日本人男性の心血管疾患リスクの最適な指標はBMIよりも「腹囲身長比」 16万人を13年間追跡した大規模研究

日本人男性の心血管疾患リスクの最適な指標は「腹囲身長比」であり、BMIよりも予測能が優れることを示すデータが報告された。京都府立医科大学などの研究グループの成果であり、「The American Journal of Clinical Nutrition」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。最適なカットオフ値は0.494であって、欧米のガイドラインが推奨する「腹囲長を身長の半分未満に保つ」という基準(0.5)とほぼ一致しているという。

研究成果のポイント

  • 肥満は世界的に重要な公衆衛生上の課題。とくに肥満の中でも内臓脂肪の蓄積による中心性肥満が、さまざまな代謝疾患の発症に関連していることが報告されている。日本では主にBMIを用いて肥満が判定されているが、BMIでは内臓脂肪を判定することが困難であり、肥満の重大な合併症である心血管疾患の発症を予測する指標としてのBMI使用には議論がある。
  • 本研究は、日本人約16万人の大規模データを13年間追跡し、心血管疾患の発症と5種類の体格指標との関連を比較検証した、東アジアで初の長期大規模研究。日本人男性において、心血管疾患の将来的な発症リスクを最も正確に予測する指標は、「腹囲身長比」、および、体型の丸み(roundness)を評価する「body roundness index(BRI)」であることを明らかにした。
  • 腹囲身長比とBRIは同等の高い予測精度を持つが、腹囲身長比は「腹囲長÷身長」と誰もが簡単に計算出来ることから、日々の健康管理でとくに使用が推奨される。腹囲身長比の最適なカットオフ値(検査や測定結果の陽性・陰性を識別する値)は0.494であり、これは近年の欧米のガイドラインが推奨する「腹囲長を身長の半分未満に保つ」という基準(0.5)とほぼ一致している。
  • 本研究で、「腹囲を身長の半分未満に保つ」というシンプルな健康目標が、日本人男性にも科学的に有効であることが証明された。

図1 研究の概要図

(出典:京都府立医科大学)

研究内容の詳細

研究の背景や問題点:肥満に伴うCVDリスクを予測する日本人に最適な指標は何?

心血管疾患(CVD)は依然として世界における主要な死因。その大きな原因の一つが肥満、とくに内臓脂肪の蓄積だが、これまで世界標準の肥満指標であったBMIでは、この内臓脂肪を正確に評価することができないという課題があった。そこで、腹囲長を身長で割り算出する腹囲身長比や、近年では体形の丸み度を反映するBRI(Body Roundness Index)等の体格指標が開発され、その有用性が世界中で検証されている。

しかし、これらの新しい指標が、従来のBMIなどと比べて、日本人の長期的な心血管疾患リスクをどれほど正確に予測可能なのかは、これまで大規模な研究がなく、明らかにされていなかった。そこで本研究では、この課題を解決するため、大規模な日本人集団のデータを基に、五つの異なる体格指標が13年間にわたり、心血管疾患の発症にどのように関連するのか直接比較・検証した。

研究内容・成果の要点:日本人男性のCVDリスク予測能が高い指標は腹囲身長比

2008~21年に、パナソニック健康保険組合が実施した健康診断の受診者16万656人(平均年齢44.5±8.3歳)を対象とした。上記期間内の健康診断を通して、身体測定、血液検査、問診結果を縦断的に収集し、BMI、腹囲、ABSI(A Body Shape Index)、BRI、腹囲身長比という五つの体格指標の心血管疾患発症予測能を比較した。

13年間の追跡期間中、男性では4,027人(3.4%)、女性では372人(0.9%)がMACE(非致死性脳卒中、非致死性冠動脈疾患、心血管死によって構成される主要心血管イベント)を発症した。多変量解析の結果、男性では五つすべての体格指標がMACE発症と有意に関連していたが、女性ではいずれの指標も有意な関連を示さなかった。

男性における各指標の予測精度を比較したところ、腹囲身長比とBRIが、BMI、腹囲、ABSIよりも有意に高い予測能を持つことが明らかになった(AUC値が腹囲身長比とBRIはともに0.608)。また、将来のMACE発症を予測するための最適なカットオフ値は、腹囲身長比が0.494、BRIは3.250であることが示された。

今後の展開と社会へのアピールポイント:腹囲÷身長は簡単に計算可能

本研究は、約16万人という大規模な日本人集団を13年間にわたり追跡した東アジアでは初の長期的な研究であり、各体格指標を日本人の心血管疾患の発症に対して検討した重要な研究。長年、肥満の指標として世界標準であったBMIは、心血管疾患との関連が深い内臓脂肪の蓄積を正確に反映することができないという限界があった。

本研究の最大のポイントは、日本人男性において、従来のBMIよりも腹囲身長比やBRIのほうが、将来の心血管疾患リスクをより正確に予測可能であることを科学的に証明した点にある。この二つの指標は同等の高い予測精度を持つが、BRIは複雑な計算を要するのに対し、腹囲身長比は「腹囲長÷身長」という簡単な計算式で誰でも算出可能という大きな利点がある。そのため本研究では、日常の臨床現場や個人の健康管理で用いる最も実用的な指標として、腹囲身長比の使用を推奨する。

近年、英国のガイドラインなどでは「腹囲長を身長の半分未満(腹囲身長比0.5未満)に保つ」ことが健康目標として推奨されている。本研究で特定された日本人男性の最適なカットオフ値である0.494は、この国際的な基準とほぼ一致しており、その科学的妥当性を日本人の大規模データで初めて裏付ける強力なエビデンスと言える。

腹囲身長比は「腹囲長÷身長」という簡単な計算で算出でき、この指標を今後の健康診断や個人の健康管理に活用することで、これまで見過ごされていたかもしれない高リスク者をより早期に発見し、食事や運動といった予防策につなげることが可能になる。これにより、将来の心筋梗塞や脳卒中の発症を減らし、国民の健康寿命の延伸に大きく貢献することが期待される。

プレスリリース

【論文掲載】日本人男性の将来の心血管疾患リスク、最適な指標は「腹囲身長比」~「腹囲÷身長」が従来のBMIより優れた予測精度、疾患の早期予防に期待~(京都府立医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Anthropometric indices for predicting incident cardiovascular disease: a 13-year follow-up study in a Japanese population」。〔Am J Clin Nutr. 2025 Oct;122(4):954-961〕 原文はこちら(Elsevier)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 2

フレイル健診受診者のデータを用い、機械学習により高齢者の社会参加状況の予測モデルを構築して、その判別能を検討した研究結果が報告された。比較した3種類のモデルの中では深層学習モデルが最もバランスの良い判別能を示し、そのモデル構築に最も寄与した因子は情報収集能力や歩行速度などだったという。信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の横川吉晴氏らの研究によるもので、「Geriatrics」に論文が掲載された。

フレイル抑止のための社会活動への参加を阻害する因子は何か?

高齢者の社会活動への参加は健康の維持・増進につながり、かつ、高齢者の良好な健康状態は社会活動への参加につながるという、双方向性の関連のあることが知られている。そして、高齢者の社会活動と健康状態の双方を阻害する重要な因子として、フレイルが挙げられる。ただしこれまでのところ、フレイルリスクのある高齢者の社会活動参加を阻害する因子が明確にされているとは言えず、その一因として、従来の統計学的なアプローチでは、健康状態と社会参加の複雑な双方向性を包括的に把握することの難しさがある。

これに対して機械学習は、複雑なデータセットから潜在的な関連性を見いだして、高精度の予測モデルの構築が可能。横川氏らは、深層学習、非線形サポートベクターマシン(nonlinear support vector machine;NLSVM)、および機械学習によるロジスティック回帰という3種類のモデルを用いて、高齢者の社会活動参加阻害因子の特定を試みるとともに、このアプローチの適用可能性を検討した。

フレイル健診と運動教室に参加した高齢者を社会参加の有無で2群に分類して検討

この研究は、長野県松本市在住の65歳以上の高齢者のうち、地域で開催された運動教室登録者でフレイル健診に参加した295人のデータを用いて行われた。

研究参加者の社会活動への参加状況の評価には、JST版新活動能力指標(Japan Science and Technology Agency-Index of Competence;JST-IC)を用いた。JST-ICは16項目の質問からなり、このうち「社会参加」に関連する4問(地域の祭りや行事に参加しているか、町内会・自治会で活動しているか、自治会やグループ活動の世話役や役職を引き受けることができるか、奉仕活動やボランティア活動をしているか)のいずれかに「はい」と回答した場合は「社会活動に参加している」、すべてに「いいえ」と回答した場合には「社会活動に参加していない」と判定した。

その結果、236人(80%)が社会活動に参加しており、59人(20%)が参加していないと分類された。

社会活動への参加の有無での比較で、年齢、歩行速度、情報収集能力などに有意差

社会活動への参加のほかに、年齢、性別、教育歴、就労状況、経済状況、同居者数、疾患数、歩行速度、握力、転倒歴、認知機能、フレイルカテゴリー、睡眠時間、手段的日常生活動作(IADL)、年間医療費、情報収集能力、健康リテラシーなどの18項目を、一般的な評価指標や質問によって把握した。情報収集能力についてはJST-ICの「情報収集」に関連する4問(外国のニュースや出来事に関心があるか、健康に関する情報の信憑性を判断できるか、など)に基づき判定した。

これら18項目の評価結果を社会活動への参加の有無の2群で比較すると、平均年齢(社会活動参加群79歳 vs 非参加群81歳)、歩行速度(同順に1.22 vs 1.09m/秒)、健康リテラシー(20 vs 18点)、情報収集能力(4 vs 2点)などに有意差が認められた。性別の分布や教育歴、握力、疾患数、就労状況、認知機能、転倒歴などには有意差がなかった。フレイルカテゴリーについては、社会活動非参加群でロバスト(非フレイル/プレフレイル)が少ない傾向があったが、群間差はわずかに有意水準に至らなかった(p=0.051)。

情報収集能力や歩行速度などが社会参加に影響する可能性

続いて、社会活動への参加の有無を目的変数、その他に評価された18項目すべてを説明変数として、機会学習により前記3種類の予測モデル構築を行った。その際、全データの80%にあたる235人分をトレーニング用のデータセット、残り20%にあたる60人分を検証用データセットとした。なお、3種類の予測モデルのうち、非線形サポートベクターマシン(NLSVM)とは、データ分類のための最適な境界を見いだすことに優れた機械学習モデルであり、非線形の複雑なデータ構造にも対応できることが特徴とされている。

各モデルの判別能は、適合率(precision〈誤認の少なさ〉)、感度、特異度、F1スコア(感度と適合率のバランス)、およびAUCなどで評価した。

深層学習モデルはF1スコアが高く、バランスのよい判別能を示す

三つのモデルのなかで、深層学習は感度(0.833)、およびF1スコア(0.625)が最高値であり、バランスのとれた性能を示した。NLSVMはAUCが最も高かったが(0.795)、適合率が最も低く(0.438)、偽陽性が多くなる傾向が示された。ロジスティック回帰は適合率と(0.894)と特異度(0.833)が最も高い一方で感度が低いために(0.583)、F1スコアは2番目で(0.519)、AUCは最も低かった(0.776)。3種類のモデルのAUCは0.776~0.795の範囲であり、いずれも判別能は中程度と判定された。

深層学習モデルにおいてモデル構築に寄与した因子は、寄与率の高いものから順に、情報収集能力(寄与率12.28%)、歩行速度(4.54%)、睡眠時間(3.98%)、同居者数(3.85%)、IADL(2.81%)などであった。ただし、いずれも単独では統計的に有意な判別能を示さなかった。

高齢者の社会参加の予測は難しい?

著者らは本研究の限界点として、横断的手法による検討のため因果関係の推論が制限されること、解析対象が地域運動教室登録者のうちフレイル健診参加者でありサンプリングバイアスが存在する可能性のあること、説明変数とした18項目の妥当性が不明なことなどを挙げている。また、検討した3種類のモデルのAUCがいずれも0.8未満であり判別能は中程度であって、「高齢者の社会活動への参加を予測することの複雑さ、および方法論的な課題が浮き彫りにされた」と記している。

これら一連の検討・考察に基づき、論文の結論は「機械学習モデルは、フレイル健診を受診した高齢者の社会活動への参加を予測するうえで中程度の判別能を示し、深層学習は最もバランスのとれた性能を示した。また情報収集能力が重要な要素として浮上した。なお、各モデルのパフォーマンス特性が異なることから、スクリーニングに用いる際には目的に適したモデルを慎重に選択する必要がある」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Examination of Social Participation in Older Adults Undergoing Frailty Health Checkups Using Deep Learning Models」。〔Geriatrics (Basel). 2025 Sep 12;10(5):124〕 原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 3

高齢者の筋量と筋力に対する筋トレに並行して行う栄養介入の効果を、ネットワークメタ解析で検討した研究結果が報告された。筋力に対してはプロテイン摂取の上乗せが最も効果的であり、筋量に対してはクレアチン摂取の上乗せが最も効果的である可能性が示されたという。

ネットワークメタ解析で、異なる栄養介入の有効性を比較検討

世界的に高齢者人口が増加し、サルコペニア対策が公衆衛生上の重要な課題となっている。これまでの研究から、筋力トレーニングがサルコペニアの予防や改善に有効であることが示されており、それ以外に、プロテイン、クレアチン、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)などのサプリメントの有効性を示唆する報告がみられる。

筋トレと栄養はどちらか一方のみよりも、両者を並行して行ったほうが、有効性が高くなる可能性も示されている。逆に言うと、どちらか一方が不十分な場合、もう片方の介入の効果が十分発揮されないことがある。例えば、タンパク質の摂取量が0.8g/kg/日を下回っていると、筋トレによる筋タンパク質の合成効率が42%低下するというデータがあり、また、タンパク質摂取量が十分であっても機械的な負荷がなければ最大56%のアミノ酸が利用されないというデータがある。

これらを背景に、筋トレと栄養介入を並行して行い相乗効果を検討するという研究が、既に多く行われてきている。しかし、それら個々の研究は単一の栄養素の有効性を検討したものがほとんどであり、異なる栄養素の有効性を比較することはできていない。そこで今回取り上げる論文の著者らは、異なる介入を行っている複数の研究報告を統合して、個々の介入の効果を順位付けする統計学的な手法である、ネットワークメタ解析を施行。筋トレに並行して行う栄養介入として、筋量や筋力の点で優れているサプリメントを探索した。

プロテイン、クレアチン、HMBを筋トレに上乗せしたRCTの報告を抽出

システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、PubMed、Web of Science、Embaseという三つの文献データベースに、それぞれのスタートから2025年4月までに収載された論文を対象とした検索を実施。包括基準は、研究参加者が身体・精神・認知機能が健康的と判断される地域在住の60歳以上の成人であり、筋トレと栄養介入を並行して行い、それらのアウトカムを検証済みの一つ以上の筋量・筋力関連指標で評価している無作為化比較試験(RCT)の報告であって、全文にアクセス可能なものとした。介入方法の記述が不完全な報告、データ欠落のある報告、筋量や筋力とは関連のない指標のみを示している報告は除外した。

一次検索で997報がヒットし、重複削除後の718報を、2名の研究者が独立してスクリーニングを行い、69報を全文精査の対象とした。最終的に19件のRCTの結果が適格と判断された。

抽出されたRCTの特徴

19件のRCTの合計参加者数は997人で、栄養介入はプロテイン摂取が11件、クレアチン摂取が5件、HMB摂取が3件だった。アウトカムについては16件の研究が筋力、18件の研究が筋量を評価していた。

全体として、盲検化について言及していない報告が多く存在した。この点を著者らは、「スポーツ栄養関連のRCTでしばしば観察される、この領域固有の限界」と述べている。バイアスリスクが高いと判定された報告はなかったが、中リスクと判定された報告が68.4%を占めていた。

プロテインとクレアチンを優先する統合的なサプリメント戦略に期待

論文では解析結果を、ネットワークメタ解析に基づく累積順位曲線下面積(surface under the cumulative ranking curve;SUCRA)として示すとともに、標準化平均差(standardized mean difference;SMD)および平均差(mean difference;MD)として示している。

SUCRAによる順位付けの結果

ネットワークメタ解析の累積順位曲線下面積(SUCRA)からは、プロテイン、クレアチン、HMBの中で、筋トレに並行して行った場合に筋力アップに最も効果的な栄養介入は、プロテインサプリ(SUCRA98.7%)であることが示された。次いで、クレアチン(SUCRA48.9%)であり、その次はプラセボ(SUCRA43.8%)であって、HMBはプラセボを下回った(SUCRA8.7%)。

一方、筋量に対してはクレアチンが最も有効である可能性が高く(SUCRA99.9%)、次いでプロテイン(SUCRA62.5%)とHMB(SUCRA23.9%)が続き、いずれもプラセボ(SUCRA13.7%)を上回っていた。

SMD、MDによる介入効果の比較

筋力に対する効果を標準化平均差(SMD)または平均差(MD)でみた場合、プロテインは(SMD=0.45〈95%CI;0.20~0.69〉)、クレアチン(MD=2.18〈0.93~3.44〉であり、筋量に対してはプロテイン(MD=0.37〈0.04~0.70〉)という結果が示された。

