2025年に古着シーンに起きたこと、すべて──連載「古着総括 2025」

第1次古着ブームから30数年。いま古着は静かな定着を越えて、もう一度“ブーム”と呼べる熱を帯びている。デニムやスウェットが数百万円で取引されるなど、90年代をリアルタイムで経験した大人たちを中心にトゥルーヴィンテージがヒートアップしている。その一方で、下北沢には量販店を中心に、200店舗以上もの古着ショップが軒を連ね、第1次古着ブームを知らない若者を中心に新たなトレンドが生まれた。これによりヴィンテージショップでいわゆる“レギュラー古着”と呼ばれるアイテムの人気が爆上がり。一部のアイテムは今なお高騰し続けている。加えて、SNSが生み出す膨大な情報量も拍車をかけた。ヴィンテージの価値観が毎日のように更新され続け、古着を過去の服からいまの表現へと変えていく。2025年、この多層・多面化した古着カルチャーで何が起き、これからどこへ向かうのか。世代も立場も異なる“古着通”4人──、ベルベルジンの藤原裕、Number_iの神宮寺勇太、ミスタークリーン栗原道彦、ベルベルジン遊歩道の蒔田康介が、現在進行形のシーンを文化論として解剖する。 藤原裕(以下、藤原) 今日はみなさん、お集まりいただきありがとうございます。2025年の古着総括ということで、今年を象徴するそれぞれの私物を紹介しながら、古着シーンを振り返ってみようかなと。ちなみに僕と栗(原道彦)くんは1977年生まれ、そして神(宮寺勇太)くんと(蒔田)康介が1997年生まれで歳の差がちょうど20っていう。 栗原道彦(以下、栗原) おじさんチームと若者チームってことね。じゃあ早速、“裕おじさん”からお願いします。 ■藤原裕の見解 ・30sカーハート ダックオーバーオール 藤原 まずはこちら。「カーハート」はここ数年、若い人を中心に人気だけど、同じくらいヴィンテージも勢いがあったので、今年っぽいかなと。このダック地のオーバーオールは胸元の山ポケ(山型ポケット)&ダブルニーで、赤タグだから1930年代製。 蒔田康介(以下、蒔田)イカついっすねー。でも、ダブルニーの仕様が、薄すぎて補強になってないというか、単なる飾りにしかなってない。 藤原 まだ1度しか着ていないんだよね。 神宮寺勇太(以下、神宮寺) え、これどうやって着たんですか!? まんま作業着じゃないですか。 藤原 サイズはウエスト40、レングス31。Tシャツと合わせて、ロールアップして着こなす王道な感じ。オーバーオールは結構好きで、カーハートはこれ以外にあと2着持ってる。ちなみにこれは、某セカンドハンドショップにふらっと入った際に見つけて、格安でゲットしました。 栗原 この年代のものとなると本当に出ないから、相当ラッキーだと思う。 ・60s リーバイス501 501 藤原 今日のために、「リーバイス」66前期のデッドをおろしてきたことからもわかる通り、自分にとってジーンズといえば501が基本なのですが……。 神宮寺 またやった(おろした)んですか(笑)!? 藤原 何その「またやったんですか」って(笑)。まあそれはさておき。ダブルエックス(以下、XX)は、もちろん持っているけど、今回紹介したいのは通称「501 501」と呼ばれるダブルネームのモデル。 神宮寺 パッチに501が2つ付いてるモデルですね。 蒔田 XXからビッグEへの移行期。つまり1966〜67年間に1年弱だけ作られたものですね。 栗原 アメリカでも、このレベルになるとXXよりも全然見つからないよね。 藤原 ビッグEに差しかかるこの年代が、少しテーパードが入っていて独特のシルエットが好きで。20歳下のふたりにも、あらためて良さを知ってほしいな。 蒔田 まずお目にかかれないものの良さを知ってほしいと言われると複雑な気分です。 ・40s N-1 デッキジャケット 藤原 これも今年にかけて一気に値段が上がったよね。