NASA天文衛星「スウィフト」2026年に軌道上昇実施へ 米企業と契約締結
NASA=アメリカ航空宇宙局は2025年9月24日付で、NASAのガンマ線観測衛星「Neil Gehrels Swift(ニール・ゲーレルス・スウィフト、以下Swift)」の軌道上昇に関する契約を、アメリカ企業Katalyst Space Technologies(カタリスト・スペース・テクノロジーズ、以下Katalyst)との間で締結したことを発表しました。
Swiftに結合した宇宙機のエンジンで軌道を上昇させる計画
【▲ NASAのガンマ線観測衛星「Neil Gehrels Swift(ニール・ゲーレルス・スウィフト)」のCGイメージ(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)】Swiftは短時間で爆発的なガンマ線が放出される現象「ガンマ線バースト(Gamma-ray Burst: GRB)」の観測を目的としたミッションで、2004年11月に衛星が打ち上げられました。搭載されている3基の望遠鏡でガンマ線・X線・紫外線・可視光線を捉え、ガンマ線バーストの発生検知からその残光の観測をはじめ、活動銀河や超新星爆発、太陽系内の小惑星や彗星といった天体や現象の観測を多波長で行うことが可能です。
地球の大気圏と宇宙空間の境界は高度100km(または80km)とされていますが、それより上空にも希薄ながら大気は存在していて、低軌道を周回する人工衛星や宇宙ステーションなどは大気の抵抗を受けて徐々に高度が下がっていきます。また、地球の大気は太陽活動が活発化すると膨張し、同じ高度でも密度がより高くなるため、軌道の減衰もそれだけ速く進行するようになります。
ISSでは減衰した軌道を回復させるために、補給船のエンジンを使用して高度を上昇させるリブーストが定期的に行われています。しかし、軌道修正用の推進システムを持たない人工衛星の場合、軌道を回復させる方法はありません。
打ち上げ当初は高度約600kmを飛行していたSwiftの軌道も、それから20年以上が経った2025年9月現在は、ISS=国際宇宙ステーションと同程度の高度約440kmまで減衰しています。そのうえ、近年の太陽活動にともなってSwiftの軌道は予想以上のペースで減衰していて、Katalystによれば大気圏再突入の可能性は2026年半ばで50%、2026年末頃では90%に達します。
そこでNASAは、アメリカ国内産業の能力向上や科学ミッション延長の費用対効果を判断することも念頭に、同局の宇宙技術ミッション部が管理する中小企業イノベーション(SBIR)プログラムの下でKatalystおよびCambrian Works(カンブリアン・ワークス)との間で契約を締結。2社はSwiftの軌道上昇に関する概念設計研究を進めてきましたが、このうち前者との間で実際のミッションに関する契約が締結されたことになります。
【▲ Katalyst Space Technologiesの宇宙機がSwift衛星とドッキングし、軌道上昇を行う様子を示したCGイメージ(Credit: Katalyst Space Technologies)】Katalystによると、同社はSwiftと結合可能な宇宙機を打ち上げ、推進力を提供することで軌道上昇を行います。打ち上げ後のメンテナンスを想定していないSwiftにはドッキングやキャプチャーを行うための仕組みが何も備わっていないため、Katalystの宇宙機にはSwiftの主要構造部を把持する特製のキャプチャー機構が搭載されます。
NASAによれば、Swiftの軌道上昇実施は2026年春を目標としています。成功した場合、こうしたサービスを想定していないアメリカ政府の衛星を商業宇宙機がキャプチャーする初のケースになるということです。
近年では人工衛星の運用寿命を延長するために、小型の宇宙機を“外付けエンジン”として結合させて軌道を維持するサービスの提供が、すでに始まっています。また、“給油車”の役割を果たす宇宙機が衛星にドッキングして軌道上で推進剤を補給するサービスも今後行われる予定となっており、まだ機能する人工衛星の寿命延長サービス提供もめずらしい取り組みではなくなりそうです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部