ペアワイズ比較では、筋力アップという点においてプロテインはHMBよりも優れていて、筋量増加という点においてクレアチンはプロテイとHMBの双方を上回っていた。

著者らは本研究の限界点として、HMB介入の報告が3件のみであり、潜在的な効果が過小評価されている可能性があることなどを挙げたうえで、結論を「本ネットワークメタ解析は、健康な高齢者において、プロテインサプリメントの摂取をレジスタンストレーニングに組み合わせることで、筋力と筋量の双方が有意に改善し、筋力増強においてはクレアチンと同等の有効性を示すことを示した。クレアチンサプリは、筋肉量増加において、プロテインとHMBの両方を上回る優れた有効性を示した。一方、HMBサプリについては、本研究からは有意な効果が認められなかった」とまとめている。

また、将来の展望として、「栄養とレジスタンストレーニングの相乗効果を最大化するために、プロテインとクレアチンを優先する統合的なサプリメント戦略を開発し、投与量、配合、介入期間を詳細に検討する必要がある。今後の研究により、高齢者のサブグループ(例えばサルコペニア該当者)における反応の異質性を明らかにし、長期的な安全性と用量反応関係を確立することで、個別化された運動・栄養レジメンの最適化が求められる」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「The impact of nutritional intervention and resistance training on muscle strength and mass in healthy older adults—a comparative analysis」。〔Front Nutr. 2025 Aug 18:12:1640858〕 原文はこちら(Frontiers Media)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 4

消防庁は先ごろ、本年8月の熱中症による救急搬送人員の確定値を発表した。8月の全国の熱中症による救急搬送人員は3万1,526人で、調査を開始した平成20年以降で5番目に多く、5~8月の累計では過去2番目だという。

結果の概要

全国の熱中症による救急搬送状況の年齢区分別では高齢者が最も多く約55%、初診時における傷病程度別では入院が必要(中等症・重症)な人が約36%、発生場所別では、住居(約37%)が最も多く、次いで道路(約20%)、駅(屋外ホーム)等の不特定者が出入りする屋外の場所(約14%)、道路工事現場・工場・作業所等の仕事場(約11%)の順。

なお、5~8月までの救急搬送人員の累計は9万744人と、5月からの調査を開始した平成27年以降で2番目に多かった。

結果の詳細

総数

令和7年8月の全国における熱中症による救急搬送人員は3万1,526人だった。これは、8月の調査を開始した平成20年以降、8月としては5番目に多い搬送人員。

図1 8月における熱中症による救急搬送人員数(年別)

(出典:総務省/消防庁)

内訳

年齢区分別の救急搬送人員

高齢者(満65歳以上)が最も多く1万7,273人(54.8%)、次いで成人(満18歳以上満65歳未満)1万1,487人(36.4%)、少年(満7歳以上満18歳未満)2,641人(8.4%)、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)125人(0.4%)の順。

図2 令和7年8月の熱中症による救急搬送人員【年齢区分別(構成比)】

(出典:総務省/消防庁)

医療機関での初診時における傷病程度別の救急搬送人員

軽症(外来診療)が最も多く1万9,936人(63.2%)、次いで中等症(入院診療)1万741人(34.1%)、重症(長期入院)717人(2.3%)の順。

図3 令和7年8月の熱中症による救急搬送人員【初診時における傷病程度別(構成比)】

(出典:総務省/消防庁)

発生場所別の救急搬送人員

住居が最も多く1万1,579人(36.7%)、次いで道路6,288人(19.9%)、公衆(屋外)4,250人(13.5%)、仕事場(1)3,472人(11.0%)の順。

図4 令和7年8月の熱中症による救急搬送人員【発生場所別(構成比)】

(出典:総務省/消防庁)

5~9月の累計では過去最高になる?

前述のように、5~8月までの救急搬送人員の累計は、過去2番目の多さとなった。

以下のグラフを見ると、過去最高だった昨年を8月までの累計としては上回っており、今年の残暑の厳しさから9月の搬送数は昨年と同程度だったかもしれず、5~9月の累計では過去最高を更新することも考えられる。

図5 平成20年〜令和7年の熱中症による救急搬送人員の推移

(出典:総務省/消防庁)

関連情報

令和7年8月の熱中症による救急搬送状況(総務省)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 5

5歳児の親の子どもの運動能力に関する態度や行動が、子どもが9歳半に成長した時点の身体能力の有意な予測因子であるとする、縦断研究の結果が発表された。著者らは、子どもの運動能力の発達を促すうえで、親をターゲットとした介入の重要性を示す結果であるとしている。

生涯にわたる活発な身体活動には、幼少期に運動能力を高めておく必要がある

習慣的な身体活動に、心血管疾患や2型糖尿病、早期死亡のリスク低下など、健康上のメリットがあることは広く知られているが、それにもかかわらず多くの成人が身体活動不足の生活を送っており、それが非感染性疾患(non-communicable diseases;NCD)蔓延の一因となっていると考えられている。

身体活動量の成人の特徴として、多忙のため時間がないなどのほかに、基礎的な運動能力の低さも該当する可能性が指摘されている。基礎的な運動能力は幼少期から成長の過程で身に付くと考えられ、幼少期に一定程度以上の運動能力を獲得しておくことが、生涯にわたる活動的な生活につながる可能性がある。

横断研究からは、幼少期の運動能力の発達には親の関与の重要性が示唆されている

幼少期の運動能力を規定する因子として、複数の研究から保護者の関与が指摘されている。つまり、親が子どもに外遊びを促したり、一緒にからだを動かしたりすることは、子どもの基本的な運動能力の獲得に寄与し、反対に安全上の懸念等から外遊びを制限したりすることは、子どもの運動能力の発達に負の影響を及ぼす可能性がある。

ただし、これらの知見の大半は横断研究によるものであり、今回紹介する論文の著者は、「子どもの遊びや運動能力への親の影響を関連付けた縦断的な研究のエビデンスは存在しない」としている。

幼少期の運動能力の発達に対する親の役割を縦断研究で検討

以上を背景として、この研究は縦断的デザインにより、子どもの運動能力の発達に対する親の役割が検討された。研究には、小児肥満予防を目的としてメルボルンで実施された、乳児の摂食や栄養・身体活動に関する研究(Melbourne Infant Feeding, Activity and Nutrition Trial;InFANT)のデータを用いた。InFANTには542組の初産婦と幼児(生後4カ月)が参加し、このうち子どもが9歳半になるまでの追跡データのある199組(子どもは男児が47%)を、今回の研究の解析対象とした。

5歳時点で子どもの身体活動に関する親のかかわりを調査

子どもが5歳になった時点で親を対象とする調査で、(1)子どもの身体活動を支援するうえでの自己効力感、(2)子どもの身体活動の支援行動、(3)子どもの身体活動に対する態度、という3項目を調査した。

自己効力感は、「子どもがテレビを見たいという時に活動的な遊びをさせる」、「子どもにさまざまな活動的な遊びの選択肢を示す」、「子どもと遊ぶ」という3項目について4段階のリッカートスケールで回答を得て評価。支援行動については、「子どもを自転車等に乗せて外出する」、「子どもに外遊びを勧める」などの6項目について4段階のリッカートスケールで回答を得て評価。態度については、「子どもに与える遊具は発達や活動に影響を与える」、「親がスポーツなどで活動的に過ごしていると子どももそれを楽しむようになる」などの4項目について4段階のリッカートスケールで回答を得て評価した。

9歳半時点で基本的な運動能力を評価し、交絡因子を調整して解析

5歳時点の子どもの運動能力の評価には、粗大運動発達検査-第2版(Test of Gross Motor Development-2nd Edition;TGMD-2)、運動スキル自己評価(Perceived Movement Skill Competence;PMSC)を利用し、子どもの代わりに親が代理回答した。9歳時点で、走る、跳ぶ、ボールを蹴る・打つなどの6種類の基本的な運動能力(論文ではmotor competence for active play〈活発な遊びのための運動能力〉と記されている)について、同様に親が代理回答した。

子どもが男児であること、5歳時点のTGMD-2スコアが高いこと、親の社会経済的地位が高いことは、いずれも9歳半時点の基本的な運動能力(活発な遊びのための運動能力)の高さと有意な関連が認められた。よって、これ以降の解析に際しては、これらも交絡因子として考慮した。

子どもの運動能力向上に、親をターゲットとした介入が重要

9歳半時点の基本的な運動能力(活発な遊びのための運動能力)を目的変数とする単回帰分析では、親の自己効力感、支援行動、および態度という三つの因子は、すべて有意な関連が認められた。次に多変量解析を行った結果、自己効力感は有意性が消失したが、支援行動(β=0.201、p=0.008)、および態度(β=0.165、p=0.028)は引き続き有意性が保たれていた。

著者らは「この研究結果は、子どもの運動能力の発達を促進する際に親をターゲットにすることの重要性を強調しており、とくに非構造化活動環境における活発なライフスタイルの促進に重点が置かれる」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Parental influence on children’s motor competence for active play: A longitudinal analysis」。〔J Sports Sci. 2025 Sep 1:1-8〕 原文はこちら(Informa UK)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 6

世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)は、先ごろ、2026年の禁止表国際基準を発表した。この基準は2026年1月1日に発行される。一部のトップアスリートが行っていると報道されている一酸化炭素吸入も、診断目的を除いて禁止される。

主な変更点は、以下のようにまとめられている。ここでは一部を抜粋し翻訳しているため、正確な情報は原典を参照のこと。なお、日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency;JADA)のサイトに、「専門家を含めた翻訳作業の後、当機構から2026禁止表国際基準(日本語版)を公開」すると記されている。

常に禁止される物質と方法(競技会検査と競技会外検査)

禁止される物質

蛋白同化薬

禁止ステロイドのエステルも禁止対象であることを明記。

ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質

Pegmolesatide(ペグモレサチド)を、新たなエリスロポエチン模倣薬の例として追加。

ベータ2作用薬

サルメテロールの投与間隔を、治療効果を超える潜在的なエルゴジェニック効果を回避するため改訂。最大投与量は変更なく、24時間で200μg。

ホルモン調節薬および代謝調節薬

2-Phenylbenzo[h]chromen-4-one(2-フェニルベンゾ[h]クロメン-4-オン)〔別名ɑ-naphthoflavone〈α-ナフトフラボン〉または7,8-benzoflavone〈7,8-ベンゾフラボン〉〕を、アロマターゼ阻害薬の例として追加。この合成物質はサプリメント中に存在することが確認されている。

5-N,6-N-bis(2-fluorophenyl)-[1,2,5]oxadiazolo[3,4-b]pyrazine-5,6-diamine(5-N,6-N-ビス(2-フルオロフェニル)-[1,2,5]オキサジアゾロ[3,4-b]ピラジン-5,6-ジアミン)〔別名BAM15〕を、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化薬の例として追加。この合成物質はサプリメント中に存在することが確認されている。

禁止される方法

血液および血液成分の操作

血液または血液成分の採取は、1)医療検査やドーピング検査を含む分析目的、または、2)当該国の関連規制当局によって認定された採取センターで行われる献血目的を除き、禁止されることが明確化された。ただし、多血小板血漿(PRP)および関連処置は引き続き禁止されていない。

一酸化炭素(CO)の非診断目的の使用が、禁止方法の新たなセクションとして追加された。一酸化炭素は、特定の条件下で赤血球造血を促進する可能性がある。総ヘモグロビン量の測定や肺拡散能の測定など、診断目的での一酸化炭素の使用は禁止されていない。

遺伝子および細胞ドーピング

細胞成分(例:核、ミトコンドリアやリボソームなどの細胞小器官)が、既存の正常細胞または遺伝子組み換え細胞の使用禁止に加えて、新たに追加された。

競技会(時)に禁止される物質と方法

禁止される物質

興奮薬

2-[Bis(4-fluorophenyl)methylsulfinyl]acetamide(flmodafinil/2-[ビス(4-フルオロフェニル)メチルスルフィニル]アセトアミド)、2-[bis(4-fluorophenyl)methylsulfinyl]-N-hydroxyacetamide(fladrafinil/2-[ビス(4-フルオロフェニル)メチルスルフィニル]-N-ヒドロキシアセトアミド)が、非特定興奮薬リストに追加された。これらの未承認物質は、modafinil(モダフィニル)およびadrafinil(アドラフィニル)の類似体であり、サプリメントとして販売されている。

グルココルチコイド

グルココルチコイドのウォッシュアウトに関する表の脚注として、「徐放性グルココルチコイド製剤の使用は、全身吸収の遅延により、ウォッシュアウト期間後もグルココルチコイド濃度が検出可能なレベルに達する可能性がある」と追記された。

関連情報

2026 Prohibited List(WADA) 2026禁止表国際基準(英語版)が公開されました(日本アンチ・ドーピング機構)

この記事のURLとタイトルをコピーする

アンチ・ドーピング情報 CONTENTS

スポーツ栄養Web編集部


Page 7

オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)のスポーツサプリメント分類で、カテゴリーAに位置づけられているサプリメントについて、そのエルゴジェニック効果と生理学的な影響をレビューしたスペインの研究者らの論文が発表された。

オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)のABCD分類のカテゴリーAのエビデンス

スポーツサプリメントは多くの国で「食品」として扱われているため、医薬品に課せられているような厳格な臨床試験を経ずに市場に流通している。現在、アスリートのスポーツサプリ利用率は、報告により40~100%とされており、インターネットを利用した購入の台頭によってさらに身近な存在になってきている。これを背景に、安全性、有効性、流通の慣行等の評価がより重要となりつつある。

スポーツサプリの有効性等を判断する一つの基準として、オーストラリア国立スポーツ研究所(Australian Institute of Sport;AIS)のABCD分類が挙げられる。このABCD分類では、有効性を示すエビデンスのあるものをA、有効性のエビデンスはあるもののカテゴリーAほどには強固でないものをB、エビデンスが十分でないものをC、禁止物質をDとしている。今回取り上げる論文の研究では、これらのうちカテゴリーAに該当する、カフェイン、クレアチン、β-アラニン、硝酸塩/ビート根ジュース、重炭酸ナトリウム、グリセロールについて、それらのエルゴジェニック効果と生理学的な影響を総括することを目的としたレビューが行われた。

2015年以降のエビデンスの総括

PubMedを用いて、2015年以降に報告された、スポーツサプリの効果を検討したメタ解析、スポーツサプリに言及している、英語またはスペイン語で執筆されたポジション/コンセンサスペーハーなどの文献を収集した。2015年以降に限定した理由は、最近の10年間でアスリートに対する栄養の推奨事項が大きく変化してきたため。2名の研究者が独立して、事前に設定されたテンプレートに沿って採否を検討し、採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。データ抽出に際しては、主として実用的かつエルゴジェニックなアウトカムを重視している文献に絞り込んだ。

最終的に、7件のシステマティックレビューと5件のポジションスタンドを抽出。論文ではこれらについて、詳細な解説とともに、摂取方法、適用されている競技、期待される効果、流通形態などを一覧表にまとめている。ここではその一覧表の内容を抜粋して紹介する。

一般的な摂取量
3~6mg/kg
エビデンスのある競技
持久系競技、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、ボート、筋力スポーツ
摂取プロトコル
運動の60分前に摂取
有効性のエビデンス
有酸素運動と無酸素運動のパフォーマンスを向上。運動中に要する努力の自覚を軽減する。持久力を高める
流通形態
カプセル、飲料、ジェル、ショット、チューインガム、粉末
一般的な摂取量
ローディング期;1日20~30gまたは体重あたり0.3gを5~7日間、主食中に4回に分けて摂取。維持期;1日3~5gまたは体重あたり0.03g
エビデンスのある競技
持久系競技、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、ボート、筋力スポーツ
摂取プロトコル
クレアチン一水和物として、トレーニング前またはトレーニング後に50gのタンパク質・炭水化物と一緒に摂取
有効性のエビデンス
スポーツパフォーマンスの向上。短期間の高強度運動を継続的に行うことで身体能力が向上する。毎日クレアチンを摂取すると、55歳以上の成人の筋力トレーニングの効果が向上する
流通形態
カプセル、錠剤、粉末
一般的な摂取量
1日4~6gを分割摂取する
エビデンスのある競技
短時間スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技
摂取プロトコル
4~10週間摂取
有効性のエビデンス
スポーツパフォーマンスの向上
流通形態
錠剤、粉末、カプセル
一般的な摂取量
300~600mgまたは5~8mmol
エビデンスのある競技
持久系スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技、持続時間が40分未満のスポーツ
摂取プロトコル
運動の2~3時間前に摂取
有効性のエビデンス
スポーツパフォーマンスの向上
流通形態
粉末、ジェル、ショット、液体、錠剤、カプセル
一般的な摂取量
体重あたり0.2~0.4g
エビデンスのある競技
持久系スポーツ、断続的なスポーツ、団体競技、水泳、体重階級のある競技、短時間スポーツ
摂取プロトコル
運動の60~120分前に1回摂取。競技の2~4日前に1日3~4回に分けて摂取
有効性のエビデンス
スポーツパフォーマンスの向上
流通形態
粉末、錠剤
一般的な摂取量
1~1.2g/kgを25mL/kgの液体と一緒に摂取する
エビデンスのある競技
持久系スポーツ、長期スポーツ、高温条件でのスポーツ
摂取プロトコル
運動の1~2時間前に摂取
有効性のエビデンス
スポーツパフォーマンスの向上。脱水症状の予防
流通形態
粉末

文献情報

原題のタイトルは、「Ergogenic and Physiological Effects of Sports Supplements: Implications for Advertising and Consumer Information」。〔Nutrients. 2025 Aug 21;17(16):2706〕 原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 8

一般成人を対象とする調査から、水分補給の習慣、および、尿浸透圧などで評価した実際の水分補給状態が、喫煙や飲酒などの健康関連行動、および、ウエスト周囲長や日中の疲労などの健康状態と関連していることが報告された。ポーランドで行われた研究であり、要旨を紹介する。