元々ジップタイプの方がメジャーだったけど、最近特に胸元のフラップがフックになっているものの人気が高まって。今日持参したのは7、8年前に買ったもので、サイズは「46」。色落ちはしてるけどまだフィルム(風の侵入を防ぐために内蔵された織り密度の高い生地)が残っているから、今はすごい値段になってると思う。 蒔田 (ジャケットに触りながら)あ、本当だすげえ! これだけ綺麗な個体は久々に見ました。 栗原 色は洗って落ちたっていうより、日焼けで褪色した感じだよね。 神宮寺 なんか“大人の古着”って感じ。 藤原 確かに。40代後半になってやっと似合うようになってきたというか。20代の若者にはまだちょっと早いかも? ■栗原道彦の見解 ・90s リーバイス505先染めブラック 栗原 続いて”おじさんパート2”。胃もたれしてない? 大丈夫? さて、これは”先染め”と呼ばれる、80〜90年代に作られたリーバイスのブラックデニム。昔だとデッドでもウエストは34インチくらいまでしか買ってなかったけど。 蒔田 今はボトムスのトレンド太くなっているので、W38は普通ですね。 栗原 501の先染めブラックのデッド(ストック)が10万円前後。今年に入ってさらに値上がって。 神宮寺 “先染め”は、もはやブランドみたいな扱いですよね。 栗原 オンラインストアで商品画像に裏地まで載せているのに「これ、先染めですか?」って問い合わせが来たりする。ものを見ても判断できないけど”先染めがいい”という情報だけで買うのってすごく今っぽい。 藤原 90年代は、先染めしか穿いてなかったよね? 栗原 先染めの方が穿き込むと良い具合に色落ちするよね。あと80年代のブラックデニムはほぼ先染めだから、90年代に出てきた古着は大概先染めだったからという理由もあるとは思うけど。 ■40s オシュコシュ エンジニアジャケット 栗原 こちらも去年から今年にかけてメジャーになったアイテム。 藤原 でも「オシュコシュ」はカバーオールでもあまり人気ないよね。 栗原 オシュコシュは昔からデザイン、ディテールにほとんど変化がないから、古いものでもあまり評価されてないよね。80年代のカバーオールでも生地以外はほぼ変わってないから。 蒔田 あと勝手な印象だけど、オシュコシュ=子供服ってイメージがあって。 神宮寺 でもこれ、デカボタンがかっこいいですよね。 栗原 そうそう。あと個人的にエンジニアジャケットは四角いポケットとか角張った感じのものが好きだから。これはまさにって感じ 神宮寺 確かに「ビッグマック」の同年代のモデルだと結構丸い印象かも。 蒔田 あとビッグマックやヘッドライトは、エンジニアジャケットだと丈が短いけど、これは長いですね。そこもいい。 ・50s スカジャン 栗原 自分が20代の頃って、アメリカの昔のスタイルを真似していたけど、今は若い人を中心に、90年代の日本で流行っていたものが注目されてない? スカジャンはまさにそんな気がして。 藤原 確かに。自分たちの世代とは、違った取り入れ方をしてるよね。 栗原 あと僕らの世代だと、昨今は裾リブがあるものを避けるイメージがあるけど、若い人たちは気にしない感じがする。ダービージャケットが流行ったのもそうなのかな。 蒔田 でもMA-1は人気だったじゃないですか。 栗原 当時はアウター、インナー共にトップスはジャストサイズが基本だったから、ショート丈で裾リブがあるアイテムも人気があった。そこにパンツは太めっていうバランス。 神宮寺 今の流れ的に、確かにそういうスタイルになってますね。 藤原 でもやっぱりまだ上はダボッと着たいな。ちなみに栗くんは昔、めちゃめちゃ細かった。 栗原 その昔、ウエストは28インチだったよ 蒔田 立派におおきくなりました、お腹が。 ■蒔田康介の見解 ・90s リーバイス カバーオール 蒔田 今、カバーオールの値段が非現実的な金額になってて買えない。