その情報、自分で「選んだ」つもりが…刺激的投稿が優先表示されるSNSの仕組み 慶応大・山本龍彦教授
昨年11月の兵庫県知事選では、交流サイト(SNS)を含むソーシャルメディアを使った候補者や支持者の発信が注目された。長さ数十秒ほどの「ショート動画」が広がり、真偽不明の情報も飛び交った。慶応大の山本龍彦教授(48)=憲法学=は「SNSは関心を引く刺激的な投稿が拡散、増幅する傾向がある。まずはその構造を知ることが大切」と強調。その上で、さまざまな情報にバランスよく接する必要性を訴える。(聞き手・田中宏樹)
■閲覧数が「経済的価値」に 情報の「偏食」に注意
-SNSのビジネスモデルの特徴は。
「人の関心や時間が、経済的価値を持って取引される『アテンションエコノミー』が大きな特徴だ。SNS事業者や投稿者が得る広告収入は、閲覧数や滞在時間などに左右される。そのため真偽を問わず、思わず注意を向けてしまう刺激的な情報を発信することが鍵となる。このビジネスモデルを組み込んだアルゴリズム(計算手法)により、閲覧者にはそのような情報が積極的に表示される。過激な投稿が拡散、増幅されやすい構造となっている」
-近年はSNSや動画共有サイトでショート動画が増え、昨年の兵庫県知事選でも拡散した。
「画面を指でスワイプして閲覧するショート動画は、中毒性が高いとされる。実際は閲覧者の関心を分析したアルゴリズムを基に動画が表示されるが、自分で選んで視聴しているような感覚に陥る面がある」
「選挙はもともと人の関心を集める競争で、アテンションエコノミーと非常に親和性が高い。怒りや憎悪といった感情は関心を集めやすいため、そうした感情をかき立てる動画が広がっていく。公職選挙法は『気勢を張る行為』を禁じるなど、競争の過激化を抑え、選挙の公正さを守ろうとしてきた。だが、選挙運動がネット空間に移り、ほぼ意味を成さなくなった」
-SNSの影響力が強まる中で、「情報的健康」という概念を提唱している。
「人は偏った食生活をすると体調を崩しやすい。また、食品の購入時には添加物や生産者などを見て、安全性を確認する習慣もあるだろう。情報取得にも同様の心がけが必要だ。情報の『偏食』を避け、安全性や信頼性を意識することが大切になる」
-具体的には。
「私たちはなぜ多くの情報を常に無料で視聴できるのか。それは、自分の関心や時間が価値を持って取引されるからだ。誹謗中傷の拡散により被害者を犠牲にしているとも考えられる。SNSを利用する際にはその犠牲を想像してほしい」
「既存のマスメディアに対し『情報を切り取って世論を操作している』という批判がある。ただ、ソーシャルメディアでも情報は切り取られ、アルゴリズムに基づき手元に届く情報が選別されている。今の情報空間は、食品で例えるなら『添加物』が多く使われた状態だ。既存メディアを批判するだけでなく、これからはソーシャルメディアの構造に対しても懐疑的な目を持つことが重要だろう」
【やまもと・たつひこ】 1976年生まれ。慶応大博士(法学)。学部や研究科を横断する研究組織「慶応大グローバルリサーチインスティテュート」(KGRI)副所長。情報流通や人工知能(AI)に関わる総務省などの検討会で委員を務める。