水分の補給状態も重要な健康指標の一つ

一般的な健康関連指標として、ウエスト周囲長や体脂肪率などの体組成、血圧、あるいは加齢に伴う筋力低下を表す握力などが挙げられる。これら以外に、今回取り上げる論文の著者らは「過小評価されている指標」として水分の補給状態を挙げ、体内の水分は、全身の恒常性の維持、浸透圧の調整、栄養素の輸送、神経系と腎臓の機能に不可欠だと解説している。そのような重要性にもかかわらず、他の健康指標に比べて水分補給状態についての研究はあまり行われていない。

このことから著者らは、血圧、ウエスト周囲長、握力などで評価される健康状態、および、BMI、喫煙・飲酒・身体活動習慣、睡眠時間で評価される健康関連行動と、尿比重・浸透圧・pHとの関連を横断的に検討した。

多様な背景をもつ一般住民の水分補給習慣・状態と健康関連行動・状態との関連を調査

この研究の参加者は、ボーランド国内の幅広い多様性をもつ集団から募集された。具体的には、居住地域(都市部、農村部)、社会経済的地位、教育歴などの偏りを避け、17~66歳の450人を募集。このうち、年齢別該当者数が少ないことから18歳未満と40歳以上は解析から除外。また、急性・慢性腎障害、癌、高血圧、過敏性腸症候群の既往、ステロイド、利尿薬等の処方、過去3日以内の下痢・嘔吐・発熱のエピソード、身体の障害、妊娠・授乳中、およびデータ欠落などの該当者を除外し、最終的に337人(女性67.1%)を解析対象とした。

評価項目について

水分補給習慣と水分補給状態

水分の摂取習慣は、食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて、紅茶、コーヒー、ハーブティー、牛乳、発酵乳飲料、ミネラルウォーター(炭酸入り/炭酸なし)、ジュース(フルーツジュース、野菜ジュース、ミックスジュース)、無炭酸フルーツドリンク、加糖炭酸飲料、コーラ、エナジードリンク、アイソトニックドリンク、ノンアルコールビール、ビール、ワイン、ウォッカ、アルコール飲料などの摂取量を把握した。

水分補給状態は、前述のように尿比重、尿浸透圧、尿pHで評価した。

健康関連行動と健康状態

健康関連行動は、国際標準化身体活動質問票(international physical activity questionnaire;IPAQ)を用いた評価した身体活動量、喫煙習慣、飲酒習慣、BMI、睡眠時間で評価し、またこれらの結果に基づき健康指数スコア(health index score;HIS)を算出。HISが0~2点は非健康的な生活習慣、3~5点は健康的な生活習慣と判定した。

健康状態は、血圧、ウエスト周囲長、握力、体組成などで評価した。

生活習慣が健康的か非健康的かで水分摂取習慣と水分補給状態が有意に異なる

健康指数スコア(HIS)に基づき、全体の34.1%が非健康的、65.9%が健康的と判定された。この両群を比較すると、年齢、居住地域、経済状態、健康状態に有意差はなかったが、非健康的な群には男性が多かった(44.4 vs 23.1%、p=0.001)。

9種類の飲料の摂取頻度が健康指数スコアに関連

健康指数スコア(HIS)に基づき生活習慣が非健康的とされた群と健康的とされた群の水分補給習慣を比較すると、食物摂取頻度調査票(FFQ)で評価した22種類の飲料のうち9種類の摂取頻度に有意差が認められた。具体的には、健康的な群は、天然発酵飲料、非炭酸ミネラルウォーターの摂取頻度が高く、非健康的な群は、風味付けられた発酵飲料、非炭酸フルーツ飲料、加糖炭酸飲料、お茶、エナジードリンク、ビール、ウォッカの摂取頻度が高かった。

生活習慣の差で尿比重と尿浸透圧にも有意差

次に、生活習慣が非健康的とされた群と健康的とされた群の尿所見を比較すると、生活習慣が非健康的な群は尿比重が高く(1.024 vs 1.019g/mL、p=0.038)、尿浸透圧も高くて(572 vs 516mOsm/kg、p=0.027)、体内の水分量が少ない傾向のある状態が示唆された。pHは両群ともに6.00だった。

日中の疲労、ウエスト周囲長、尿浸透圧は非健康的な生活習慣と独立した関連

続いて、非健康的な生活習慣を目的変数とし、年齢、性別、居住地、教育歴、経済状態を調整した回帰分析を施行。その結果、日中の疲労(オッズ比〈OR〉1.45〈95%CI;1.11~1.78〉)、ウエスト周囲長(OR1.35〈1.15~1.57〉)とともに、尿浸透圧(OR1.87〈1.33~2.37〉)が独立した正の関連因子として抽出された。反対に、非炭酸ミネラルウォーターの摂取頻度が高いことは、独立した負の関連因子として抽出された(OR0.54〈0.21~0.86〉)。

これら一連の結果に基づき著者らは、「健康指数スコア(HIS)と水分補給関連のパラメーターは、成人の健康状態の評価、および、介入において特別なサポートを必要とする集団の特定に補完的な役割を果たす」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association Between Health-Related Behaviors and Health Status and Hydration Status in Polish Adults」。〔Nutrients. 2025 Aug 9;17(16):2597〕 原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 9

日本のアスリートは百日咳ワクチンの追加接種を受けるべきではないかとする、岡山大学病院感染症内科の萩谷英大氏の論文が、「IJID Regions」に短報として掲載された。要旨を紹介する。

ポストコロナで百日咳が世界的に流行

百日咳は百日咳菌による感染症で、基本再生産数は15~17と報告されており感染力が強い。罹患すると風邪症状に始まり、数週間から数カ月にわたり咳が続くことがある。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック終息後には、マクロライド耐性株による流行が世界的規模で発生している。

幼児期から思春期にかけて、ワクチンの繰り返し接種が世界標準

百日咳の最も効果的な予防法はワクチン接種であり、国際的には幼児期から思春期にわたり繰り返し接種が推奨されている。例えば米国疾病対策センター(CDC)は、生後6カ月までに初回シリーズ(3回)を接種し、生後15~18カ月、就学前期(4〜6歳)、思春期初期(11〜12歳)の追加接種を推奨している。

日本の定期接種は乳幼児期までで終了、ワクチンのタイプも異なる

一方、我が国では、生後6カ月までに3回、12〜18カ月に1回の計4回が定期接種として行われるものの、それ以降は任意接種となるため大半の人は幼児期以降にブースト接種を受けていない。さらに、日本で用いられているワクチンは、ジフテリア、百日咳、破傷風に対する三種混合(DPT)ワクチンのみであり、抗原毒素量が海外で使われているものよりも多く、接種後の局所副反応が強く現れやすいという差異も存在する。

国際大会参加アスリート間で流行した事例がある

アスリートが百日咳に罹患した場合、軽快するまでの長期間、トレーニングに支障が生じたり、大会参加が制限されたり、パフォーマンスが低下する懸念がある。実際、過去にはポーランドの射撃ナショナルチームの選手間で百日咳が流行し、期待された成績を上げられなかったという事例の報告がある。

日本のスポーツを世界水準にするためには、ワクチン接種を世界標準に

国際化の進展とともに、人々の感染症罹患リスクは高まっており、国際大会に出場するアスリートも同様と言える。これらを論拠として萩谷氏は、「我が国のスポーツを世界水準に引き上げるためには、ワクチン接種政策を国際標準にあわせることが不可欠」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Should Japanese athletes undergo booster vaccination for pertussis?」。〔IJID Reg. 2025 Jul 31:16:100718〕 原文はこちら(Elsevier)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 10

朝食抜きと遅い夕食の習慣が、骨粗鬆症性骨折リスクの上昇と関連していることが、初めて明らかにされた。奈良県立医科大学の研究グループの研究結果であり、「Journal of the Endocrine Society」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の背景:食習慣は骨粗鬆症による骨折リスクに関連があるのか?

骨粗鬆症による骨折は、とくに高齢者においてADL(日常生活動作)の低下を引き起こし、本人および家族のQOL(生活の質)を大きく損なう。寝たきりや施設への入所につながることもあり、生命予後にも影響を及ぼす。また、骨折による手術費、リハビリテーション費、そして介護費など、経済的負担も大きくなるため、骨粗鬆症を正しく診断・治療し、骨折を予防することは非常に大切。

骨粗鬆症の予防には、リスクの高い人を把握する必要がある。骨粗鬆症のリスクは、加齢、家族歴、薬剤に加え、さまざまな生活習慣がリスクとして関連している。これまで、喫煙、運動不足、睡眠不足が骨粗鬆症のリスクであり、食事のカルシウムやビタミンDの摂取不足の関連は言われていたが、いわゆる食習慣そのものに関する報告は限られていた。朝食抜きは骨密度の低下と関連する可能性があると報告されていたものの、実際の骨折リスクとの関連は不明だった。また夜遅い夕食に関しては、骨粗鬆症との関連を調べた研究自体が存在しなかった。

そこで今回の研究では、健康診断結果と紐づけられた日本の大規模なレセプトデータベース(病院や薬局が保険者へ請求する「診療明細(レセプト)」を匿名化して集めた巨大なデータベース)を活用し、生活習慣に関する問診に答えた人を対象に、「朝食抜き」「遅い夕食」という食習慣が骨粗鬆症性骨折に与える影響を調べた。

研究の成果:食習慣だけでなく、さまざまな生活習慣が骨折リスクに関連している

1,100万人の健診データが連結された日本の大規模レセプトデータベース(DeSCデータベース)を用いて、2014~22年に健康診断を受診し、骨粗鬆症の既往がない20歳以上の人を対象に解析を行った。生活習慣に関する情報は、健康診断時の問診票から取得し、朝食抜き(週3回以上朝食を抜いた)、遅い夕食(週3回以上、就寝2時間以内の夕食を摂る)に加えて、喫煙、運動、睡眠の質など、ほかの生活習慣もあわせて収集した。アウトカムは、レセプトデータに基づき、骨粗鬆症性骨折(大腿骨・橈骨遠位端・脊椎・上腕骨の骨折)の診断とした。

健康診断日を起点として、骨粗鬆症性骨折の発生または観察終了日までを追跡し、不健康な生活習慣の有無による骨折のリスクをCOX比例ハザードモデル※2により求めた。個々の生活習慣による独立したリスクを正確に計算するために、交絡因子となり得る既知の骨粗鬆症のリスクである、年齢や性別、ステロイド薬などの薬剤歴、関節リウマチ・糖尿病などの疾患の有無などで調整した。

対象者92万7,130人を、中央値2.6年追跡したところ、2万8,196人に骨粗鬆症性骨折が発生していた。骨折リスクについて、ほかのリスク因子を調整した後の骨折リスクハザード比(95%CI)は、朝食抜きが18%増加(調整ハザード比※3〈aHR〉1.18〈95%信頼区間※41.12~1.23〉)、遅い夕食が8%増加(aHR1.08〈1.04~1.12〉)を示した。その他の生活習慣では喫煙が11%増加(aHR1.11〈1.06~1.17〉)、運動習慣なしが9%増加(aHR1.09〈1.06~1.11〉)、不十分な睡眠が5%増加(aHR1.05〈1.02~1.07〉)と関連していた。さらに、朝食抜きと遅い夕食習慣をあわせ持つ人は、骨折リスクが23%増加(aHR1.23〈1.13~1.34〉)と、相加的にリスクが増加するという大きな影響が認められた。

とくに重要な点として、朝食を抜く習慣のある集団では、男性が多く、遅くに夕食を摂る、喫煙、運動不足、睡眠不良、体重増加傾向など、複数の不健康な生活習慣の集積が認められた。このことは、朝食抜きという習慣そのものよりも、その背景にある生活スタイルを明らかにして介入することの重要性を示唆している。例えば、働き盛りで忙しい男性では、朝食を摂る時間が確保できず、帰りが遅く夕食も遅くなりがちであることや、ストレスによって喫煙や飲酒量が増える可能性なども考慮する必要がある。

本研究の限界として、観察研究であることから因果関係を示すものではない点が挙げられる。生活習慣の改善によって本当に骨折を予防できるかどうかの証明には、前向きの介入研究が必要。一方で今回の結果は、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などは生活習慣病として知られているが、骨粗鬆症も重要な生活習慣病の一つであることを明確に示している。骨の健康のためにも、健康的な食習慣とともに運動習慣、禁煙、お酒を飲み過ぎないなど総合的な指導が大切と言える。

プレスリリース

朝食抜き・遅い夕食の習慣は骨折リスクを高める可能性があるー1100万人のデータ解析で食習慣との関連を初めて明らかにー(奈良県立医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary Habits and Osteoporotic Fracture Risk: Retrospective Cohort Study Using Large-Scale Claims Data」。〔J Endocr Soc. 2025 Aug 28;9(9):bvaf127〕 原文はこちら(Oxford University Press)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 11

大阪府で特定健診を受診した男女約17万人を対象に、飲酒量と腎機能との関連を調べたところ、毎日日本酒2合相当(アルコール40g)以上飲む男性では、将来、腎機能が30%以上低下するリスクが高いことが判明した。大阪大学の研究グループの成果であり、「Journal of Nephrology」に論文が掲載された。この研究では、詳細な飲酒量カテゴリの設定と長期間の追跡により、これまでは影響が不明確だった2合以上3合未満の飲酒について、腎機能低下との関連を調べることが可能になった。著者らは、「飲酒量に応じたリスク評価や生活習慣改善の指導など、効果的な保健指導が行われることが期待される」としている。

研究の背景:腎機能低下リスクとなる飲酒量を詳細に探る

多量飲酒と腎機能との関連について検討した過去の疫学研究では、多量飲酒の定義が「1日あたり日本酒1合相当以上」や「2合相当以上」など、研究ごとにばらついており、相反する結果が混在していた。近年実施された大規模疫学研究では、日本人30万4,929人(男性12万5,698人、女性17万9,231人)を対象とし、中央値1.9年間追跡することで、「1日あたり2合未満」の飲酒では腎機能の低下はみられなかったが、「1日あたり3合以上」の飲酒では、男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていた。しかしながら、毎日2合以上3合未満の飲酒と腎機能との関連については、明確な結論が得られていなかった。さらに、女性は男性よりも飲酒の影響を受けやすいことが知られており、性別による影響の違いも考えられていた。

これらのことから、飲酒量の詳細なカテゴリを設定し、男女別で腎機能との関連を検討する必要があった。

研究の内容:男性は1日2合以上で、eGFR30%低下と有意に関連

2012~17年度の大阪府で特定健診を受診した16万9,272人(男性8万765人、女性8万8,507人)のデータを用い、飲酒量と腎機能(推算糸球体濾過量〈eGFR〉)低下との関連を男女別に検討した。飲酒量は、(1)飲まない、(2)たまに飲む、(3)毎日1合未満、(4)毎日1~2合未満、(5)毎日2~3合未満、(6)毎日3合以上の6カテゴリに分類された。

中央値2.8年間観察したところ、男性では1,231人(1.5%)で腎機能が30%以上低下した(図1)。とくに毎日2合以上飲酒する群(カテゴリ5と6)は、飲まない群(カテゴリ1)と比較し、腎機能低下のリスクが高いことが示された(カテゴリ1を基準〈リスク=1.00〉とした場合、2〜6リスクはそれぞれ、1.05倍〈95%信頼区間0.87~1.27〉、0.99倍〈0.80~1.21〉、1.05倍〈0.88~1.26〉、1.23倍〈1.01~1.51〉、1.61倍〈1.22~2.11〉となった)。

一方、女性では飲酒者が少なかったことから、十分な検討ができなかった。

図1 アルコール摂取量と腎機能30%以上の低下

(出典:大阪大学)

本研究成果が社会に与える影響:従来考えられていたよりも低用量で腎機能が低下

厚生労働省は、毎日日本酒1合相当を適量飲酒とし、それ以上の飲酒では健康リスクとなることを提唱している。腎臓に関して、過去に行われた日本人を対象とした大規模疫学調査より、毎日2合未満の飲酒では腎機能低下のリスクとはならず、3合以上の飲酒で男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていた。

今回の研究では、毎日2合を超える飲酒で男性の腎機能低下リスクが高い可能性が示された。この知見は、飲酒による腎機能への影響が、従来考えられていたよりも低用量の飲酒で現れる可能性を意味しており、腎臓においても飲酒量に関する、より慎重なリスク評価が求められる。

関連情報

毎日日本酒2合相当の飲酒から、 男性の腎機能低下リスクが高まる 大阪府特定健診のビッグデータが示す、飲酒と腎機能低下の関係(大阪大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Alcohol Consumption and Incidence of Decline in Glomerular Filtration Rate and Proteinuria: The Osaka Kenko Innovation (TOKI) Study」。〔J Nephrol. 2025 Jul 13〕 原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 12

暑熱環境下や脱水が、長時間運動中の呼吸交換比、炭水化物酸化、グリコーゲン利用にどのような影響を及ぼすかを、システマティックレビューとメタ解析で検討した結果が報告された。暑熱環境では炭水化物の利用が高まるものの、脱水の影響は暑熱環境でのみ有意だという。

地球温暖化によるスポーツパフォーマンス低への対策

地球温暖化の影響により、暑熱環境でのスポーツ大会開催が増加している。暑熱環境では、炭水化物代謝が変化し、グリコーゲン利用の増大、炭水化物酸化の増加、乳酸の蓄積が生じ、これらはとくに持久系競技のパフォーマンス低下に関与すると考えられている。また、暑熱環境下での運動では脱水が起こりやすく、脱水もまたエネルギー基質の利用を変化させる可能性が示唆されている。

