日銀総裁会見:識者はこうみる
[東京 19日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は19日、金融政策決定会合後の会見で、現在の実質金利はきわめて低い水準にあるとの認識を示し、今後も日銀が示している経済・物価の見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げていくことになると述べた。ターミナルレート(金利の到達点)を考慮するうえで意識される中立金利について、推計値の下限までには「少し距離がある」とも語った。
市場関係者に見方を聞いた。
◎ハト派的、慎重な利上げ姿勢継続か
<SMBC日興証券 金利・為替ストラテジスト 丸山凜途氏>
基本的にはハト派的な印象との受け止めだ。実質金利の深さや中立金利に対しての距離など過去の表現から変化はみられない。1日の名古屋での中立金利の発言をきっかけに、市場では中立金利の水準が示され、もう少し利上げができるという思惑が先行していた。ただ、日銀は中立金利そのものは推計することは難しいとし、時間をかけて環境を点検しながら利上げをしていくという印象だ。
日銀が今後も速いペースで利上げをし、実質金利が調整されていくという見通しが若干後退した。慎重的な利上げが続くと市場は受け止めた、とみている。
日銀総裁の会見後にドル/円は円安が進行した一方、時間外取引の国債先物の反応は限られている。日銀声明文発表後の円債市場は国債先物主導で売り圧力が強まり、その流れに現物市場が追随した格好だった。日銀に対する先行きの見通しという材料よりも、ポジション調整やフローで動いたとみている。
円金利は今後も上昇圧力がかりやすい。日銀の利上げに対する見通しではなく、日銀が動きづらくなることによるビハインド・ザ・カーブリスクを織り込む可能性があり、中期ゾーンを中心に金利上昇圧力がかかりやすいとみている。
◎利上げ「前のめり感」なく株価ポジティブ、過度な円安に注意
<しんきんアセットマネジメント投信 シニアファンド・マネージャー 藤原直樹氏>
景気指標次第との見方を改めて示し、利上げへの前のめり感はなかった。利上げを急ぐ雰囲気はなく、情勢次第で淡々と利上げするなら株価に悪い環境ではない。政策金利は中立金利の推計値の下限までに距離があるとしたが、その距離は「少し」との表現にとどまった。利上げ余地はさほどないようにみえる。それを見透かしたのか、会見中に為替市場では円安が進行した。
日本株にとって円安は支援材料に意識されやすいが、それも「程度」の問題ともいえる。 総裁は会見で、複数の委員が最近の円安が国内価格に上向きに影響し、基調物価に影響する可能性を指摘したことに触れた。円安になると利上げの材料になってくる可能性がありそうだ。短時間で158円に上昇するなど急激な動きとなれば、為替介入や利上げペースの加速が警戒され、株式も買い手控えになりかねない。
◎慎重姿勢不変で円じり安、介入警戒が下値抑制
<日本総研 主任研究員 松田健太郎氏>
今回の会見は中立金利も含めてもう少し具体的な話があるかと思っていたが、慎重な言い回しは変わらず、円安に懸念を示すこともなかった。次回の利上げは来年7月と予想しており、円を買う手掛かりはしばらく乏しい。円は下落圧力がかかりやすい展開が続くだろう。
ただ、利上げ直後に進行する円安は、ファンダメンタルズに沿った動きとは言い難い。きょう発表された11月全国消費者物価指数(コアCPI)は前月比横ばいと、ようやく落ち着いた動きとなってきたところで、輸入インフレの再燃は政府も避けたいはずだ。ドルが161円台へ上昇した昨年夏とは日本経済の状況もだいぶ異なる。ドルが再び160円台へ接近するような動きとなれば、円買い介入への警戒感が一段と高まりやすくなると見ている。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab