる写真家が目撃した“野生ゴリラの任侠ぶり”「彼らを唯一怒らせてしまうのは…」〉から続く

 東アフリカルワンダを拠点に、野生のゴリラを撮影してきた写真家の森啓子さん。撮影のために1年の半分以上を現地で過ごし、撮影歴は13年以上に及ぶといいます。

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 一夫多妻制のハーレム社会を築くゴリラたちの“驚きの性行動”について伺いました。(全3回の3回目/最初から読む)

ゴリラ写真家の森啓子さん 撮影=鈴木七絵/文藝春秋

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ゴリラは“高齢のメスがモテる”

――森さんから見て、ゴリラが可愛いと思うのはどんなところですか?

森啓子さん(以下、森) 恋愛でも婚活でも、生きるのに一生懸命なところですね。ゴリラのメスは、自分が好きなオスには一生懸命アプローチし、拒否されてもちょっとやそっとじゃめげないんです。

 でも、いくら頑張って「これ以上無理だ」と思ったらサッサと見切りをつけ、スパッと別のオスにいく潔さもあります。それほど好きでない相手でも、二股のような感じでアプローチすることもあるんですよ。

――異性に対してすごく積極的なんですね。ゴリラの性行動にはどんな特徴がありますか?

森 ゴリラは成熟した1頭のオスを中心に、複数のメスや子どもたちで群れをつくります。いわゆる一夫多妻制の「ハーレム」ですね。第一夫人、第二夫人、第三夫人……と妻が複数いるわけです。

 群れのトップに立つオスは、オス同士の激しい争いを勝ち抜いた個体です。メスは小さくて身を守れないので、フリーで行動することはなく、必ずどこかのハーレムに属しています。

 あと、メスはひとつのハーレムの群れから違うハーレムの群れに、どんどん移動するんです。結婚しても何度も再婚するようなイメージで、移動することを「移籍」と言います。

――移籍はどういう時に起きるんですか?

森 子どもがおっぱいを飲んでいる2歳半から3歳半くらいまでの間は、夫や子どもと一緒に過ごします。でも、3歳半くらいになると「次はどのオスに行こうかしら」と周りをキョロキョロし始めるんです。

 ほかの群れが近づくと、その中にいるオスをジッと見たり、オス同士のインタラクション(別の群れとの争い)があると、木に登って相手のオスの様子を物色したりすることもあります。

 メスが新たなオスを見つけて移籍しようとすると、もともとの群れのオスは噛み付いたり抵抗したりします。けど、メスが「行く」と決めたら行っちゃいますね。

 ゴリラの世界では、高齢のメスの方がモテるんですよ。私も「この世界に行きたい!」って思うんですけどね(笑)。

自分の子どもを殺されたメスが“謎の行動”に…

――オスはどんなタイプがモテるんですか?

森 気配りができるゴリラですかね。喧嘩があれば仲裁に入るし、子どもの面倒もしっかり見る。ただ、オスはメスに比べてとても大変だと思います。

 メスは子どもが1歳半を過ぎると別のところへ行って好きなものを食べたり、気の合うメスとグルーミングし合ったりして過ごします。その間はオスがずっと子守りをするんです。しかも、メスが移籍したあとも、残された子どもの世話をします。

――メスは子どもを連れて行かないんですか。

森 メスが移籍するときに子どもを連れて行くと、新しいオスに子どもが殺されてしまう、いわゆる「子殺し」が起きてしまうんです。一緒にいる子どもが自分の子どもでないとわかると、オスは殺してしまうんですね。

 あと、インタラクションといって、群れと群れが出会った時、気に入ったメスがいると、オスがそのメスのところに行って子どもを殺すこともあるんです。そうすると不思議なことに、メスは自分の子どもを殺したオスの元に移籍するんですよ。

――ショッキングですね。なぜ我が子を殺したオスについていくのでしょうか?

森 一説には、元のオスが子どもを守らなかったことを理由に、新しいオスの元に移ると言われています。元夫に対して三行半というのでしょうか。メスは強いオスを好むんですね。次に生まれる子を守ってくれるオスの元へ行くと言われています。「子殺し」の理由は色々言われていて、たくさん論文が出ています。

ゴリラの世界にもいじめがある

――そうなんですね。ほかに、ゴリラのハーレムで印象的だったことはありますか?

森 別のハーレムに移籍した途端に、イジメられたメスがいたんです。「ムガンガ」という、私とも仲良くしていたメスゴリラなんですけど。

 あるときハーレムのメスゴリラたちが、腐った木に取り付いて食べていたんです。ムガンガが最後のほうにやってきて、自分も一緒に食べようとした。すると、みんなが「ギャー!!」と怒って、髪の毛を引っ張ったりして、ムガンガが食べるのを阻止したんですよ。

 その後、私は見ていないんですが、ムガンガがリンチにあったそうです。ムガンガの足の裏に噛みつかれた跡が残っているのを見て、その激しさがよくわかりました。オスが急いで止めに入ったそうですが、既に噛まれたあとだったようです。

 ムガンガがいた群れにはメスが5頭いたんですけど、この一件以来、ムガンガは群れのオスに近づけなくなりました。少しでも近づこうとすると、他のメスが「アッアッアッ!」と声を発して威嚇するんです。

カメラの前で交尾がスタート

――ゴリラの世界にもイジメがあるんですね。

森 でも、たまたま他のメスがNo.2のオスのところに行っていて、No.1のオスが一人になった時がありました。No.1が一人きりになると、ムガンガが「こっち」と手を挙げてアピール。そして、交尾をしたんです。

 私はムガンガがいじめられているのをずっと心配していました。交尾の様子をカメラで撮っていたんですが、きっとそのことを、ムガンガもわかっていたんでしょうね。

 その後日本に帰国して、事情があって数か月ぶりに再びルワンダに戻ったことがありました。久しぶりにムガンガのいる群れを訪ねると、ムガンガが赤ん坊を抱えて嬉しそうに私に見せに来てくれました。

――ムガンガは森さんのことを覚えていたんですか?

森 そうだと思います。ゴリラはすごく記憶力がいいんです。ゴリラ研究の第一人者である山極壽一先生が、26年ぶりに会ったゴリラが先生を覚えていたという感動的なシーンを撮影したことがありました。ムガンガも私を覚えていてくれて、「生まれたよ」って挨拶に来てくれたんだと思います。

マウンテンゴリラは絶命危惧種

――長年、森さんはゴリラと関わってこられました。今後やっていきたいことはありますか?

森 「ゴリラのはなうた」というNPOを立ち上げて、ゴリラの保護活動を支援してくださる賛助会員の方を募集しています。実は、マウンテンゴリラは地球上にわずか1000頭しかいない絶滅危惧種です。なので、ゴリラの生息域を確保したいと考えています。

 ゴリラが住んでいる国立公園は50年前にくらべると半分に減っています。これを回復するには、今住んでいる人に移住してもらう必要があります。でも、その人たちからすれば「なぜ私たちが動かなければならないの?」となりますよね。

 そこで重要なのが教育です。国立公園近くには4校で約1万人の子どもがいます。今から彼らにゴリラの暮らしぶりや保護の大切さを教えて、理解を積み重ねれば、10年後に結婚・定住を決める時に「移ってもいい」と思ってもらえる可能性が高まります。今はそこを一生懸命やろうと思っています。

(松永 怜)

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