これらの影響について、今回取り上げる論文の研究背景に述べられているところによると、これまでに2報のナラティブレビュー論文が報告されているにとどまり、システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目(preferred reporting items for systematic reviews;PRISMA)に準拠したレビューは実施されていないという。これを背景として著者らは、PRISMAに則したシステマティックレビューとメタ解析によって、暑熱環境および脱水が、長時間運動中の炭水化物利用に及ぼす影響を検討した。

5件の研究報告を統合して暑熱と脱水の影響を検討

PubMed/MEDLINE、SportDiscusに2023年12月までに収載された論文を検索し、2024年11月に追加の論文の有無を確認した。包括条件は、暑熱や脱水、またはそれら両者が、長時間(15分以上)の持久運動中の呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用に及ぼす影響を、18歳以上の成人を対象として検討し、査読のあるジャーナルに掲載された英語による原著論文とした。ヒットした論文の参考文献もハンドサーチで検索した。論文発表の時期は制限しなかった。

一次検索で9,273報がヒットし、重複削除後に2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。251報を全文精査の対象として最終的に51件の研究報告を適格と判断した。

抽出された研究の特徴

51件の研究の参加者は合計502人(女性6%)で、2件の研究は女性のみを対象としていたほか、5件の研究に女性が含まれていた。暑熱環境の影響を検討した研究は29件(57%)で、脱水の影響を検討した研究は23件(45%)だった。また、脱水の影響を検討した研究のうち、11件(48%)は暑熱条件(34.9±3.9℃、相対湿度36.3±10.7%)で実施され、13件(57%)は温暖条件(20.6±5.9℃、相対湿度40.3±9.2%)で実施されていた。1件は、暑熱条件と温暖条件、および脱水条件と非脱水条件で検討されていた。

運動の負荷には自転車、ランニング、傾斜のあるトレッドミルなどが用いられていた。

脱水は暑熱環境下でのみ炭水化物利用に影響を及ぼす

暑熱負荷はRER上昇、炭水化物酸化亢進、グリコーゲン利用増加に関連

暑熱負荷のRERへの影響

暑熱環境が長時間運動中の呼吸交換比(RER)に及ぼす影響を検討した研究は23条件で実施されており、そのうち6条件で、暑熱負荷によりRERが有意に上昇することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷によりRERが有意に上昇することが示された(標準化平均差〈SMD〉=0.33〈0.16~0.50〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=27%)。

暑熱負荷の炭水化物の酸化への影響

暑熱環境が長時間運動中の炭水化物の酸化に及ぼす影響を検討した研究は21条件で実施されており、そのうち5条件で、暑熱負荷により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示された(SMD=0.29〈0.08~0.51〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=50%)。

暑熱負荷のグリコーゲン利用への影響

暑熱環境が長時間運動中のグリコーゲン利用に及ぼす影響を検討した研究は9条件で実施されており、そのうち5条件で、暑熱負荷によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されていた。メタ解析の結果、暑熱負荷によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示された(SMD=0.78〈0.22~1.34〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=71%)。

脱水による炭水化物利用への影響は暑熱負荷の有無で異なる

脱水のRERへの影響

脱水が長時間運動中のRERに及ぼす影響を検討した研究は24条件で実施されており、そのうち3条件で、脱水によりRERが有意に上昇することが示されていた。メタ解析の結果、脱水によりRERが有意に上昇することが示された(SMD=0.27〈0.12~0.42〉)。研究間の異質性は低かった(I2=13%)。

これを、暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えた場合には脱水によりRERが有意に上昇する一方(SMD=0.37〈0.10~0.64〉、I2=42%)、暑熱負荷を加えない場合は脱水によるRERの有意な上昇は認められなかった(SMD=0.21〈-0.00~0.43〉、I2=0%)。

脱水の炭水化物の酸化への影響

脱水が長時間運動中の炭水化物の酸化に及ぼす影響を検討した研究は17条件で実施されており、そのうち4条件で、脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示されていた。メタ解析の結果、脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進することが示された(SMD=0.31〈0.11~0.51〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=41%)。

これを、暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えた場合には脱水により炭水化物の酸化が有意に亢進する一方(SMD=0.37〈0.14~0.60〉、I2=17%)、暑熱負荷を加えない場合は脱水による炭水化物の酸化の有意な亢進は認められなかった(SMD=0.27〈-0.14~0.67〉、I2=59%)。

脱水のグリコーゲン利用への影響

脱水が長時間運動中のグリコーゲン利用に及ぼす影響を検討した研究は7条件で実施されており、そのうち2条件で、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されていた。メタ解析の結果、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示された(SMD=0.62〈0.22~1.03〉)。研究間の異質性は中等度だった(I2=48%)。

これを暑熱負荷の有無別にサブグループ解析した場合、暑熱負荷を加えるか否かにかかわらず、脱水によりグリコーゲン利用が有意に増加することが示されたが、暑熱負荷を加えた1条件の研究では、より大きな影響が認められた。具体的には、暑熱負荷を加えない場合がSMD=0.47(0.14~0.80)であるのに対して(I2=35%)、暑熱負荷を加えた1報の報告はSMD=1.62(0.49~2.75)だった。

暑熱下では脱水回避、非暑熱下では体幹温度を上げない戦略がグリコーゲン温存に働く

これらの結果は、以下の3点に整理される。

  • 呼吸交換比(RER)、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用で評価される炭水化物の利用は、暑熱環境では一貫して増加する。
  • 脱水は、RER、炭水化物の酸化、グリコーゲンの利用を増加させる。しかし、暑熱環境下とそうでない場合とで分けると、脱水は暑熱環境でのみ、RERと炭水化物の酸化を有意に増加させ、非暑熱環境では脱水による炭水化物利用への有意な影響は認められない。
  • これらの結果は、長時間の持久力運動中の暑熱曝露によって炭水化物の利用が亢進し、その一方で脱水の影響は非暑熱環境では明らかでないことを示唆している。

著者らはこのトピックに関する既報文献の考察を加えたうえで、「炭水化物の需要を増やす主な要因は、体幹温度の上昇、とくに筋温の上昇であると考えられる。これらの知見は、とくに暑熱環境でない場合、運動中の炭水化物利用を抑制するための最も重要な戦略が水分補給ではない可能性があることを示唆している。むしろ、長時間のランニングなど、水分摂取の可能性が限られる状況においては、体幹温度を管理するための冷却戦略を実施することが効果的である可能性がある」と結論付けている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effect of Heat Stress and Dehydration on Carbohydrate Use During Endurance Exercise: A Systematic Review and Meta-Analysis」。〔Sports Med. 2025 Aug 20〕 原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 13

経済的に困窮している人の生活の保障を目的とする生活保護において、高齢男性の利用者では食品多様性が乏しいことが明らかになった。神奈川県立保健福祉大学の研究グループの成果であり、「International Journal for Equity in Health」に論文が掲載されるとともに、日本老年学的評価研究のサイトにプレスリリースが発行された。

著者らは、この研究結果が、経済的支援だけでは日々の食生活の質、すなわち“食の豊かさ”を十分に支えきれていない可能性を示しているとしている。一方で、日常的に誰かと食事をする(=共食)習慣はすべての高齢者の食品多様性を高める傾向があり、特に生活保護利用者の共食習慣は経済的支援だけでは補えない“食の豊かさ”を支える手がかりとなることが示唆され、こうした結果は、高齢者が健康で尊厳ある生活を送るためには、経済的支援とあわせて、社会的関わりを育むなど孤食を防ぐための支援の重要性を示しているという。

食品多様性とは

野菜、果物、肉、魚、豆類など、さまざまな種類の食品が食事にとり入れられていること。食品多様性が高いと、栄養素の摂取や健康状態、生活の質が向上することなどが報告されている。

図1は、生活保護利用有無と「共食習慣」(毎日誰かと一緒に食べる習慣)有無別の食品多様性スコアを示している。

図1 生活保護利用有無と共食習慣有無別の食品多様性スコア

※年齢、独居、婚姻状況、教育歴、世帯収入、疾患(糖尿病、高脂血症、高血圧、がん、うつ病)、オーラルフレイルリスク、手段的日常生活動作(IADL)、歯の本数、義歯の使用、飲酒、喫煙で調整。

(出典:神奈川県立保健福祉大学)

男性では、共食習慣がない場合、生活保護を利用している人の食品多様性は非利用者よりも低く(p=0.04)、生活保護制度が“食の豊かさ”を十分に支えきれていないことが示された。一方、共食習慣のある男性では、生活保護の利用にかかわらず、食品多様性が比較的高く保たれている傾向があった(交互作用p=0.07)。女性ではこのような差はなかった。

これらの結果は、共食習慣をもつことが、生活保護利用者と非利用者の間にみられる食の豊かさの差を緩和できる可能性を示唆している。

研究の背景:高齢者の健康的な食生活に影響を及ぼし得る習慣とは

食品多様性が豊かであることは、健康で文化的な生活に欠かせない要素。しかし、経済的困窮は食習慣の悪化を招き、食品多様性を損なう要因となる。

日本の生活保護制度は、経済的に困窮する人に対し「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することを目的としているが、生活保護の利用が健康的な食生活を十分に保障できているのかは明らかではない。その一方で、「毎日誰かと食事をする(共食)」は健康的な食生活を保障できる可能性が国内の研究で指摘されてきた。

そこで本研究では、高齢者における生活保護の利用および共食習慣が高齢者の食品多様性に与える影響を検証した。

対象と方法:生活保護利用の有無、共食習慣の有無で食品多様性スコアを比較

日本老年学的評価研究のデータ(2022年)を用い、65歳以上の1万4,467人(男性7,353人、女性7,114人)を対象とした。食品多様性は食品多様性スコア(0~10点)で評価した。関係性を検討した項目は生活保護の利用有無および共食習慣(毎日誰かと食事をしているか)有無とし、一般線形モデルを用いて解析した。年齢、独居、婚姻状況、疾患などを調整し、生活保護利用と共食の交互作用を検討した。

結果:男性の生活保護利用者は食品多様性スコアが低いが共食習慣があると有意差なし

生活保護利用者は男女ともに非利用者より食品多様性スコアが低く、とくに男性でその差が顕著だった(3.5点 vs 1.9点、4.5点 vs 4.1点)。社会人口学的要因を調整した後も、生活保護利用男性は非利用男性に比べて食品多様性スコアが低く(調整後β=-0.72、p=0.04)、健康的な食生活が十分に保障されていなかった。それに対して女性利用者では、非利用者との差はなかった(p=0.66)。

一方で、共食習慣は男女ともに、食品多様性を高める要因となっていた。とくに生活保護を利用する男性ほどその効果は大きく、共食習慣により食品多様性が非利用者と同じ水準まで向上する可能性が示唆された。

結論:孤食を防ぐ支援が「健康で文化的な最低限度の生活」の実現に重要

生活保護を利用している高齢男性は、利用していない高齢男性に比べて、食品多様性が乏しいことが明らかとなったが、その差は共食習慣が緩和できる可能性がある。経済的な支援だけではなく、社会かかわりを育む孤食を防ぐための支援が、「健康で文化的な最低限度の生活」の実現に重要であることが示唆された。

著者らは、「本研究は生活保護利用者の食生活に関するエビデンスを提供し、福祉政策や地域支援に示唆を与えるもの」としている。

プレスリリース

所得の少ない高齢者の”食の豊かさ”を保障するには経済的支援だけでは不十分~共食習慣は生活保護利用者の食を豊かにできる可能性~(日本老年学的評価研究機構)

文献情報

原題のタイトルは、「Public assistance program and food diversity among older people: a cross-sectional study using the Japan Gerontological Evaluation Study data : Public assistance program and food diversity」。〔Int J Equity Health. 2025 May 12;24(1):134〕 原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 14

女性の更年期症状の現れやすさが、脂質食品を摂取するタイミングと関連しているとする研究結果が報告された。イタリアの過体重・肥満の閉経後女性を対象に行われた横断研究によるもので、著者らは更年期障害の栄養療法として時間栄養学の応用可能性を示すものとしている。

女性の更年期と時間栄養学

性ホルモン分泌の変化による女性の更年期は、体重増加、内臓脂肪蓄積、インスリン感受性低下、心血管代謝疾患リスク上昇などの変化をもたらしやすい。これらの変化が食習慣を含むライフスタイルにより修飾されることも知られている。

一方、多くの研究から食事摂取のタイミングが生体リズムに影響を及ぼし、疾患リスクにも影響を与える可能性が示唆されてきている。エネルギー産生栄養素の中でとくに脂質はホルモンバランスへの影響が大きいことが報告されており、また動物実験では脂質摂取の時間帯により概日リズムが変化することが示されている。

これらの知見から、更年期の女性、とくに過体重や肥満である心血管代謝リスクが高い閉経後女性では、脂質食品の摂取タイミングが更年期症状の出現に関係している可能性が想定される。しかしこれまでのところ、そのような視点で行われた研究の報告はみられない。

BMI25以上の閉経後女性100人の食事・栄養素摂取タイミングと更年期症状の関連を検討

この研究は、2023年にイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学の内分泌外来を受診した、過体重または肥満の閉経後女性全員を対象にスクリーニングを実施し、適格条件を満たし研究参加の同意を得られた患者を対象に実施された。適格条件は閉経後(月経が1年以上ない、または子宮摘出後)でBMI25以上であり、除外基準はホルモン療法やインスリン療法中の患者、慢性疾患(呼吸器、腎臓、肝臓、脳などの疾患)、重度のメンタルヘルス疾患、食品アレルギー、何らかの特定の食事スタイルを採用していることなどだった。

100人の閉経後女性がこれらの基準を満たし解析対象とされた。おもな特徴は、年齢57.2±7.3歳、BMI36.0±7.4で、23%が喫煙者、81%が運動不足であり、44%が脂質異常症、43%が高血圧、13%が2型糖尿病だった。

更年期症状の評価

更年期症状の有無と強さは、更年期障害評価尺度(Menopause Rating Scale;MRS)で評価した。MRSは11の症状について、それぞれ0~4点で回答してもらい、合計スコアは0~44点の範囲となる。

本研究参加者の平均スコアは22.7±7.8で、中等度以下(スコア12点以下)が9%、やや重度(marked)が10%、重度(severe)が81%だった。頻度の高い症状は、不安、性的問題、関節や筋肉の不快感(いずれも85%)、睡眠障害(81%)などだった。

食習慣の評価

食習慣は7日間の食事記録により把握したうえで、起床から昼食にかけて摂取したものを1日の前半の食事、昼食終了の間食から就寝にかけて摂取したものを1日の後半の食事と二分し評価した。

摂取エネルギー量は1,436.3±401.2kcalで、1日の前半に53.3±13.5%、後半に46.7±13.5%摂取していた。炭水化物は170.7 ± 69.2gで、1日の前半に60.2 ± 17.1%、後半に39.8 ± 17.1%摂取していた。タンパク質は64.3 ± 18.5gで、1日の前半に46.9 ± 19.4%、後半に53.1 ± 19.4%摂取していた。脂質は58.0 ± 21.2gで、1日の前半に48.9 ± 19.4%、後半に51.1 ± 17.9%摂取していた。

脂質を1日の後半に多く摂るBMI25以上の閉経後女性は心臓の不快感が強い

エネルギー量と脂質摂取量の多寡は全体の中央値に基づき分類した。

まず、夕食の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえで特徴を比較すると、年齢、初経・閉経年齢、BMI、閉経後の体重増加、運動習慣の有無、自然閉経/外科的閉経の割合、脂質異常症・高血圧・糖尿病の割合には有意差がなかった。評価した項目の中で唯一、喫煙率のみに有意差が認められ、夕食の摂取エネルギー量が多い群の喫煙率が高かった(10 vs 36%、p=0.002)。

1日の前半の摂取エネルギー量、脂質摂取量の多さは心臓の不快感の少なさと関連

次に1日の前半の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえで、更年期障害評価尺度(MRS)のスコアを比較すると、心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、摂取エネルギー量が少ない群のほうがその症状が強く認められた(1.5±1.3 vs 1.0±1.2、p=0.045)。その他の10項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

1日の前半の脂質摂取量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、やはり心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、脂質摂取量が少ない群のほうが強かった(1.5±1.3 vs 0.9±1.2、p=0.013)。一方、膀胱症状については、1日の前半の脂質摂取量が多い群で強く認められた(0.7±1.1 vs 1.2±1.3、p=0.040)。その他の9項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

1日の後半での脂質摂取量の多さは心臓の不快感の強さと関連

次に1日の後半の摂取エネルギー量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、有意差のある症状は特定されず、11項目合計のスコアも有意差がなかった。

1日の後半の脂質摂取量の多寡で二分したうえでMRSスコアを比較すると、心臓の不快感のスコアに有意差が認められ、脂質摂取量が多い群のほうが強かった(0.9±1.2 vs 1.6±1.3、p=0.007)。その他の10項目の症状、および11項目合計のスコアは、有意差がなかった。

脂質摂取のタイミングが心臓の不快感の強さと有意に相関

最後に、1日の前半の脂質摂取量(%)、および、1日の後半の脂質摂取量(%)と、心臓の不快感のスコアとの関連を検討。交絡因子未調整モデルで、1日の前半の脂質摂取量が多いほど心臓の不快感のスコアが低く、反対に1日の後半の脂質摂取量が多いほど心臓の不快感のスコアが高いという有意な関連が認められた。

年齢、BMI、総摂取エネルギー量を調整後にも同様の有意な関連が認められた(r=0.219、p=0.028〈1日の前半の脂質摂取量についてはr=-0.219〉)。

この結果に基づき著者らは「エネルギーと脂質を1日の後半に摂取する習慣は、過体重・肥満の閉経後女性における更年期症状の頻度や強さと関連していた。この食習慣は、これらの女性の心血管系の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。よって、エネルギーと脂質を1日の早い時間帯に摂取するという時間栄養行動を採用することが、過体重または肥満の閉経後女性に有益である可能性がある」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Timing matters: lipid intake and its influence on menopausal-related symptoms」。〔J Transl Med. 2025 Aug 18;23(1):934〕 原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 15

20~59歳の企業従業員の食事・運動習慣と、骨格筋量や体脂肪量との関連が報告された。骨格筋量は運動習慣やタンパク質摂取量との関連がみられる一方で、体脂肪量は脂質摂取量と年齢との関連が認められるという。千葉大学大学院医学研究院整形外科学の井上雅寛氏らが、健診受診者データを解析した結果であり、論文が「Cureus」に掲載された。

非高齢者の体組成を規定する因子はなにか?

