不足すると不幸な老後まっしぐら…医師が「幸福感を左右する」というお金でも地位でもない重要要素(プレジデントオンライン)

6/27 10:15 配信

どんなものを口にすると脳と体を健康な状態に保てるのか。医師の和田秀樹さんは「生活習慣病の元凶のような扱いを以前から受けている私たちの身近な食材には、前頭葉の働きや幸福感を高めてくれる作用のある成分が含まれている」という――。 ※本稿は、和田秀樹『老人は「キレる」くらいでちょうどいい』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。■心の安定をもたらす「幸せホルモン」 前頭葉の働きを高めるためには、どんな種類の神経伝達物質が必要なのでしょうか。 前頭葉だけにかぎっても、必要な神経伝達物質は1種類ではありません。その機能には、いくつもの神経伝達物質が関わっています。ドーパミンやノルアドレナリンもそう。前頭葉が担う「意欲」はドーパミン、「集中力」はノルアドレナリンの働きによるものです。 では「キレやすさ」を左右する神経伝達物質は何か。それは「セロトニン」です。この物質が、感情の安定や衝動の抑制などの情報をメッセンジャーとして神経細胞ネットワークに伝えるのです。 したがって、前頭葉の神経細胞にセロトニンが十分に届いていれば、たとえ不快な出来事があっても、すぐに怒ったり取り乱したりしにくくなるでしょう。逆に前頭葉に届くセロトニンが不足すれば、情動のコントロールがしにくくなり、怒りを抑えつけることが難しくなる。つまり、キレやすくなってしまうのです。 また、セロトニンは心の安定をもたらすので、しばしば「幸せホルモン」のひとつとされます(厳密にいうと、ホルモンとは血液をはじめとする体液によって全身を循環する物質のことなので、神経伝達物質は「ホルモン」ではありません。しかし体内で情報を伝達するという点では同じなので、ここでは比喩的に「ホルモン」と呼んでいます)。■お金持ちでも不安にさいなまれる この「幸せホルモン」には、セロトニンのほか、前出のドーパミン、女性の授乳中などに分泌するオキシトシン、いわゆる「ランナーズハイ」(マラソンなどで苦しい状態が続いたときに快感や陶酔感を覚える現象)をもたらすベータエンドルフィンも含まれます。「幸せホルモン」としてのセロトニンは、高齢者が感じる幸福度も高めてくれるでしょう。 脳内でこの物質がたくさん分泌されればハッピーな気持ちになりやすく、分泌量が少なければ逆に不安を抱きやすくなるのです。さらに欠乏が進めばうつ病のリスクも高まってしまうのですから、おろそかにはできません。 人間の幸福感が脳内の物質に左右されることに違和感を抱く人もいるとは思います。たしかに、経済的にひどく貧しく、家族や友人もいないのに、「幸せホルモン」に恵まれているだけで幸福感を得るのは、いささか虚しいかもしれません。 でも、経済的にも社会的にも恵まれた立場にあって、誰もが羨むほど幸福そうに見える人でも、セロトニンという物質が枯渇すれば本人は幸福感を得にくくなってしまいます。 いくらお金があっても、不安にさいなまれて苦しい日々を過ごすのです。そう考えると、やはり十分な量のセロトニンが分泌されるに越したことはありません。

 しかもセロトニンは、前頭葉の機能に関わるドーパミンやノルアドレナリンの働きを調整する役割も持っています。その意味でも、前頭葉の活性化に欠かせない物質だといえるでしょう。

■コレステロール値は気にするな そして、セロトニンをたくさんつくるのにもっとも適した食べ物が「肉」にほかなりません。 セロトニンの材料となるのは、トリプトファンという必須アミノ酸。それが脳内で5-ヒドロキシトリプトファンという前駆物質を経て、セロトニンに変換されます。そのトリプトファンが、牛肉、豚肉、鶏肉などに豊富に含まれているのです。 しかも、肉の脂身などに多く含まれているある物質には、脳にセロトニンを運ぶ働きを持つとされています。その物質とは何か。じつは、「コレステロール」がその役割を担っていると考えられているのです。 コレステロールといえば、「生活習慣病の元凶」のように思っている人が多いでしょう。 しかし、これは決して毒みたいなものではありません。コレステロールは細胞膜の主原料ですから、これがなければ身体はつくれない。そして私たちは、生きる上で必要不可欠なコレステロールの2割程度を食べ物から摂取し、残りの8割は肝臓でつくっています。 コレステロールは血液中に溶け込まないので、ホルモンのように血管を通じて運ぶことができません。肝臓でつくられたコレステロールは、「LDLコレステロール」という物質によって体のあちこちに運ばれます。■コレステロール=「悪玉」はいかがなものか 逆に、体のあちこちから回収したコレステロールを肝臓まで運ぶのが、「HDLコレステロール」。どちらも、健康診断のときなどに聞いたことのある人は少なくないでしょう。しばしば「悪玉コレステロール」と呼ばれるのが前者、「善玉コレステロール」と呼ばれるのが後者です。 たしかに、LDLコレステロールが増えすぎると、それが運び込んだコレステロールが血管壁に入り込んで動脈硬化の原因になるとされていますから、そうした面から見れば「悪玉」かもしれません。健康のためには、量的な管理は必要でしょう。 でも細胞の材料であるコレステロールを運ぶ役割を持っているのですから、人体に欠かせない物質であることも間違いありません。量が増えすぎることが問題なのですから、それ自体を「悪玉」呼ばわりするのも考えものです。 それに、LDLやHDLはたしかにコレステロールを運んでいますが、それ自体は輸送タンパク質であって、「コレステロールそのもの」ではありません。もちろん、体内の「コレステロールそのもの」が増えればそれを運ぶLDLも増えるのですが、食べ物から摂取した「コレステロールそのもの」は多くが吸収されずに排泄されますし、吸収されたコレステロールも肝臓が量を調節してくれます。 そういった研究が進んだことで、医学や栄養学の分野では、コレステロールについての考え方が大きく変わってきました。

 以前は健康指導や栄養指導の場で、「コレステロールの摂りすぎは心臓病の元」「卵は一日一個まで」などといわれていたものです。でも、いまだにそんな指導をする人がいたとしたら、専門知識がアップデートできていないと思っていいでしょう。

■2015年に厚労省が方針を大きく転換 厚生労働省は2015年に方針を大きく転換し、「日本人の食事摂取基準」の中で「コレステロールの摂取上限値は設定しない」と明記しています。それまでのコレステロール制限は科学的な根拠が不十分なだけでなく、むしろ不適切であった可能性があるからです。 たとえば、コレステロール値が低い人は免疫機能が弱くなります。コレステロールは免疫細胞に欠かせない物質なので、そうなるのも当然でしょう。コレステロールは、免疫細胞の材料になるほか、ホルモン合成、細胞内のシグナル伝達といった役割を担っているのです。そして何より、コレステロールはセロトニンを脳に届けてくれるありがたい存在です。----------和田 秀樹(わだ・ひでき)精神科医1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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精神科医 和田 秀樹

最終更新:6/27(土) 10:15

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