100年前に50万人死亡…。いまも原因不明の奇病「眠り病」とは?【20世紀最大の医学ミステリー】(MEN’S CLUB)
20世紀初頭、世界は2つの大規模なパンデミックに見舞われていた。 ひとつは広く知られるスペイン風邪(実際の発生地は米国とされる)だ。1918年から1920年にかけて世界中で猛威を振るい、H1N1亜型のA型インフルエンザウイルスによってわずか2年間のうちに5000万人以上が死亡したと推定されている。世界人口の少なくとも5人に1人が感染したともいわれる歴史的なパンデミックである。 【写真集】パンデミックをテーマにした映画8選 ── ウイルス感染のシナリオを描く しかし、その陰でほとんど知られることなく広がった、もうひとつの奇妙な病があった。 それが「嗜眠性脳炎(しみんせいのうえん)」だ。 強烈な眠気によって患者を深い眠りへと引き込み、「眠り病」とも呼ばれたこの疾患は、1917年から1930年にかけて世界中で流行した。死亡者数は約50万人に達し、生き延びた患者の多くも重い後遺症に苦しんだ。 そして100年以上が経過した現在もなお、その原因は解明されていない。
嗜眠性脳炎は、パンデミックの終息に伴い人々の記憶から忘れられていった。しかし、現代の科学者たちは、この奇病を20世紀最大の医学的ミステリーのひとつと考えている。 1917年、オーストリアの医師コンスタンティン・フォン・エコノモによって初めて報告された(そのため『エコノモ脳炎』とも呼ばれる)。それから100年以上が経過した今日でも、その原因、感染経路、そして将来的に同様のパンデミックが起こり得るか否かさえ、はっきりしないままなのである。 この疾患が特異だったのは、患者によって症状の現れ方が大きく異なったことだ。 急速に悪化して死に至る患者もいれば、症状が何カ月も続く患者もいた。また、異常な眠気に襲われる患者がいる一方で、極端な興奮状態や活動性の亢進(こうしん)を示す患者も確認された。 フォン・エコノモは当時の論文で次のように記している。 「私たちが直面しているのは、特異なほど経過期間の長い『眠り病』の一種である。通常、初期症状として頭痛や倦怠感が現れ、その後に強烈な眠気が続く。しばしば激しい譫妄(せんもう)を伴うが、患者は比較的容易に目覚めさせることができる」 さらに、この状態は急速に死へ至る場合もあれば、数週間から数カ月にわたって続く場合もあったという。