加齢に伴い骨格筋量が減少する一方で体脂肪量は増加することが多く、前者はサルコペニア、後者は心血管代謝疾患のリスクを高め、さらに両者が併存するサルコペニア肥満では、転帰がより不良となりやすい。これまでに、十分なタンパク質の摂取と筋力トレーニングがサルコペニアの予防・改善につながり、適切なエネルギー量の摂取と有酸素運動が心血管代謝疾患の予防・改善につながることが示唆されている。

ただし、これらの知見の多くは高齢者を対象とする研究から得られたもので、若年成人のサルコペニアの有病率や体組成の関連因子は十分に検討されていない。また、非高齢者におけるそれらの加齢変化についても不明点が少なくない。

以上を背景として井上氏らは、非高齢者が多くを占める企業従業員の健診データを用いて、以下の横断研究を実施した。

解析対象と評価指標について

解析対象は、2023年に定期健康診断を受診した企業従業員3,156人(単一医療機関のデータ)のうち、年齢20~59歳で、疾患既往歴やデータ欠落がなく、インフォームドコンセントの得られた1,738人(平均年齢35.7±9.9歳、男性39.2%)。対象者の大半は日本人であり、職務はデスクワークや軽作業が多くを占めていた。

体組成は生体電気インピーダンス法により求めた、骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)と体脂肪指数(body fat mass index;BFMI)を指標とした。また、アジアサルコペニアワーキンググループの基準を用いて、SMIが男性は7.0未満、女性は5.7未満をサルコペニアと判定した。なお、SMIは四肢骨格筋量を身長の二乗で除した値、BFMIは体脂肪量を身長の二乗で除した値。

食習慣については、食品群別の摂取頻度を把握したうえで、過去1週間に摂取した食品群の多さを表す食事多様性スコア(dietary variety score;DVS)を算出して評価した。DVSのスコア範囲は0~10点で、本研究では0~2点を食事の多様性が低い、3~5点は中程度、6点以上は多様性が高いと判定した。

運動習慣については、「ほとんどしない」、「時々」、「ほぼ毎日」の三つに分類した。

加齢による体組成の変化の性差、運動習慣の体組成への影響が明らかに

解析は性別に行い、また加齢変化を見るために年齢を10歳単位で層別化し検討した。なお、平均年齢は男性・女性いずれも約36歳だった。

加齢により男性は体脂肪量が増加、女性は骨格筋量と体脂肪量の双方が増加

まず、体組成の全体的な傾向をみると、男性は女性より、BMI(23.0±3.1 vs 21.1±3.3)、SMI(8.37±0.76 vs 6.72±0.50)が高値であり、BFMIは女性のほうが高値だった(4.67±1.98 vs 6.13±2.63)。サルコペニア該当者は、男性2.8%、女性1.8%だった。

加齢に伴う変化に着目すると、男性のSMIは20代から50代にかけて有意な変化はみられなかった。それに対してBFMIは、20代4.17±1.84、30代4.75±2.04、40代4.96±2.03、50代4.95±1.70と、加齢に伴い上昇していた。

一方、女性はSMIが上記と同順に6.63±0.48、6.68±0.44、6.83±0.50、6.86±0.56、BFMIは5.81±2.31、6.01±2.49、6.20±2.66、7.09±3.35であり、ともに加齢に伴い上昇していた。つまり、加齢によって男性は体脂肪量の増加、女性は骨格筋量と体脂肪量の増加という体組成の変化が生じることが示唆された。なお、このような加齢変化とは別に、20代女性のサルコペニア該当者率が3.3%と顕著に高いことも明らかになった。

習慣的な運動の頻度は骨格筋量と関連するが、体脂肪量とは関連せず

次に運動習慣と体組成の関連をみると、男性・女性ともに、運動の頻度が高いほどSMIが高いという有意な関連が認められた。それに対して、体脂肪量については、男性・女性ともに有意な関連が認められなかった。

この結果について著者らは、「骨格筋量が運動により増大しやすいのに比べて、体脂肪量は運動以外にも食事などの影響を及ぼし得る因子が多いこと、および、本研究の対象者の大半がデスクワーク中心の労働者であったことが関係している可能性がある」と考察している。

食物摂取頻度は健康な若年成人の骨格筋量にも影響を与える可能性

魚介類、大豆製品、乳製品、脂質・油脂の摂取頻度が体組成に関連

続いて、食物摂取頻度と体組成との関連を単変量解析で検討すると、男性では魚介類、大豆製品の摂取頻度が低いことがSMI低値と関連し、女性では乳製品の摂取頻度が低いことがSMI低値と関連していた。また、男性・女性ともに、脂質食品・油脂の摂取頻度が低いことはBFMIの低さと関連していた。

女性は食事の多様性が高いほど骨格筋量が多い

食事多様性スコア(DVS)については、女性においてDVSが高い群ほどSMIが高いという有意な関連が認められた。つまり、食事の多様性が高い女性は骨格筋量が多かった。そのほか、女性におけるDVSとBFMIとの関連は有意でなく、男性においてDVSはSMIおよびBFMIの双方と関連がみられなかった。

前記の単変量解析で有意な関連が認められた食品群と、年齢、運動習慣を独立変数、SMIを従属変数とする重回帰分析の結果、男性では運動頻度の高さ(ほぼ毎日)がSMIの独立した正の関連因子として抽出された(β=0.25)。女性については、上記のようにDVSがSMIと有意な関連があったことから、DVSも独立変数に加えて解析した結果、年齢がSMIの独立した正の関連因子として抽出され(β=0.15)、運動頻度の低さ(ほとんどしない)は独立した負の関連因子として抽出された(β=-0.1)。

若年成人のサルコペニアリスクの経時的変化を探る研究が求められる

本研究により、比較的若年の健康な日本人成人において、2~3%がサルコペニアに該当する可能性のあること、運動習慣と食習慣は骨格筋量と有意に関連し、体脂肪量は年齢と脂質食品摂取量と関連していることが示された。

著者らは本研究が横断研究のため因果関係の考察は制限されること、単施設のデータであり対象者の大半がデスクワーク中心の業務であることなどを研究の限界点として挙げ、「労働年齢層を対象とした研究は限られている。今後は縦断的デザインの研究により、ライフスタイルが非高齢者のサルコペニアおよびサルコペニア肥満のリスクに及ぼす長期的な影響を評価する必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association of Exercise and Dietary Habits With Muscle and Fat Mass in Healthy Working-Age Adults: A Cross-Sectional Study」。〔Cureus. 2025 Jul 29;17(7):e89003〕 原文はこちら(Cureus)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 16

心血管疾患を有する成人が、暑熱環境下でも身体活動を継続しようとする際の推奨事項を、スコーピングレビューで検討した研究結果が報告された。論文の結論は、「現時点で心血管疾患を有する成人の暑熱環境下での身体活動に関する推奨事項は存在しない」というもので、著者らはこのギャップを埋める必要性を強調している。

地球温暖化が、運動療法が欠かせない人たちのその機会を奪っている

心血管疾患(cardio vascular disease;CVD)の一次予防や二次予防において、身体活動が重要であることは論をまたない。しかし、CVD予防のための身体活動を妨げる因子として近年、地球の温暖化の影響力が急速に増大している。暑熱環境での高体温は、心臓の負荷の上昇、発汗による脱水とそれによる熱中症リスク、および心血管イベントや急性腎障害のリスク上昇を招く。このことから最近では、多くの国の公的機関や医学関連団体が、暑熱環境では運動を控えるようアナウンスをしている。

しかし、それらのアナウンスの大半は、一般の人の熱中症リスク回避を目的とするものであり、CVD既往者に対する何らかの付加的な注意または推奨は含まれていない。その一方で、暑熱負荷による心血管イベントのリスクが上昇する体温の閾値は、熱中症のリスクが高まる閾値よりも低い可能性が指摘されている。例えば、冠動脈疾患を有する患者では、熱曝露による体幹温度がわずか0.5℃上昇するだけで、心筋虚血のリスクが上昇するというデータが報告されている。

これらを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、CVD既往者が暑い季節に身体活動を続けるための推奨に関する情報を、スコーピングレビューにより探索した。なお、スコーピングレビューとは、メタ解析などの詳細な検討をするほど十分な研究報告がない、比較的新しいトピックについて、全体像を把握するために行うレビューのこと。

レビューの手法

スコーピングレビューのガイドライン(PRISMA-ScR)に準拠し、MEDLINE、SPORTDiscus、Web of Science Core Collectionの各文献データベースに2024年1月26日までに収載された論文を対象として、「ガイドライン」「身体活動」「高温」などのキーワードで検索を実施。ヒットした文献の参考文献や灰色文献(学術的なジャーナルに正式に発表されていない文献)の検索も行った。

包括基準は、CVD既往のある18歳以上の成人の暑熱環境での身体活動について、身体活動を制限すべき気温、推奨事項を述べている、英語またはフランス語の文献とした。低酸素環境、暑熱馴化、妊婦に関する報告は除外した。

特定した文献の特徴

一次検索で467報がヒットし、重複削除後に3名の研究者がタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は4人目の研究者との討議により解決した。70報に絞り込み全文精査を行い、最終的に32報を適格と判断した。

32報中15報は、政府の報告書、政策ガイドライン/意見表明などの灰色文献や書籍、専門家の見解/レビューなどだった。全体の59%は北米、22%がオーストラリア発の報告で、欧州とアジア(うち2報は日本)が各9%を占めていた。最も古い報告は1975年であり、2015年以降は毎年1報以上の報告がなされていて、2019~21年には3年間連続で3報が報告されていた。

心血管疾患のある人が安全に身体活動を継続するための推奨事項の策定が必要

32報中24報(75%)の報告は、身体活動を制限すべき温度の閾値を報告していた。また、78%は暑い日の身体活動に特化した内容で、残りの22%は暑い日の日常生活の一般的な推奨事項の一つとして身体活動を取り上げていた

触れられている内容は暑熱に関する事故の予防が最多であり(100%)、症状/有害事象(81%)、暑熱関連の健康リスク因子(56%)、治療法(53%)が続いていた。症状/有害事象について説明している26の報告を詳しくみると、熱中症についてはすべて(100%)が扱っており、その他、熱疲労(92%)、熱けいれん(50%)が頻繁に言及されていた。

CVD既往者の暑熱環境での安全な身体活動のための推奨を述べた報告はない

その一方で、暑熱環境での身体活動に関連する可能性のある健康リスクとして、心血管イベントに言及している報告はみられなかった(0%)。ただ、20報(63%)の報告では、暑い天候での身体活動中または活動後に、特定の集団では健康リスクが高まると述べており、そのうち12報はCVD既往者をそのリスク因子保有者として挙げていた。しかし、それらの報告のいずれも、CVD既往者が暑い時期に安全な身体活動を続けることに特化した推奨事項は示していなかった。

なお、熱中症による健康問題を予防するための最も多く挙げられた推奨事項としては、身体活動を中止するか涼しい時間帯に変更して行うこと(94%)と、十分な水分補給(84%)が挙げられる。

これらのレビューに基づき、論文の結論は以下のように総括されている。

「暑熱期における身体活動に関する既存の推奨事項には、心血管疾患を抱える成人のための具体的な指針が欠けている。既存のガイドラインは、主に運動や職業における労作性熱中症のリスクを最小限に抑えることに重点を置いており、ほとんどの推奨事項は専門家以外が容易に実施できるものではない。今回のレビューは、気候の温暖化が進む状況においても、心血管疾患を抱える成人が安全に身体活動を継続できるよう、実用的な推奨事項を策定することの必要性を浮き彫りにしている」。

文献情報

原題のタイトルは、「A scoping review of recommendations for adults with cardiovascular disease to remain physically active during hot weather」。〔Eur J Prev Cardiol. 2025 Aug 19:zwaf519〕 原文はこちら(Oxford University Press)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 17

消費者庁は、令和7年度「食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量報告書」を公表した。それによると、日本国内で発生している食品ロスによる経済的な損失は年間約4.0兆円にのぼり、国民一人あたりに換算すると31,814円を余分に負担している計算になる。

また、食品ロスに伴って排出される温室効果ガスは年間1,050万トン(CO2換算)で、一人あたり約84kgにあたる。これは家庭で使用される冷房による排出量よりも多く、日常生活に直結するインパクトの大きさが浮き彫りになった。

食品ロスの現状

令和5年度の日本の食品ロス量は年間464万トン。このうち、家庭からの食品ロスは233万トンと約半分を占める。その他、食品製造業:108万トン、食品小売業:48万トン、外食産業:66万トンなど、あらゆる分野で食品が無駄になっている。

政府は、食品ロス削減の基本方針の中で「国民各層がこの問題を『他人事』ではなく『我が事』として捉え、『理解』するだけにとどまらず『行動』に移すことが必要」と強調している。食品ロスの削減に向けた消費者一人ひとりの行動変容が求められている。

今回の報告書では「経済損失」や「温室効果ガス排出量」といった、生活者により身近に感じられる指標を用いることで、意識と行動の変化を促す狙いがある。

経済損失と環境負荷の意味

本調査で推計する「経済損失」および「温室効果ガス排出量」は、以下のような定義・評価範囲を想定する。

経済損失

食品の生産・流通等に伴って発生する経済的価値全体に対して、食品ロスの発生割合を乗じたもの。経済的価値は、「食品自体の価格」に加え、流通過程で発生する「商業マージン」「貨物運賃」を加えたもの。つまり、廃棄されてしまう食品の入手のために、家庭等の各部門が余分に負担してしまっている金額を指す。

食品ロスによる経済損失の推計結果

食品ロスによる経済損失の合計は4.0兆円、国民一人あたりでは3万1,814円となった(図1)。

図1 食品ロスによる経済損失の推計値の記載イメージ

4.0兆円の経済損失は、令和5年の農業・食料関連産業の市場規模と比較すると、農林漁業の13.3兆円の3分の1弱の規模となる。 経済損失は世帯あたりでは年間6.5万円となり、世帯当たりの年間家計支出と比較すると、水道代の4.9万円よりも大きな金額である。

(出典:消費者庁)

温室効果ガス排出量(GHG排出量)

食品の生産・流通等に伴って発生するGHG排出量全体に対して、食品ロスの発生割合を乗じたもの。GHG排出量の評価範囲は、食品の一連の生産プロセスにおける排出量である。つまり、廃棄されてしまう食品のために、生産・流通する過程で余分に生じてしまっているGHG排出量を指す(家庭系食品ロスが廃棄・処分される際に直接排出されるGHG排出量は含まれない)。

食品ロスによる温室効果ガス排出量の推計結果

食品ロスによる温室効果ガス排出量の合計は1,050万t-CO2、国民一人あたりでは84kg-CO2となった(図2)。

図2 食品ロスによる温室効果ガス排出量の推計値の記載イメージ

1,050万トンの温室効果ガス排出は、令和5年の家庭の用途別CO2排出量と比較すると、暖房用の2,870万トンに次いで大きな規模である

(出典:消費者庁)

一人ひとりにできること

報告書は、食品ロス削減に向けて消費者の「行動変容」が不可欠だと指摘している。たとえば、買いすぎを避ける、食材を使い切る、外食で食べきれない分を持ち帰るといった日常の工夫が、家計の節約だけでなく、地球温暖化防止にもつながる。

食品ロス問題は、家計と環境の両面に影響を及ぼす大きな課題である。消費者庁は、今回の報告書を活用して普及啓発を進めていく方針である。

関連資料ダウンロード

消費者庁「令和7年度 食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量に関する調査業務調査報告書」

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 18

生後6カ月までに体重が多く増加していても、将来において肥満(BMI25以上)になる割合は増加しないことを示すデータが報告された。国立成育医療研究センターの研究グループの成果であり、「Journal of Developmental Origins of Health and Disease」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが発行された。

研究の概要:生後6カ月の体重増加は成人後の肥満と関連がない

国立成育医療研究センターの研究グループは、母子健康手帳の情報を用いたコホート研究により、「乳児期の体重増加」が「成人期の肥満」の割合にどのような影響を与えるのかについて検討した。その結果、生後6カ月までに体重が多く増加していても、将来において肥満(BMI≧25)になる割合が増加しないことを明らかにした。一方で、成人期における‘やせ’(BMI<18.5)の割合は低下していた(図1〜図4)。18.5)の割合は低下していた(

図1 出生体重別から見た「やせ」・「肥満」の割合

(出典:国立成育医療研究センター)

