「全部プーチンの投票箱」「投票者数を勝手に水増し」などロシアの不正選挙の実態を選挙管理人が解説
選挙における票の操作はれっきとした不正ですが、一部の国や地域ではさまざまな手段で不正が行われています。実際にロシアで選挙管理人を務めているヴァディム・マカロフ氏が、どのような方法で票の操作が行われるのかや、不正を見抜く方法について解説しました。
[2412.04535] Dual approach to proving electoral fraud via statistics and forensics (Dvojnoe dokazatel'stvo falsifikazij na vyborah statistikoj i kriminalistikoj)
https://arxiv.org/abs/2412.04535How to rig elections - media.ccc.de
https://media.ccc.de/v/why2025-218-how-to-rig-elections 壇上に立つ男性がマカロフ氏。量子エンジニアを本職としているマカロフ氏は、モスクワに引っ越した後に選挙管理人の仕事も始め、これまでに議会選挙や自治体の首長選挙、2024年の大統領選挙などに携わってきました。
ロシアの選挙では票数の不正な改ざんがよく起きているとのこと。たとえば以下のグラフは、2024年のロシア大統領選挙で設けられた約10万カ所の投票所における投票率(横軸)と、プーチン大統領に投票された割合(縦軸)をドットで示したもの。
このドットの傾向を見ると、明白に「投票率が高い投票所ほど、プーチン大統領の得票率が高い」という不審な傾向が見られます。これは、投票率が高い投票所では票の改ざんが行われたことを示唆する兆候だとマカロフ氏は指摘しています。
この選挙ではマカロフ氏が10人の選挙管理人をサポートしましたが、そのうち2人が担当する投票所において異常事態が発生しました。ある投票所では、事情があって自宅で投票すると申請した人の票を回収してきた選挙管理委員会の担当者が、袋の中にたった7時間で810票もの投票用紙を入れて戻ってきました。「申請者の家を訪問し、投票用紙を渡して記入してもらい、それを回収してまた別の家に向かう」という方法では、この短時間にこれほどの投票用紙を集めるのが困難だということは明白です。なお、自宅での投票を申請した人の数は各投票所につきせいぜい10人程度だったとのこと。 この担当者が持ってきたポータブル投票箱を開けてみたところ、そのすべてがプーチン大統領に投票しており、マークの筆跡も同一だったとのことです。
さらに別の投票所では、選挙管理人がカウントした投票者数は「273人」だったのに対し、選挙管理委員会が投票者数を「750人」と発表した上に、選挙管理人が文書にアクセスするのを拒否するという事態もありました。
異常事態があった投票所を赤いドット、それ以外の投票所を緑のドットで示し、先ほどのグラフに重ねるとこんな感じ。異常事態があった投票所は、票の操作が行われた可能性が高い範囲に位置していることがわかります。
今回マカロフ氏は、投じられた票を保管する「セキュリティバッグ」を改ざんした事例について報告しています。ロシアの選挙では複数日にわたって選挙が行われるため、投票用紙はすぐに開票されるのではなく、一時的にこのようなセキュリティバッグに入れて保管するとのこと。
セキュリティバッグには誰かが開封したかどうかがわかるセキュリティテープ(Indicating tape)があるほか、それぞれのバッグを見分けるための識別番号(Individual number)も記されています。選挙だけでなく銀行やカジノ、法執行機関などでも同様のバッグが使われているとのこと。
セキュリティバッグの実物はこんな感じ。本体はプラスチック製で、識別番号はセキュリティテープに重なる部分を含めて3箇所に印字されています。
セキュリティバッグを使う時は、口を開いて中に投票用紙を入れます。
すべての票を入れ終わったらのり付け用のテープを剥がし、上から押さえつければ袋の口が封印されます。
封印後に袋を開けるには、セキュリティテープを剥がすしかありません。セキュリティテープを剥がすとテープや袋本体に痕跡が残るため、誰かがこっそり袋を開けて偽造した投票用紙を混入させたり、袋の中身を入れ替えたりすることはできないという仕組みです。
マカロフ氏はある時、ロシアのモスクワ州にあるヴラシハという都市で実施された市議会選挙の管理を行いました。ヴラシハには約2万5000人が住んでおり、そのうち選挙権があるのは1万8000人ほどだとのこと。この選挙では明らかに選挙結果が改ざんされていましたが、開票が終わるまで一体どのようにして改ざんされたのかを見抜けなかったそうです。
調査の結果、一部のセキュリティバッグは「セキュリティテープの幅」が短くなっていたことが判明しました。上が正常なセキュリティテープ、下が幅の短いセキュリティテープです。見比べると、下の方はセキュリティテープ付近のプリントが剥がれていることもわかります。
マカロフ氏によると、セキュリティバッグを製造する工場は、今回選挙に用いられたものと同じ識別番号の複製を作っていたとのこと。選挙委員会は選挙に用いられたものと対になる複製を入手し、同じ識別番号が記されたセキュリティテープを確保。夜間のうちに保管されているセキュリティバッグを開封し、中に不正な投票用紙を入れた後、複製から確保したセキュリティテープを貼り直して未開封であるかのように偽造したというわけです。
ある投票所では、テープだけでなく袋ごと複製に入れ替えられていたことが判明しました。上がすり替え前の識別番号のバーコード、下がすり替え後のバーコードです。よく見ると微妙にプリント時に入った線が異なることがわかります。
一連の不正行為について報告した論文の中で、マカロフ氏らは「このような著しい不正行為は、加害者が法的に完全に免責される場合にのみ可能となります。残念ながら、これまでの経験からこれが事実であることが示されています。あらゆるレベルの選挙管理委員会に提出された複数の苦情は却下されました」「本研究はロシアにおいて、社会の地方レベルにまで及ぶ政治的権利の劣化を浮き彫りにしています」と述べました。
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