でも欲しくて探していたときに見つけたのがこれ。 栗原 日本企画の古いものとかかなと思ったけど、ちゃんとメイド・イン・USA。 神宮寺 ラルフ(ローレン)っぽさもあるけど、しっかりリーバイスなのがいいね。 藤原 初めて見た。80年代? 栗原 いや、90年代じゃないかな。 蒔田 赤タブがなく、“いかにもリーバイス”的なデザインではないので着やすい。 神宮寺 ガシガシ着られるし、バイクに乗る時はちょうど良さそう。これ、値段つけるとしたらいくらなの? 蒔田 それ、難しいところだね。ただ自分の中では、90年代のアメリカ製のリーバイスの中では今のところこれが一番。 ・70s ダービー オブ サンフランシスコのビニールレザーシャツ 蒔田 ダービーのタグがつくもので、キャップショルダー以外にいいものがないけど、これは本当にかっこいい。 栗原 確かにノーフォークジャケットやペラいスイングトップとか、野暮ったいものが多い中、これはいい。それこそおじさんにはない若い人たちの感覚だね! うわ、おじさんっぽい、今の発言。 藤原 いや、俺でも良さはわかるから! 栗原 そういう割り込み方もおじさん感がすごい。 神宮寺 ジャケットとしても着られそうですね。しかもこれ、メイド・イン・コリアだ! いろいろと興味が刺激されます。それといわゆるヴィンテージではないのもいい。 蒔田 そうそう。タグ自体はオールドイングリッシュで60年代製に使われるタグなんだけど、ボディは70年代。その感じが気張ってないというか、リアルな感じで気に入ってる。 ・70s レザーダウンジャケット 蒔田 古着も新品もアウトドアブームの影響もあって、今年は「ザ・ノース・フェイス」やパタゴニアなどが人気ですが、その中で個性を出すならこういうものかなと。 栗原 それこそ90年代終盤〜2000年代初頭の雰囲気だよね。 神宮寺 「ア・ベイシング・エイプ」のレザーダウンっぽい雰囲気。 蒔田 裏地もリップストップでしっかり作り込まれてて、フロントもダブルスライダーだからバイク乗る時にちょうどいい。 栗原 ディテールを見ると、アウトドアの匂いがちゃんとしてるよね。 藤原 そういう匂いもありながら、無骨な方にも振れるっていう。 蒔田 よく見るとタグに「ダウンプロダクツ」って表記があるから、おそらく当時のオーダーメイドじゃないかなって思ってます。普段はナイロンで作ってるものをレザーで作ったとか。 ■神宮寺勇太の見解 ・70s レーシング ダウンベスト 神宮寺 個人的に2025年を象徴するのがこちら。すごいハマりました。”小ダサい感じ”が、最近のテーマで。 藤原 普段はどうやって着てるの? 神宮寺 70505(リーバイス トラッカージャケット)の上にレイヤードしています。先輩バイカーがそういう着こなしをしていて、だいぶ影響を受けています。ただし、暖かくはないです。 蒔田 でもかっこいいよね。ターコイズとか鮮やかな色味のものが出たら欲しい。 神宮寺 とはいえ人気がないから古着屋さんで取り扱ってないっていう……。 栗原 アメリカでは評価が高いけどね、こういったヴィンテージのレーシンググッズ。グッドイヤーやベル、ミシュランなどのメジャーどころはたとえ見つかったとしても安くない。今日、神(宮寺)くんが持ってきたのは、90年代の匂いがしていいね。 神宮寺 値段的にも手ごろなので、今後もチェックしよっかなって。 ・90s ベンデイヴィス ゴリラカット 神宮寺 今年はワークパンツがブームでしたね。僕はゴリラカットという極太パンツをずっと穿いています。 それこそ「ベルベルジン遊歩道」でも何度か見かけた。 蒔田 そうね。ただし、これはトップがスナップボタンになってて90年代のアメリカ製っていうかなり珍しいやつ。 神宮寺 生地違いのフリスコパンツと合わせて、このゴリラカットはめちゃくちゃ穿いてます。 