図2 生後3カ月までの体重増加から見た「やせ」・「肥満」の割合

(出典:国立成育医療研究センター)

図3 生後1カ月までの体重増加から見た「やせ」・「肥満」の割合

(出典:国立成育医療研究センター)

図4 生後6カ月までの体重増加から見た「やせ」・「肥満」の割合

(出典:国立成育医療研究センター)

母子健康手帳に掲載されている成長曲線よりも多く体重が増えていると、将来肥満になるかもしれないと不安に思う保護者は多いかもしれないが、体重増加だけを理由に授乳量を制限しなくてもよい可能性が示唆された。

本研究は、同センターを受診した1,441人の妊婦を対象としている。その妊婦が赤ちゃんだった頃(過去)の体重増加を当時の母子健康手帳に記録されたデータから調べ、出生から生後6カ月までの体重増加と、妊娠前(現在)のBMIを比較し、分析した。

明らかになった主なポイントは以下のとおり。

研究のポイント

  • 乳児期に体重が多く増加しても、成人期に肥満になる割合は上昇していない。生後6カ月時点で体重増加が大きかった上位20%の群(5,230~7,700g)でも、妊娠前の肥満との関連はない。
  • 一方で、乳児期に体重が多く増加すると、成人期のやせの割合は低下。生後6カ月の時点で体重増加が大きかった上位20%の群(5,230~7,700g)では、妊娠前にやせになる割合が低下していた。十分な体重増加が、将来のやせを予防する可能性が示唆された。
  • ただし、生後1・3カ月時点での体重増加量は、妊娠前の肥満・やせの割合に関連がなかった。
  • 授乳や栄養摂取が適正かどうかを判断する際、乳児期の体重増加量だけを根拠に、安易に授乳量の制限をすべきではない可能性が示唆された。
  • 母子健康手帳に記載されている成長曲線は、赤ちゃんの発育を評価するための目安。必ずそのとおりに発育していないといけないわけではなく、乳幼児健診で医師や保健師などに見てもらうべき。

研究の背景と目的:日本人女性の乳児期の体重変化は成長後の体重に影響するのか

成人期の肥満・やせは、心血管疾患や妊娠合併症などの将来的な健康リスクと関連することが知られている。さらに妊娠前の肥満・やせは、母体のみならず子どもの予後にも影響を与えることが知られている。これは「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」という、発育初期の栄養環境が将来の健康に影響を及ぼすとされる概念に基づいている。

DoHADは、胎児期に母体から供給される栄養の不足や過剰が、子どもにどのような影響を及ぼすのかを長期的に検討する考え方で、近年ではこの概念が拡大し、出生後~乳幼児期(1~2歳)までの体重増加量と、その後の肥満・やせとの関連にも関心が寄せられている。

これまで、日本人女性を対象に出生直後から乳児期早期(生後1~6カ月)の体重増加量と成人期の体重との関連に着目した研究はなかった。そこで今回の研究では、母子健康手帳に記載されているデータを利用して、出生体重や乳児期の体重増加量が成人期の肥満・やせに与える影響を調査した。

研究の方法:妊婦の母子健康手帳に記録されていた体重と現在の体重の関係を検討

2017年4月~2021年12月に同センターへ通院し、研究参加と母子健康手帳のデータ提供に同意した1,501人のうち、妊娠前体重データがそろっていた1,441人を対象とした。対象者には、出生体重、生後1・3・6カ月の体重、授乳方法などの情報が記載された自身の母子健康手帳を持参してもらい、データを収集した。

生後1・3・6カ月時の体重増加量を5カテゴリーに分類(人数で均等割)し、妊娠前の体重から、それぞれのカテゴリーの中で「やせ」と「肥満」になった人の割合を算出。乳児期の体重増加量と「やせ」「肥満」との関連を解析した(図5)。

図5 研究対象とした情報

(出典:国立成育医療研究センター)

研究者コメント:乳児期の体重増加に基づく授乳・栄養の制限は慎重に

研究者らは、今回の研究結果について以下のように述べている。

「赤ちゃんの体重が大きく増えると『将来肥満になるのでは』と、ミルクをこのままの量であげていいのか心配なる母親もいるかもしれない。しかし今回の研究から、乳児期の体重増加が多くても将来の肥満の割合は上昇せず、むしろやせの割合は低下する可能性があることが明らかになった。乳児期の栄養環境は将来にわたって影響する。成長曲線のグラフの範囲よりも多く体重が増えているからといって、授乳や栄養摂取について安易に制限するのは慎重であるべきと考える」。

関連情報

「乳児期」の体重増加は「成人期」の肥満に影響しない可能性 ~妊婦本人の母子健康手帳を用いた研究で解明~ 乳児期の体重増加に基づく授乳・栄養の制限は慎重に(国立成育医療研究センター)

文献情報

原題のタイトルは、「Association between women’s weight gain during their infancy and being overweight or underweight in adulthood: a retrospective cohort study」。〔J Dev Orig Health Dis. 2025 Sep 1:16:e36〕 原文はこちら(Cambridge University Press)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 19

ごく短時間の高強度運動を積み重ねることで、効率よく運動の効果を高める、いわゆる「エクササイズスナック」の心血管代謝リスクに対する有効性のシステマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。VO2maxや最大パワーが上昇し、コレステロールの有意な低下が認められるという。

エクササイズスナックは、運動継続のハードル「時間がない」を解決するか?

現在、世界の成人の4人に1人が推奨される身体活動量を満たしていないと報告されており、それが種々の慢性疾患の蔓延と関連していることが指摘されている。保健指導で運動を推奨した際に、介入対象者から「運動をする時間がない」と言われることは少なくなく、短時間で運動効果を高める“タイパ”の良い運動療法が必要とされている。

そのような運動の進め方の一つとして近年、ごく短時間の高強度運動を繰り返す「エクササイズスナック(exercise snacks;ExSn)」といわれる方法が普及してきている。ExSnでは一般的に1~2分、長い場合は10分程度の速歩に代表される有酸素運動、筋力トレーニング、バランス体操などを意図的に行う。これにより時間的な制約を受けることが少なく、運動を継続しやすくなる。ExSnと同様に、日常生活の中で例えば階段を上るなどの身体活動を随時行うという方法も近年提案されることが多いが、両者は運動を計画的に行うか否かという点で区別される。

ExSnについてはすでにスコーピングレビューが実施され、有効性が総括されている。ただし、エビデンスレベルの高い研究手法とされるシステマティックレビューはまだ実施されていない。これを背景として今回取り上げる論文の著者らは、システマティックレビューとメタ解析により、ExSnの有効性を検討した。

RCT12件、非RCT2件のデータを統合して解析

PRISMAガイドラインに準拠し、PubMed、Web of Science、Embase、CINAHL、Scopusなど6種類の文献データベースを用いて、それぞれのスタートから2025年5月22日までに収載された論文を対象とする検索を行った。包括条件は、18歳以上の健康な成人を対象として、エクササイズスナック(ExSn)による介入効果を、通常の生活習慣を続ける条件を対照として検証した、無作為化比較試験(RCT)または非無作為化比較試験であり、英語で執筆されている論文。ExSnは、身体活動量の増加と健康の増進を目的とするものであり、一般的には1~2分だが最長10分までと定義した。

一次検索で5,539報がヒットし、重複削除後の3,802報を2名の研究者が独立してタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。72報を全文精査の対象として、最終的に14報(RCTが12件、非RCTが2件)を適格と判断し、このうち13件の研究データをメタ解析の対象とした。

13件の研究の合計参加者数は483人で、介入期間は4~12週間、1回のExSnは2分以内が8件でその他は2分を超えていた。運動の種類としては、スプリントサイクルが5件、階段昇降が6件、筋力トレーニングが3件だった。

エクササイズスナックは、とくに運動習慣のない人の心肺機能などに有益

心肺機能への影響

エクササイズスナック(ExSn)によるVO2maxへの影響は、10件(合計参加者数378人)で検討されていた。メタ解析の結果、ExSnによるVO2maxへの有意な影響は認められなかった(標準化平均差〈SMD〉=0.91〈95%CI;-0.95~2.78〉、p=0.336、I2=87.3%)。ただし、バイアスリスクが高いと判定された1件の研究を除外した356人を対象としてメタ解析を行った結果、ExSnはVO2maxを有意に向上することが示された(SMD=1.43〈0.61〜2.25〉、p<0.001、i2=76.6%)。<>

ExSnによるピークパワーへの影響のメタ解析には、エビデンスの確実性が中等度以上と判定された5件(119人)のデータが用いられ、ExSnはピークパワーを有意に向上することが示された(SMD=0.68〈0.00~1.36〉、p=0.050、I2=65.7%)。サブグループ解析からは、日常の身体活動が少なく、かつ1回のExSnの持続時間が2分を超える場合においてのみ、ピークパワーを有意に向上させていた。

脂質プロファイルへの影響

ExSnによる総コレステロールへの影響は4件(89人)で検討されており、メタ解析の結果、有意な低下が示された(SMD=-0.65〈-1.18~-0.11〉、p=0.018、I2=28.3%)。また、3件の研究ではLDL-Cへの影響が検討されており、有意な低下が示された(SMD=-0.65〈-1.22~-0.09〉、p=0.023、I2=6.4%)。

HDL-Cやトリグリセライドに関しては、有意な影響は認められなかった。

このほかに、体重や体脂肪率についてもメタ解析が行われたが、ExSnの有意な影響は観察されなかった。

著者らは、メタ解析の対象となった研究間の異質性が高い傾向があること、バイアスリスクの高い研究が含まれていたことなどを限界点として挙げたうえで、「運動不足の成人において、心血管代謝の健康増進を目的としExSnを日常生活に取り入れることの有効性を裏付ける、有望なエビデンスが得られた」と結論づけている。また、今後の研究の方向性として、「ExSnの長期的な効果の検証、および、運動の最適な時間と頻度の探索が求められる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Exercise Snacks on Cardiometabolic Health and Body Composition in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis」。〔Scand J Med Sci Sports. 2025 Aug;35(8):e70114〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部

0.001、i2=76.6%)。<>

Page 20

平均年齢17.6歳の女子アスリートに対して管理栄養士による対面でのグループセッションとして行った栄養教育の結果、栄養に関する知識が有意に向上し、介入から3カ月後も維持されていたとする研究結果がスペインから報告された。著者らは、「資格を有する専門家による教育介入の重要性が裏付けられた」としている。

未成年アスリートが栄養の専門家へアクセス可能な機会は限られている

女性アスリートは生理学的特性が男性と異なることはもちろんのこと、若年者では成長や発達の過程にも性差がある。また、女性アスリートは押しなべて摂取エネルギー量、とくに炭水化物の摂取量が少ないことなど、しばしば指摘される。

これらの栄養上の課題が解決されずに存在している理由の一つとして、栄養の専門家の助言を受けることのできる機会が不足していることが考えられる。その結果、家族やコーチ、アスリート仲間、インターネットなどの、非専門家からの情報に頼らざるを得ないことが少なくない。

このような状況を背景として、今回紹介する論文の著者らは、栄養の専門家による教育介入によって、若年の女性アスリートのスポーツ栄養の知識を高められ、食事摂取量にも好ましい影響が生じるのではないかと仮定し、以下のパイロット研究を行った。なお、栄養素摂取の適切さは、地中海食の遵守の程度で判断した。地中海食に関しては一般住民の健康に対するエビデンスが豊富だが、著者らは、アスリートにとっても回復の促進、炎症の抑制、トレーニング適応のサポートなどの点での有用性が示されているとしている。

スペインのハイパフォーマンスセンターなどのアスリートを対象に教育介入

この研究は、スペインのハイパフォーマンスセンター、およびカタルーニャ州(州都はバルセロナ)にあるスポーツクラブから参加者を募集した。適格条件は、14~24歳の女子アスリートで、所属クラブでのトレーニング歴が1年以上あり、1日1.5時間、週3日以上のトレーニングを行っていることとし、除外条件として摂食障害の既往、食事療法を必要とする疾患の罹患、妊娠とされていた。

当初52人が登録されたが、適格条件の不適合およびデータ欠落等により、解析対象は45人となった。年齢は17.6±2.1(範囲14~23)歳で、19人(42.2%)がハイパフォーマンスセンター、26人(57.8%)がスポーツクラブのアスリートだった。

栄養教育の方法と介入効果などの評価法

栄養教育は、まず60分間の面接を行い、栄養に関する関心の程度や食習慣について聞き取り調査を実施。その後、1回15分、週2回のグループ単位での対面セッションによる栄養教育を3週間にわたり計6回実施した。その内容は、1. 健康と地中海食についての基礎、2. エネルギーと炭水化物の必要量、3. タンパク質と脂質の必要量、4. 微量栄養素、5. 水分補給、6. サプリメントと周期性(periodicity)という6項目。

栄養知識の評価には、精度検証済みのアスリート対象の質問票(Knowledge Questionnaire for Young and Adult Athletes;NUKYA)を用いた。NUKYAは主要栄養素、微量栄養素、水分補給、ピリオダイゼーション(期分け)について、100点満点で評価する。本研究では、介入前、介入終了直後、および介入終了の3カ月後のフォローアップ調査という3時点で評価した。

地中海食の遵守状況には、16項目からなるKidmed indexを用いた。実際の食事・栄養素摂取状況は、介入前とフォローアップ中に計2回、それぞれ3日間(連続でない平日2日と試合日の1日)、写真とモバイルアプリを用いた食事記録をとることで評価した。

これらのほかに、摂食態度テスト(Eating Attitudes Test-26;EAT-26)、体型質問票(Body Shape Questionnaire;BSQ)を使用した。

スポーツ栄養の知識が有意に向上するも、摂取量は変化に乏しく、体組成は変化なし

EAT-26の平均は5.8±7.2であり、2人(4.4%)は20点以上で摂食障害のリスクが検出された。BSQは30.0±12.2で、9人(20.0%)は自身のボディーイメージや体重に強い不満をもっていた。

スポーツ栄養の知識(NUKYA)は、介入前が21.1±16.1、介入直後が43.1±16.3、3カ月後が41.4±16.5であり、介入後の2時点はいずれも介入前よりも有意に高値であり、効果量も1.2と大きかった。また、主要栄養素、微量栄養素、水分補給、ピリオダイゼーションという4領域のスコアの推移を個別に検討しても、いずれも有意な上昇が認められた。

地中海食の遵守状況(Kidmed index)は、介入前が5.8±2.0、フォローアップ時が6.1±1.7とやや上昇していたが、有意でなかった。

栄養素摂取量に関しては、エネルギー量、収容栄養素摂取量には有意な変化がなく、食物繊維と多価不飽和脂肪酸の摂取量は有意に減少していた。微量栄養素に関してはビタミンEの摂取量が有意に減少していた。

このほかに、糖を多く含む食品の摂取量が、21.3±26.5g/日から13.0±9.5g/日へと有意に減少していた。この点に関して著者らは、質の高い炭水化物を摂取するような変化が生じたのではないかと考察している。体組成には有意な変化がみられなかった。

これらの結果に基づき論文の結論は、「栄養教育介入により、アスリートの栄養知識が有意に向上し、また糖質の多い食品の摂取量が有意に減少するという変化が認められた。しかし、食事摂取量と体組成への影響​​を評価するにはさらなる研究が必要と言える」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of a Nutritional Education Intervention on Sports Nutrition Knowledge, Dietary Intake, and Body Composition in Female Athletes: A Pilot Study」。〔Nutrients. 2025 Aug 5;17(15):2560〕 原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 21

加齢によって、骨格筋の量よりも、筋力や「骨格筋の質」がより速いスピードで衰えていき、特にその変化は下肢で顕著にみられる可能性あるとする研究結果が報告された。京都府亀岡市で行われた地域在住高齢者対象疫学研究「亀岡スタディ」のデータを解析した結果であり、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所および京都先端科学大学(現:東北大学大学院医工学研究科スポーツ健康科学分野)の山田陽介氏、筑波大学体育学系の浅野優次郎氏らによる論文が「Experimental Gerontology」に掲載された。

加齢による身体機能の低下を最も早く予測し得る指標はなにか?

