「米国で最も危険な火山」で行われている前例のない地熱発電。“超高温岩体” を電力に変えるエネルギー業界の新技術とは

この潜在力を生かすために、Mazama Energy(マザマ・エナジー)というスタートアップ企業が着目したのがオレゴン州ベンドの20マイル(約32km)ほど南に位置するニューベリー火山だ。 同火山はカスケード山脈に属し、セントヘレンズ山、レーニア山、フッド山ほど知られてはいないが、この火山帯で最大規模を誇る。米国地質調査所(USGS)による警戒レベルは、マウナロア火山やキラウエア火山と並んで「危険度が非常に高い(very high threat)」と分類されている。同時に、そこには前例のない地熱発電の可能性も秘めている。

西部に地熱プロジェクトが集中しているのは、東部と比較して地表近くに超高温資源が存在するためだ。 ニューベリー火山での地熱資源の調査は過去50年にわたり続けられてきたが、Mazama Energyは400℃超の「超高温岩体(Superhot Rock)領域」の掘削を可能にする「Superhot Rock技術」の実用化に向けて動き出している。通常の地熱発電では、地中の蒸気や熱水を利用してタービンを回し発電する。しかし、「Superhot Rock技術」では、華氏705度(約374℃)を超える乾燥状態の超高温岩に水を注入して過熱するのだ。 超高温の高圧下で水は超臨界状態、つまり気体と液体の中間的な状態になる。「ワシントン・ポスト」紙によれば、超臨界水は液体のように高い熱を保持しながら、気体と同様の流動性をもつため、通常の地熱発電の5~10倍のエネルギーを生むことができる。 Mazama Energyのスリラム・ヴァサンタラジャンCEOは同紙に対し、「水は地下に送られる時点ではクラーク・ケントだが、加熱されて地上に戻るときはスーパーマンになっている」と語っている。 オレゴン州でのMazama Energyと似た取り組みとして、テキサス大学オースティン校の経済地質学局(BEG:Bureau of Economic Geology)が、テキサス南西部の街プレシディオ近郊の超高温岩体に水を注入することで大量の電力を生み出す可能性についてまとめた2024年の報告書がある。環境NPOのClean Air Task Force(CATF:クリーンエア・タスクフォース)の試算によれば、米国国土の20%に相当する約75万平方マイルに、同様のエネルギーを生む可能性をもつ超高温岩体があるという。

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