革命防衛隊の力はむしろ増大...イラン攻撃はトランプの「オウンゴール」だった(ニューズウィーク日本版)
アメリカがイスラエルと共に対イラン戦争を開始して2カ月目に入った。ここまでの経緯を整理しておこう。 【動画】水柱に飲み込まれるイラン軍艦「デナ」...米海軍による魚雷攻撃を捉えた「衝撃映像」 まず、開戦前の状況を確認したい。昨年6月、アメリカとイスラエルの空爆により、イランの核濃縮施設は、トランプ米大統領いわく「完全に破壊」された。しかも2024年のイスラエルの空爆により、既に軍も大きな打撃を被っていた。 開戦前、イランは軍事面で極めて厳しい状況に置かれていたのだ。しかも経済制裁と体制の腐敗により、経済も悲惨を極めていた。要するに、イランが近隣諸国や遠く離れたアメリカに脅威を及ぼすとはとうてい考えにくかった。 報道によると、イスラエルのネタニヤフ首相の働きかけにより、トランプは戦争に乗り出したらしい。ネタニヤフとしては、イランの脅威が差し迫っているからではなく、イランが弱体化していて体制転換の好機だから戦争を望んだようだ。 開戦後、アメリカの狙いはほとんど実現していない。イランの体制はいまだに存続している。最高指導者のアリ・ハメネイは殺害されたが、後継者に選ばれた息子のモジタバ・ハメネイは父親以上の強硬派だといわれている。 しかも、戦時には珍しいことではないが、イラン国内の強硬派である革命防衛隊の力が増しているように見える。 ■イランの1日当たりの原油収入は開戦前の2倍に イランの新しい指導部は、ホルムズ海峡を事実上封鎖した。トランプは4月1日の国民向け演説で、海峡の封鎖は自然に解除されると述べた。イランも自国の原油を輸出したいはず、というのが理由だ。 しかし実際には、イラン産の原油は(主に中国向けに)自由に輸出されている。というより、イランの1日当たりの原油収入は開戦前の2倍に増えている。イランはホルムズ海峡を通る大型タンカーに200万ドルの通航料を徴収していると報じられていれる。それが続けば、軍を再建するのに十分な資金を獲得できるだろう。 ペルシャ湾岸のアメリカの同盟国を取り巻く環境は、開戦前よりはるかに不安定で緊迫したものになった。これらの国々の経済戦略は地域の平和と安定、そして地域経済の一体化を土台にしている。 サウジアラビアで実権を握るムハンマド皇太子が、23年にイランとの国交正常化に踏み切った理由もこの点にあった。ところが今回の戦争は、そうした成果をことごとく危険にさらしてしまった。 ■ロシアは原油収入が大きく伸び、中国にも恩恵が 明らかに恩恵に浴しているのはロシアだ。原油相場の上昇と経済制裁の緩和により、原油収入が大きく伸びている。一方、ロシアとの戦いが続くウクライナにとっては、アメリカの兵器が中東に振り向けられることは悪材料だ。 ヨーロッパも苦しい立場に立たされている。エネルギー価格の上昇も痛いし、トランプがNATO脱退をちらつかせつつ、戦闘参加を要求してきていることも悩みの種だ。 アメリカが中東の戦争に深入りして、アジアへの関心が弱まっていることは中国にとって好ましい材料といえる。しかも、中国はアメリカより安定していて責任感のある超大国に見え始めている。 今後、状況が変わる可能性はあるだろう。先を見通せないのが戦争だ。しかし少なくともこれまでのところ、アメリカの軍事行動は代償ばかりが多く、得たものがあまりに少ないように見える。 (筆者は現在、CNN『ファリード・ザカリアGPS』の司会者を務める) From Foreign Policy Magazine
ファリード・ザカリア(元本誌国際版編集長)