人口の高齢化により、身体機能の低下をより早期に検出して介入することが、重要な公衆衛生上の課題となっている。これまでの研究から、筋力や身体機能の低下速度は筋量の低下速度よりも速いことが知られており、その一因として「骨格筋の質」の低下が関与している可能性が考えられている。これを背景に、サルコペニアの診断項目に、骨格筋の質に関する指標を追加すべきとする提案もなされている。

骨格筋の質の評価法はまだ標準化されていないが、非侵襲で施行可能な生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)やその分光法(bioelectrical impedance spectroscopy;BIS)による位相角(phase angle;PhA)や細胞外/細胞内水分比(extracellular/intracellular water ratio ; ECW/ICW)、または超音波検査でのエコー強度などが、簡便かつ実用的な指標として用いられるようになってきている。ただし、それらの指標が加齢によりどのように変化するのか、測定部位による違いや性差はあるのかといったことは、いまだ不明点が多く残されている。

浅野氏らはこれらについて、亀岡スタディ参加者のデータを横断的に解析し検討した。

筋量・筋力・筋肉の質・身体機能は、すべて加齢とともに低下

亀岡スタディは、亀岡市に居住する65歳以上の高齢者を対象とするコホート研究であり、本研究では要介護認定を受けておらずデータ欠落のない1,370人(73.0±5.6歳、男性49.0%、BMI22.5±2.8)を解析対象とした。

評価項目と対象者の特徴

筋量

筋量は生体電気インピーダンス分光法(BIS)による四肢除脂肪量指数(ALMI)と超音波検査による大腿筋厚(MT)で評価した。本研究参加者のALMIは男性、女性の順に7.9、6.6kg/m2、MTは4.4、4.0cmであった。

筋力

筋力は握力(HG)と膝伸展力(KES)で評価した。本研究参加者のHGは33.7、21.4kg、KESは326.2、200.3Nであった。

機能的な骨格筋の質

機能的な骨格筋の質の評価には、握力を四肢除脂肪量で除した値(HG/ALM)、膝伸展力を大腿筋厚で除した値(KES/MT)を用いた。本研究参加者のHG/ALMは1.6、1.4kg/kg、KES/MTは74.4、51.0N/cmであった。

形態的な骨格筋の質

形態的な骨格筋の質の評価には、全身および大腿の位相角(PhA)、大腿のエコー強度、大腿の細胞外/細胞内水分比(ECW/ICW)などを用いた。本研究参加者の全身PhAは5.2、4.6°、大腿PhAは5.6、4.7°、エコー強度は20.8、25.8au、ECW/ICWは0.40、0.34であった。

身体機能

身体機能は、椅子立ち上がりテスト(5回)、タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト(TUG)、6m最大歩行速度、垂直跳び指数(記録に体重を乗じた値)で評価した。本研究参加者の椅子立ち上がりテストは男性・女性ともに8.6秒、TUGは7.2、7.5秒、6m歩行に要した時間は3.3、3.5秒、垂直跳び指数は1,558.7、926.3であった。

いくつかの指標は、より高齢になるとより急速に低下する

各評価指標と年齢との関連を検討した結果、すべての指標について、高齢であるほど低下しているという有意な相関が認められた。

また、65~74歳と75~90歳とに層別化して比較すると、複数の指標で有意な交互作用が認められた。具体的には、男性の椅子立ち上がりテスト、大腿エコー強度、女性のHG/ALM、大腿PhA、および性別にかかわらずECW/ICWは、いずれも74歳以下よりも75歳以上でより急速に変化していた。

一方で男性のKES/MTについては、74歳以下のほうが急速に低下することが示された。

骨格筋の質は筋量よりも早く低下する

次に、加齢に伴う指標ごとの変化の速度を比較するために、各指標の65歳時点の平均値を100%として標準化したうえで、1歳高齢であるごとに何%変化するかを推定した。その結果、以下に示すように、筋量よりも筋力、形態的な骨格筋の質(とくに下肢の筋肉)、身体機能の低下が速い可能性が明らかになった。

筋量

ALMIは1歳高齢であるごとに、男性は-0.8%、女性は-0.6%、MTは-0.9%、-1.1%の変化。

筋力

HGは-1.4%、-1.4%、KESは-2.0%、-2.1%の変化。

機能的な骨格筋の質

HG/ALMは1歳高齢であるごとに-0.4%、-0.3%、KES/MTは男性・女性ともに-1.3%の変化。

形態的な骨格筋の質

全身PhAは-1.2%、-1.0%、大腿PhAは-1.5%、-1.4%、エコー強度は1.2%、0.5%、大腿ECW/ICWは2.2%、1.9%の変化。

身体機能

椅子立ち上がりテストは1歳高齢であるごとに1.9%、2.0%、TUGは2.0%、2.4%、最大歩行速度(要した時間)は1.4%、1.8%、垂直跳び指数は―2.8%、―3.0%の変化。

身体機能低下リスクの早期検出のため、下肢の骨格筋の質の評価を

著者らは本研究の限界点として、横断研究であり実際の加齢変化を検討したものでないこと、自力で研究に参加できるような健常な高齢者のみを対象としておりサンプリングバイアスの影響を否定できないことなどを挙げたうえで、「加齢に伴う下肢の筋力・骨格筋の質の低下は、上肢よりも速い可能性がある。また、筋力、身体能力、および骨格筋の質の低下は、筋量の低下よりも急速と考えられる。さらに、骨格筋の質の低下によって、筋量の減少と筋力や身体能力の低下との間の存在するギャップの一部を説明できる可能性がある」と総括している。

また、これら一連の結果に基づき、「機能低下リスクがある高齢者を早期に抽出するには、筋量だけでなく、とくに下肢の骨格筋の質を評価することが重要ではないか」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sex- and age-related declines in muscle mass, strength, physical performance, and muscle quality among community-dwelling older adults: A cross-sectional study」。〔Exp Gerontol. 2025 Aug 14:210:112862〕 原文はこちら(Elsevier)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 22

12~24歳という思春期および若年成人において、早食いという食習慣がメンタルヘルスの悪化と関連のあることが報告された。また、身体活動の習慣がないことも早食いに関連しているという。長崎大学大学院医歯薬学総合研究科発達育成歯科学分野の藤田優子氏、タケシマデンタルオフィス(沖縄県)の竹島朋宏氏の研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

早食いは身体疾患だけでなく、メンタルヘルスにも関連がある?

近年、早食いが肥満や2型糖尿病などの身体疾患のリスクの高さと関連していることが注目され、保健指導においても摂食速度に関するアドバイスの重要性が増している。また、過食あるいは感情的摂食などの食行動の乱れが、メンタルヘルス状態の悪化と関連していることも知られている。ただ、早食いも食行動の乱れの一つとして捉えることもできるが、早食いとメンタルヘルスとの関連については、これまでのところ十分に検討されていない。

摂食速度は若年期までに身に付き、それ以降は変化が乏しいと報告されている。仮に、早食いがメンタルヘルスと関連しているとしたら、その影響は生涯にわたる可能性もある。これらを背景として藤田氏らは、国内の思春期および若年成人を対象とする横断研究を実施し、その関連の有無を検討した。

思春期・若年成人を対象に、客観的に評価した早食いとGHQ-12スコアとの関連を検討

この研究の参加者は、九州歯科大学附属病院の2023年5月~2024年3月の受診者のうち、咀嚼の妨げとなる口腔疾患等がなく、全身状態が良好な12~24歳の初診患者から募集した。事前の統計学的検討に基づき、このトピックの分析に必要なサンプルサイズとして計算された106人から、研究参加の同意を得た。すべて学校や大学の生徒・学生だった。

グミの咀嚼を利用して早食いか否かを客観的に判定

従来の研究の大半は、「人と比較して食べる速度が速いですか?」といった質問に対する回答に基づき、早食いか否かを判定している。しかし、このような自己申告は信頼性が十分でない可能性がある。そこで本研究では、以下の手法により客観的に摂食速度を評価した。

その手法とは、グルコースを含むグミゼリーを咀嚼してもらい、嚥下したいと思った時点でグミと唾液を排出させ、唾液中のグルコース濃度を測定するというもの。その濃度が低いほど、よく噛まずに飲み込もうとしている(嚥下の閾値が低い)ことを意味する。本研究では、グルコース濃度が参加者全体の下位20%以下に該当する23人を「早食い」と判定した。なお、この測定値は標準化された指標ではなく探索的な評価法であることを、著者らは留意点として挙げている。

この唾液中のグルコース濃度以外の口腔機能関連指標として、DMFT指数(健康でない歯の本数〈虫歯や何らかの処置がされている歯、抜けた歯の本数〉)、咬合力、咀嚼回数、咀嚼時間などを評価した。

メンタルヘルスはGHQ-12で判定

メンタルヘルス状態は、12項目からなる一般健康質問票(12-item General Health Questionnaire;GHQ-12)で評価し、0~3点を良好、4~12点は不良と判定。本研究参加者のうち17人(16%)がメンタルヘルス不良に該当した。

これらのほかに、BMI、朝食欠食習慣、間食摂取習慣、身体活動習慣、睡眠の質などを自己申告に基づき把握した。

メンタルヘルス不良と運動不足が早食いと独立して関連

早食いと判定された群(23人)と非早食い群(83人)で比較すると、平均年齢、性別の分布、BMIカテゴリーの分布、朝食欠食習慣のある割合については有意差がなかった。しかし、GHQ-12に基づくメンタルヘルス不良の該当者の割合が、前者は39.1%、後者は9.6%であり、早食い群のほうが有意に高かった(p=0.002)。そのほかにも、1日1回以上間食する割合(p=0.002)や、1日30分以上汗をかく運動の頻度(p=0.013)、睡眠の質(p=0.021)についても有意差が認められ、いずれも早食い群においてそれらの習慣が良くないという結果だった。

口腔機能関連指標では、DMFT指数と咀嚼速度(1回の咀嚼にかける時間)は有意差がなかったが、咀嚼回数、咀嚼時間、咀嚼能力はいずれも早食い群が有意に低値だった。なお、唾液中のグルコース濃度は、早食い群が81.78±18.10mg/dL、非早食い群が154.60±31.65mg/dLで、やはり前者が有意に低値だった。

次に、早食いであることを従属変数、GHQ-12スコアと身体活動習慣を独立変数とする多変量二項ロジスティック回帰分析を実施。その結果、メンタルヘルス不良(調整オッズ比〈aOR〉8.470〈95%CI;2.437~32.934〉)、および、身体活動習慣がないこと(aOR5.604〈1.562~22.675〉)は、いずれも早食いと独立した関連のあることが明らかになった。

早食いもメンタルヘルスにとって重要な関連因子である可能性

著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係の考察が制限されること、研究参加者が生徒・学生のみであり、就労者を含む一般人口に外挿できるとは限らないことなどを挙げている。

そのうえで、「メンタルヘルス状態が悪化している若年者は、グミをしっかり噛まずに飲み込むことが多いと考えられる。また、早食いは身体活動の不足と独立した関連があり、睡眠の質の低下との関連も示唆された。早食いは摂食障害ほど深刻な問題ではないというのが一般的な捉え方ではあるが、心身の健康と重要な関連があると言える」と考察。結論として、「思春期や若年成人のメンタルヘルスのスクリーニング項目に、摂食速度も含めるべきではないか」と提言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Speed Eating Is Associated with Poor Mental Health Among Adolescents and Young Adults: A Cross-Sectional Study」。〔Nutrients. 2025 Aug 29;17(17):2822〕 原文はこちら(MDPI)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 23

オリエンテーリングにおける脱水リスクの実態が報告された。国際大会にも参加するエリートレベルにある選手を対象とする観察研究の結果であり、2日間の競技期間中、時間経過とともに尿比重が上昇したという。

脱水はオリエンテーリングの身体的かつ精神的パフォーマンスを低下させる

地図とコンパスを頼りに、森林や丘陵、市街地に設けられたチェックポイントを最短時間で通過するオリエンテーリングは、体力と頭脳を組み合わせたパフォーマンスが要求されるスポーツ。高い心肺機能と筋力、筋持久力を維持できるか否かが成績を左右する。長時間に及ぶ競技中、選手は発汗による水分喪失を防ぐために適切な水分補給戦略が重要となる。

脱水は身体的パフォーマンスのみでなく、精神的パフォーマンスも低下させ得ることが報告されており、オリエンテーリングに必要な意思決定力、集中力を阻害する可能性がある。とは言え、オリエンテーリングの競技中の脱水リスクの知見は乏しく、実態が明らかにされていない。これを背景として本論文の研究者らは、競技中に尿検体を複数回採取し尿比重の推移を検討するとともに、選手の水分摂取状況を把握した。

トルコの国内選手権大会中に、選手の尿比重と水分摂取量を追跡

この研究は、トルコの全国選手権大会に参加した選手20人を対象に実施された。大会は2日間にわたって開催され、初日はチェックポイント数19、距離5.2km、2日目はチェックポイント数25、距離11.7kmだった。研究に参加した20人は競技歴が12.4±6.4年で国際レベルの実績があり、年齢は30.4±1.1歳、BMI22.5±0.5だった。

採尿は計6回行われ、初日は8時に初回採尿を行い、競技時間が10~13時で、競技終了後の13時30分と16時に採尿した。2日目は8時に初回採尿、10~14時が競技、14時30分および17時に採尿した。このほか、参加者には2日間にわたって水分摂取の記録を求めた。

なお、初日は気温11±2°C、湿度65±5%で、研究参加選手の走行距離は6.8±1.9km、所要時間48.5±19.2分であり、2日目は同順に12±1°C、75±5%、13±4.8km、106.5±45.1分だった。

尿比重は時間経過とともに上昇

解析の結果、尿比重には有意な時間効果が認められた(p=0.04)。詳しくは、初日の8時が1.019 ± 0.008、競技終了後の13時30分が1.023 ± 0.007、16時は1.018 ± 0.007であり、2日目は8時が1.019 ± 0.004、14時30分が1.026 ± 0.003、17時が1.022 ± 0.004だった。

尿比重が1.020以上で脱水傾向と判定される選手の割合も時間経過とともに上昇し、とくに2日目の競技後の14時30分には全員(100%)に脱水傾向が認められた。また、初日のレース終了後にその割合はいったん低下し、水分補給が行われたことが示唆されたが、2日目のレース後には初日よりも脱水傾向の選手が多かった。

初日の朝の尿比重と2日目の朝の尿比重が正相関

初日の朝の尿比重と2日目の朝の尿比重との間に、有意な正の相関が認められた(r=0.69、p=0.03)。また、1日目と2日目の水分摂取量との間にも、有意な正の相関が認められた(r=0.71、p=0.02)。これら以外に、水分摂取量と尿比重との関連は認められなかった。

なお、選手はレース2日目に1日目よりも、水分を有意に多く摂取していた(p=0.003)。

単に水分摂取を増やすのではなく、タイミングを考慮することが重要ではないか

まとめると、
  • 選手はレースが進むにつれて、水分補給状態が悪化(脱水状態が増加)し、
  • 選手は最初のレース狩猟の3時間以内に水分補給を行い、2回目のレース終了までその状態の傾向が維持され、
  • 2回のレース終了後にはともに、ほとんどの選手が脱水傾向の状態にあり、
  • 1日の水分摂取量と水分補給状態との間には関連がみられなかった。

著者らは、本研究においてアスリートは水分を自由に摂取できるにもかかわらず、尿比重の上昇が観察され、また尿比重と水分摂取量との間に明確な関係がないことが示されたことから、「アスリートは、競技中の運動強度に見合うだけの十分な水分を摂取できていない可能性が高い」と述べている。また、尿比重と水分摂取量が相関しない理由として、環境条件の影響を考察している。具体的には、今回の研究は比較的涼しい気温(11~12°C)、適度な湿度(65~75%)で実施されたため、喉の渇きが自覚されににくく、競技中の水分摂取の必要性に対する認識が低かった可能性があるという。さらに、選手が消化器症状の発現リスクを考慮し、意図的に水分摂取を控えていた可能性もあるとのことだ。

研究の限界点として、サンプルサイズが十分でないこと、尿比重は水分補給状態を評価する簡便な手法ではあるが、尿浸透圧ほど鋭敏には脱水状態を反映しない可能性があること、食事やナトリウム摂取量を評価していないことなどを挙げたうえで、結論は「オリエンテーリングの競技中、アスリートの水分補給状態が徐々に悪化していくことが観察された。この調査結果に基づけば、競技前、競技中、競技後にアスリートの水分補給を最適なレベルに維持するための戦略を採用することが非常に重要といえる。単に総水分摂取量を増やすのではなく、適切なタイミングでの水分摂取を奨励することが、コーチとアスリートの両者にとって重要な可能性がある」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Hypohydration is evident in elite orienteering athletes during a two-day race: a descriptive study」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025 Aug 15;17(1):240〕 原文はこちら(Springer Nature)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 24

40万人を11年間追跡した結果、健康的な植物性食品の食生活を送っている人は、生命予後との関連が強い、癌、心血管疾患、2型糖尿病のうち二つ以上の併発で定義した「多疾患併存」(multimorbidity〈マルチモビディティ〉)が、有意に少ないことが明らかになった。この関連は、60歳未満ではより強固に認められるという。

多疾患併存に食習慣は関係あるか?