藤原 2025年の神宮寺くんの古着はバイクとワーク系だね。 栗原 これならガシガシ穿けるし。 神宮寺 そうなんですよ。バイクに乗っていて破れても平気ですし。っていうか破れないですねこれ(笑)。生地がめちゃくちゃ強いので。 蒔田 しかも古着なのに今っぽいシルエットが出せるのもいい。 ・ネルシャツ 神宮寺 ラストです。今年の古着といえばこれにつきると思ってて。こちらはピルグリムのもので、裏地にバンダナのパッチワークを当てたり、ボタンは付け替えてあったり、だいぶリメイクされています。 蒔田 タグが王冠マークだから40年代。 栗原 ネルはボロくなってもいいよね、雰囲気があって。 神宮寺 確かに。あとやっぱり、古いネルだからこそ表面と裏面の配色が綺麗なのがいい。古いネルの醍醐味と言いますか。 蒔田 レギュラーもいい。極めて古着らしい魅力がある。 藤原 今は青系が人気なのかな。 神宮寺 赤もめっちゃ流行ってます。最近は、古着屋さんに入って最初にチェックするのがレギュラーのネル。 栗原 今年になってビックマックよりも「ファイブブラザー」の方が人気だけど、あれは若い人の感覚だよね。 藤原 そうそう。俺らはビッグマック一択だったから。 神宮寺 確かに、自分たちはファイブブラザー派です。形とか着丈とか含めると、ファイブブラザーの方が着やすい感じがして。 蒔田 そうだね。ビッグマックは着丈が少し長い。 神宮寺 あとやっぱりファイブブラザーの色使いはマジでかっこいい。 ■2025年はネルシャツの年だった 栗原 一番はやっぱり価格高騰じゃない? 特にネルシャツとか。 藤原 サイズがXLになるとさらに上がるっていう。オーバーサイズのトレンドはまだ続くのかな。 神宮寺 とはいえバン(ド)Tに関しては今年、「XL」よりも「L」が人気だったかも。 栗原 あとこれはアメリカでの流行もあるとも思うけど、”ボロ”も値段が上がったよね。 蒔田 ポケットが外れたモデルを“ゴーストポケット”って呼んだり。 藤原 マジで(笑)? 蒔田 いわゆるジーンズでいう、”ヒゲ”や”蜂の巣”と同じ様にダメージに呼び名があって。ちなみに「ベルベルジン遊歩道」ではオープン以来、ボロ推しです。 神宮寺 自分もボロ、大好きです。さっきのピルグリムもそうですが、あれって究極の一点ものじゃないですか。 栗原 ダービージャケットやバンTとか、最近は20代を中心とした若い人たちが古着の新たな価値観を広めている感じがするよね。 藤原 おじさん世代も負けてられないね。うおー、なんだか買い物がしたくなってきた! 蒔田 それだけ買ってて、まだ欲しいものあるんですか……!? 神宮寺 でもそこが古着のいいところですよね。欲しいものが尽きないし、すぐには買えない。でもだからこそ手に入れた時の喜びが計り知れない。 藤原 おじさんの散らかりがちなトークを素敵な話にまとめてくれました。転売・投機目的ではなく、古着に真摯に向き合う若い世代の人たちが増えるといいな。 ■栗原道彦 千葉県出身。ヴィンテージウェアのバイイング歴30年、日本有数の古着バイヤー。10月に放送されたTV番組「情熱大陸」(MBS/TBS系)の出演も記憶に新しい。 ■蒔田康介 千葉県出身。「ベルベルジン遊歩道」のディレクター。ヴィンテージやバイクの造詣が深い、ネクストヴィンテージシーンの若き旗手。神宮寺とは無二の親友。 ■藤原裕 高知県出身。原宿のヴィンテージショップ「ベルベルジン」ディレクター。現在のデニムブームの牽引者。 ■神宮寺勇太 千葉県出身。人気グループであるNumber_iのメンバー。藤原裕も認める、芸能界きっての古着愛好家。ヴィンテージバイク好きとしても有名。

写真・ホシダテッペイ 文・オオサワ系 編集・岩田桂視(GQ)

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