複数の疾患を併発した状態である多疾患併存は、世界的に増加し、とくに高齢者の健康課題として対策が急がれている。2023年の報告では、多疾患併存の世界的な有病率は37%であり、60歳以上では50%を超えるという推計値が報告されている。

疾患を個々にみた場合には、発症リスクに食習慣や栄養素摂取状況が関係していることが明らかな疾患は多く存在するが、多疾患併存にもそのような関連があるのか否かは十分に検討されていない。今回紹介する論文の著者らは、欧州で行われている二つの大規模疫学研究のデータを縦断的に解析し、この点を調査した。

欧州の40万人を11年間追跡

この研究には、「欧州癌・栄養前向き調査(European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition;EPIC)」と「UKバイオバンク(UK Biobank)」のデータが解析に用いられた。EPICは1992~2000年に欧州10カ国、23施設で登録が行われ、現在も継続中の前向き研究であり、参加者のベースライン年齢は35~70歳で多くは一般住民で、一部の国では健診受診者や献血協力者が参加している。UKバイオバンクは2006~10年に英国でスタートした、現在も継続中の前向き研究であり、参加者は一般住民でベースライン年齢は40~69歳。

EPICでは参加登録時に、過去12カ月間の食品摂取状況が、各国または各施設で精度検証された質問票を用いて把握されている。またUKバイオバンクではwebベースの自記式24時間想起質問票により、2009~12年にかけて参加者1につき最大5回、食品摂取状況が調査されている。これらのデータを用い、本研究では「healthful plant-based diet index;hPDI」と「unhealthful plant-based diet index;uPDI」という2種類の評価指標のスコアを算出した。hPDIは、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す指標、uPDIは反対に、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す指標。どちらもスコアの範囲は18~90点。

本研究において、多疾患併存は、あらゆる部位の癌、心血管疾患、2型糖尿病のいずれ二つ以上が併存している状態と定義された。著者らは、これら三つの疾患は世界の主要な死因であり、食事や栄養の関与が示唆されており、かつ、予防可能な疾患という共通の特徴があるとしている。

uPDIの高さが多疾患併存リスクの低さと関連し、60歳未満は関連がより強固

合計40万7,618人(EPICが22万6,324人、UKバイオバンクが18万1,294人)が解析対象となった。EPICでは中央値10.9年(四分位範囲9.7~12.5)、UKバイオバンクでは同11.4年(10.9~12.2)の追跡で、合計6,604件の多疾患併存が発生していた(女性36.0%/EPIC3,455件、UKバイオバンク3,149件)。

hPDIやuPDIが10ポイント高い場合の多疾患併存リスクを、交絡因子を調整したCox回帰分析により検討した。

hPDIが高い(健康に良い植物性食品の摂取量が多い)と多疾患併存リスクが低い

解析の結果、健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す指標であるhPDIが10ポイント高いごとに、多疾患併存リスクがEPICでは11%低く(ハザード比〈HR〉0.89〈95%CI;0.83~0.96〉)、UKバイオバンクでは19%低リスクであることが示された(HR0.81〈0.76~0.86〉)。

一方、健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す指標であるuPDIが10ポイント高いごとに、多疾患併存リスクがUKバイオバンクでは22%高いことが示された(HR1.22〈1.16~1.29〉)。EPICでは、uPDIと多疾患併存リスクとの有意な関連はみられなかった(HR1.00〈0.94~1.08〉)。

60歳未満ではhPDIと多疾患併存リスクとの関連がより強固

次に、60歳未満/以上で層別化した解析が行われた。その結果、以下のように、60歳未満では、hPDIと多疾患併存リスクとの関連がより強固であることが示された。

EPICでは、60歳未満ではhPDIが10ポイント高いごとに14%低リスクであるのに対して(HR0.86〈0.78~0.95〉)、60歳以上では有意な関連がみられなかった(HR0.92〈0.84~1.02〉)。UKバイオバンクでは、60歳未満ではhPDIが10ポイント高いごとに29%と3割近いリスク低下が認められたが(HR0.71〈0.65~0.79〉)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〈0.80~0.92〉)。

なお、uPDIと多疾患併存リスクとの関連については、EPICでは年齢層にかかわらず関連が非有意で(uPDIが10ポイント高いごとに60歳未満ではHR1.05〈0.95~1.16〉、60歳以上ではHR0.96〈0.87~1.06〉)、UKバイオバンクでは年齢層にかかわらず関連が有意だった(60歳未満ではHR1.28〈1.17~1.41〉、60歳以上ではHR1.20〈1.12~1.28〉)。

これらの結果に基づき著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活の遵守は、癌、心血管疾患、および2型糖尿病の多疾患併存リスクの低さと関連していた。この知見は、60歳未満の成人と60歳以上の成人で一貫していた。健康的な植物性食品と少量の動物性食品で構成される植物性食品中心の食生活を重視することは、中高年における癌および心血管代謝疾患の併発抑制に有益である可能性がある」と結論している。

文献情報

原題のタイトルは、「Plant-based dietary patterns and age-specific risk of multimorbidity of cancer and cardiometabolic diseases: a prospective analysis」。〔Lancet Healthy Longev. 2025 Aug;6(8):100742〕 原文はこちら(Elsevier)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部


Page 25

未成年の男子ラグビー選手を対象として、摂食障害のリスク状況を横断的に調査した研究が報告された。英国ラグビー協会傘下の団体に所属している100人超の選手において、14%がリスク状態に該当し、リスクの高さはBMIの高さと関連があること、またポジションがプロップの選手はリスクが高いことなどが明らかにされている。

男子、コンタクトスポーツ、未成年のアスリートの摂食障害の有病率は?

アスリートは摂食障害のリスクが高いことを示唆する報告が多い。ただし、それらの報告の大半は女性アスリートを対象にしており、とくに審美系や持久系スポーツでよく調査されている。それに対して男性アスリート対象の摂食障害の研究は少なく、ことにラグビーのような強靭な体格の選手が多い競技での知見はより少ない。さらに倫理的配慮から多くの研究は18歳以上のアスリートを対象に行われてきており、より若年の男子ラグビー選手での摂食障害の実態はほとんど研究されていない。

今回取り上げる論文の著者らは、これを背景として、英国内の16~18歳の男子ラグビー選手を対象とするwebによる横断調査を実施した。英国ラグビー協会に連絡をとり、傘下団体所属選手にアンケートの回答協力を依頼し、任意に回答してもらった。摂食障害のリスクの評価には、摂食障害調査票(Eating Disorder Examination Questionnaire;EDE-Q)を用いた。なお、EDE-Qは主として女性のリスク評価に用いられているが、男性での臨床的な摂食障害のリスクを判定するカットオフスコアとして、先行研究に基づき1.68を採用した。

栄養士が配置されているにもかかわらず、4人中1人はそれを知らない

107人から回答があり、内容の不備のある回答を除外し103人を解析対象とした。過半数(57%)が16歳で、30%が17歳であり、18歳は13%だった。BMIは平均26.9、範囲20.8~39.0だった。

「体重を変えたいか」との質問に対し、68%が「少し太りたい」と回答。14%は「かなり太りたい」、11%は「現状のまま」、7%は「少し痩せたい」、1%は「かなり痩せたい」と回答した。

選手が所属しているクラブには栄養士が配置されていた。その存在を認識していたのは76%であり、残りの24%は存在を知らない、または自分からは栄養士にアクセスできないものと考えていた。

選手の14%がEDE-Qスコア1.68以上

EDE-Qのスコアは0.83±0.76だった。

11%は過去4週間に1回以上、自制心を失って食べ過ぎた経験があり、15%は自制心を失って食べ過ぎてしまうことを恐れていた。また37%が食事中に罪悪感を抱き、9%が過去4週間に1回以上、隠れ食いにあたる行動をしていた。39%は、体重や体型をコントロールする手段として、「駆り立てられて/強迫的に」運動をしたことがあると回答した。体重管理のために嘔吐したり、下剤を使用したりしたという報告はなかった。

全体として、14%がEDE-Qスコア1.68以上で、臨床的カットオフ値を上回っていた。

BMIはEDE-Qスコアと関連があり、ポジション別ではプロップの選手が最も高い

EDE-QスコアはBMIと正の関連を示し(β=0.23、p=0.02)、線形回帰分析から、BMIはEDE-Qスコアの変動の5.3%を説明すると計算された(R2=0.053)。

また、ポジションでEDE-Qスコアを比較すると、バックローが最も低く、プロップが最も高くて、この両者の間には有意差が認められた(p<0.001)。これら以外のポジション間では有意差はなかった。<>

プロップの選手がEDE-Qスコアが高いという結果について著者らは、BMIの高さがEDE-Qスコアの高さと関連していることで説明できる可能性があるとしている。つまり、プロップはフッカーとともにフォワードに位置し、ラグビーにおいて他のポジションと比較してBMIが高い選手が多い。そして、このポジションの重要な役割の一つはスクラムであるため、体重の増加は競技上の優位性をもたらすことが関係し、摂食障害の行動や態度の有病率の高さを説明できるのではないかという。

若年男子ラグビー選手も摂食障害に関する情報とサポートを必要としている

これらの結果を総括し、論文の結論は以下のように述べられている。

「全体として本研究に回答したエリートレベルの若年期男子ラグビー選手において、14%がEDE-Qスコアの臨床カットオフ値を超えていた。EDE-Qはスクリーニングツールであるため摂食障害の診断とは異なるものの、本結果は一般人口と比較してこの集団の摂食障害関連の行動や態度の有病率が高い可能性があることを示唆している。またBMIの高さと特定のポジションが、それらのリスクの高さと関連しており、ポジション固有の考慮が必要な可能性が示唆される。加えて、若年の男子ラグビー選手が、摂食障害に関する情報を入手したりサポートを受けたりする機会が不足していることから、この問題に関する教育と意識向上も必要とされる」。

文献情報

原題のタイトルは、「Disordered eating within elite male adolescent rugby: a cross-sectional study of the eating habits and attitudes in male academy rugby union players」。〔Phys Sportsmed. 2025 Aug 21:1-8〕 原文はこちら(Informa UK)

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部

0.001)。これら以外のポジション間では有意差はなかった。<>

Page 26

国際テニス連盟(International Tennis Federation;ITF)、女子テニス協会(Women’s Tennis Association;WTA)、プロテニス選手協会(Association of Tennis Professionals;ATP)の3団体からなる専門家グループは、ハイパフォーマンスのテニスにおける栄養の実践的な推奨事項を策定し、国際スポーツ栄養学会の「International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism」に発表した。論文の冒頭に記されているポイントのみを紹介する。

推奨のポイント

  • a. 頻繁な海外遠征と過酷な試合スケジュールに直面するプロテニス選手は、高い生理学的および知覚的負荷を経験する。試合時間の不確実性、それに伴う回復に充てられる時間の変化、そして多様な環境条件に対応するため、栄養、水分補給、回復戦略を綿密に管理する必要がある。
  • b. 炭水化物の摂取は、トレーニングと試合における主要なエネルギー源となり、トレーニングセッションと試合の間に体内のグリコーゲンを補充することで、プレー中の疲労を防ぐ。テニス選手に推奨される炭水化物摂取量は、トレーニングや試合の負荷(期間・頻度および強度)によって異なる。1日の摂取量は、体重1kgあたり3~10gの範囲が適切。低強度のトレーニングには少量、コートでの高強度セッションやトーナメント中には多めに摂取する。
  • c. トーナメント中にグリコーゲン貯蔵量を維持するには、1日あたり6~10g/kgの炭水化物摂取が必要とされ、試合前には1~4g/kgを摂取する必要がある。一方、試合中、とくに長時間の試合では、筋肉へのエネルギー供給と中枢神経系の刺激のために、炭水化物を30~90g/時摂取する必要がある。当然ながら、トーナメントの試合は変動性が高く予測不可能であるため、これらの一般的な戦略は、試合時間、回復の必要性、コートの状態に応じて調整し、個別に調整する必要がある。
  • d. プロテニス選手は、筋肉の修復、成長、そして体組成の最適化のために、高タンパク質摂取(1.2~1.8g/kg)を必要とし、状況によってはそれ以上の量の摂取が必要となる場合もある。これらのニーズは、タンパク質の質とタイミングに注意することで、計画的な食事や、場合によってはプロテインサプリメントの摂取によって満たすことが可能。
  • e. エネルギー、炭水化物、タンパク質の必要量を満たす適切な食事は、プロテニス選手の微量栄養素の需要増加にも対応する可能性が高い。しかし、鉄分(とくに女性およびベジタリアン/ビーガン)、ビタミンD(カナダ、ロシア、北欧など赤道から極北の地域、またはニュージーランド南部やオーストラリアなど極南の地域に居住する選手)、カルシウム(ジュニア選手および無月経の女性)では、とくに注意を払うべき。特定の選手や状況では、摂取量が最適な値を満たさず、健康状態やパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。こうした欠乏症のリスクが高い選手は、定期的に栄養状態をモニタリングし、必要に応じて監督下でのサプリメント摂取計画を立てる。
  • f. 利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)は、トレーニングや試合での運動負荷の増加やエネルギー摂取量の減少により、人体のあらゆる生物学的システムを支えるエネルギーが不足する状態であり、テニス選手にも発生する可能性がある。よくあるシナリオとしては、摂食障害、体重/体脂肪を減らすための誤ったプログラム、トレーニングの激化や激しい競技プログラム、食品の入手困難さや栄養に関する知識の不足などが挙げられる。軽度または短期間の曝露であれば適応可能で可逆的と考えられる。しかし慢性的で極端なシナリオは、さまざまな健康障害やパフォーマンス障害を伴う、スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)の病態の基盤となる。テニスにおいても、このリスクに対する認識を高め、早期介入するための戦略を実施する必要がある。また、リスクの高い選手は、適切な診断と多科による治療を計画・管理できる経験豊富な医師に紹介する必要がある。この分野においては、テニス選手におけるREDsの有病率や転帰に関する具体的な調査を含む、さらなる研究が必要。
  • g. テニスでは、試合中(ウォーミングアップ、エンドチェンジやゲームの間など)に水分を摂取する機会が多い。しかし、試合の激しさや環境条件によっては、大量の発汗による損失につながる可能性があり、試合中および次の試合までの期間に計画的な水分補給が必要になる。試合前、試合中、試合間の水分摂取ガイドラインは、試合時間、個人の発汗量、環境条件に応じて調整し、個別に調整する必要がある。
  • h. 試合やトレーニング後の回復は、セッションで生じたニーズへの対応に重点を置くべき。運動後の軽食や食事は、エネルギー補給のニーズに応じて炭水化物を、水分補給のニーズに応じて水分と電解質を、そして筋タンパク質の合成と適応のニーズに応じてタンパク質を、それぞれ優先的に摂取する必要がある。次の試合やトレーニングセッションまでにこれらのプロセスが可能な限り実行し、最適な回復とパフォーマンスが得られるよう、実践的な戦略を調整する必要がある。
  • i. パフォーマンスサプリメントはテニス選手の間で人気があるが、カフェイン、クレアチン一水和物、重炭酸ナトリウムのみが、テニスのパフォーマンスへの潜在的な効果について信頼できるエビデンスを有している。β-アラニン、クエン酸ナトリウム、シトルリンリンゴ酸塩など、テニス選手にとって有益な可能性のあるサプリメントについては、さらなる研究が必要。いずれの場合も、適切な用法、用量、タイミングを守った場合にのみパフォーマンスが向上する可能性があるため、トレーニングや試合に組み込む前に、徹底的なリスクベネフィット分析を行う必要がある。
  • j. サプリメントを使用する選手は、禁止物質の混入リスクを最小限に抑えるため、製品の同一性、純度、組成を保証(バッチテストなど)している評判の良い企業から、製品を購入する必要がある。
  • k. 高温多湿の環境では、とくにトーナメントでは、テニスにおける生理的および認知的課題が増大するため、パフォーマンスを最適化し、熱中症を回避するために、熱順応、積極的な水分補給、冷却戦略が必要となる。
  • l. プロテニス選手は、頻繁な病気や怪我など、健康面で特有の課題に直面している。適切な栄養摂取は、強力な免疫システムを維持し、効果的な回復をサポートするうえで重要な役割を果たす。これは、パフォーマンスに影響を与える可能性がある怪我や病気の予防にも役立つ。女性テニス選手は、試合の要求や月経周期によるホルモン変動の違いにより、生理学的および栄養学的ニーズが異なる。また、利用可能エネルギー不足(LEA)や鉄欠乏症などの疾患のリスクが高いため、トレーニング、栄養、健康状態のモニタリングにおいて、個別的なアプローチが必要となる。
  • n. 高いパフォーマンスを発揮する若手テニス選手は、過酷なトレーニングスケジュール、成長と発達への要求、そしてツアーの不規則性により、深刻な栄養上の課題に直面している。これらの要因により、エネルギーと栄養素の摂取量が推奨量を下回ることが多く、パフォーマンスと長期的な健康に影響を与える可能性がある。若手選手は、適切な食事選択を通じて健康とパフォーマンスを最適化するために、栄養教育と実践的なスキルの両方を必要とする。
  • o. 車いすテニス選手は、障害に関連した特有の身体的およびエネルギー要求に直面しており、パフォーマンス、健康、回復を最適化するために個別の栄養および水分補給戦略が必要。
  • p. これらのガイドラインの根拠となる研究は、テニスに特化した研究ではなく、さまざまな運動やスポーツのシナリオから得られたものである。ガイドラインは依然として価値があると見なされるが、テニス選手を対象としたさらなる研究や、テニス特有の要求に合わせたプロトコルの策定が明らかに必要。

さらに詳しく

このほか、原文では下記のような項目が詳細にまとめられているので、興味のある方は下記「文献情報」のリンク先をご参照ください。

  • Topic 1:テニス競技の概要

    Expert Group Topic 1: Introduction to Tennis

  • Topic2:テニスの身体的負荷

    Expert Group Topic 2: Physiological Demands of Tennis Training and Match Play

  • Topic 3:トレーニング期の栄養と長期的栄養目標

    Expert Group Topic 3: Training-Day Nutrition and Overall Nutritional Goals

  • Topic 4:体組成・LEA・REDsについて

    Expert Group Topic 4: Body Composition, LEA, and REDS

  • Topic 5:試合期の栄養管理

    Expert Group Topic 5: Match-Day Nutrition

  • Topic 6:栄養補助食品(サプリメント)の活用

    Expert Group Topic 6: Dietary Supplements for Tennis Performance

  • Topic 7:暑熱環境・遠征時の考慮事項

    Expert Group Topic 7: Environmental and Travel Considerations

  • Topic 8:病気・怪我のリハビリテーション期の栄養管理

    Expert Group Topic 8: Nutrition for Illness and Injury Rehabilitation

  • Topic 9:女性選手、ジュニア選手、車いす選手

    Expert Group Topic 9: Special Population Groups

文献情報

原題のタイトルは、「Women’s Tennis Association (WTA), and Association of Tennis Professionals (ATP) Expert Group Statement on Nutrition in High-Performance Tennis. Current Evidence to Inform Practical Recommendations and Guide Future Research」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025 Aug 21:1-38〕 原文はこちら(Human Kinetics)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

この記事のURLとタイトルをコピーする

スポーツ栄養Web編集部

関連記事: