米陸軍の155mm砲弾増産計画、工場の建物も設備もすべてが壊れている

米陸軍の155mm砲弾増産計画=月10万発達成で最重要だったメスキート工場の大失敗について詳細な報道が登場、この工場の元従業員たちは「工場の建物も設備もすべてが壊れている」と明かし、工場では「スパイによる妨害・破壊工作ではないか」とまで噂される始末だったらしい。

参考:Fiasco in the Factory: Taxpayers Funded a $533 Million Artillery Plant That Made Nothing

米陸軍はウクライナ戦争で需要が急増した155mm砲弾を増産するため、弾殻・信管・爆薬・装薬の生産施設を拡張し、砲弾の最終組み立て=LAP(装填・組立・包装)ラインの能力を強化し、新たにテキサス州メスキートに砲弾殻製造工場、アーカンソー州カムデンにLAP工場、カンザス州パーソンズにLAP工場を建設し、メスキート工場とカムデン工場はGeneral Dynamics Ordnance and Tactical Systems(GD-OTS)に、パーソンズ工場はDay&Zimmermannに運営が委託された。

出典:U.S. Army メスキート工場

155mm砲弾の生産は2023年春までに月2万発、2024年春までに月5.7万発、2025年までに月10万発を目標に掲げており、これを達成する上で重要な役割を果たすのは砲弾殻を鍛造方式ではなく、トルコが得意とするフロー成形(flow forming)方式を初採用するメスキート工場と、155mm砲弾専用として設計されたLAPラインをもつパーソンズ工場で、メスキート工場の3つの生産ラインがフル稼働すると月3万発の砲弾殻を生産できるようになり、月10万発目標において最重要の存在だった。

当初計画では2024年5月に工場完成、2024年11月に第1ライン稼働、2025年4月に第2ライン稼働、2025年3月に第3ライン稼働の予定だったのだが、トルコのRepkon=レプコンから調達したフロー成形機器(フロー成形、シアーフォーミング、ホットスピニング)に基づいた生産ライン=60mmから155mmまでの砲弾殻製造を切り替え可能な自動化された高速生産ラインの実証・調整作業につまずき、ソフトウェア変更やツール調整だけでは問題が解決せず、生産ライン自体の初回テストが6回以上も延期されている。

つまり「メスキート工場は出荷用の砲弾殻を1発も生産できていない」という意味で、戦術航空・陸上戦力小委員会のロブ・ウィットマン委員長は2026年2月の公聴会で「メスキート工場の新生産ラインはまだ完全に稼働してない」「GD-OTSは155mm砲弾を含むあらゆる砲弾を1発も作っていない」「これでは『この施設の将来はどうなるのか』と問わざるを得ない状況だ」と厳しく陸軍を追及。

ブレント・イングラハム陸軍次官補も「我々は現状の砲弾生産に満足していない」「GD-OTSとの契約打ち切りも検討したが最終的に契約打ち切りは見送って交渉を続けている」「現在の155mm砲弾生産量は全体で月5.7万発だ」と明かし、弾薬調達の責任者を務めるジョン・ライム少将も「目標の月10万発にどれだけ近づいているのか」という質問について「納入面において目標に近づいていない」「メスキート工場での砲弾生産計画に関する再調整は素早く具体化する」と述べた。

出典:U.S. Army メスキート工場

ウィットマン委員長は「失敗するなら早く失敗しろ、そこから必ず教訓を得ろ、投入した資源をできる限り回収しろ、そしてリスクを一緒に背負ってくれるパートナーを確保しろ」「メスキート工場においてはこれが重要だ」「陸軍は失敗したと認めたくないのかもしれないが、目標への軌道修正に対する明確な道筋が見えないなら『申し訳ないが次に進むべきだ』『多少の出費もあったが学びもあった』『この取り組みを次の段階に進めるべきだ』と率直に話せる勇気を持ってほしい」と促していたが、国防総省監察官は155mm砲弾増産計画の報告書を7月に公開。

この報告書は「砲弾殻ラインの能力増強は既存のスクラントン工場、ウィルクスバリ工場、インガソル工場で月7.1万発を、新施設のメスキート工場で月3万発を生産して月10万発を達成する予定だった」「既存施設の砲弾殻生産増強は月1.4万発から月4.6万発止まり」「メスキート工場は砲弾殻を1発も生産できていない」「砲弾の最終組み立て=LAP(装填・組立・包装)ラインの能力増強も月3.6万発止まり」「よって2026年3月時点の155mm砲弾生産能力は月3.6万発=年間43.2万発」「砲弾殻ラインの能力増強は既存3施設が2026年9月までに月7.1万発、LAPラインの能力増強は2027年12月までに月14万発に達する見込み」と指摘。

出典:Department of War Office of Inspector General

メスキート工場が砲弾殻を1発も生産できない原因について「155mm砲弾=新型のM795専用生産設備を発注すると1から製造することになるため、すぐ入手可能なM107専用生産設備を購入し、これをM795製造に改造・適合して使用するという企業の提案をハイリスク・ハイリターン承知で受け入れた」「この実績のない未検証のプロセスへの賭け裏目に出て、M107専用生産設備をM795生産に改造・適合させる過程で重大な技術的課題が発生した」と説明している。

要するに「Repkonから調達したフロー成形機器に基づいた生産ラインは旧型の155mm砲弾殻=M107を製造できても、新型のM795を製造した実績はなく、これをM795製造に改造・適合して時間を節約しようとハイリスク・ハイリターン承知で試みたが上手く行かなかった」という意味だが、ついにメスキート工場で何が起きたのかに関する詳細な報道が登場し、ProPublicaが12日に報じた記事は非常に長いため、これを相当端折ってまとめると以下のような感じだ。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Parker Peichel

“バイデン政権にとってロシアによるウクライナ侵攻は緊急事態だったが、ジェネラル・ダイナミクス(GD)にとっては好機だった。特に兵器・戦術システム部門を率いるフィラット・ゲゼン氏は技術者でもなく、工場運営の経験もなく、兵器ビジネスの財務分野でキャリアを積み上げてきた人物だが、巧妙な戦略家であり優秀なセールスマンと評判で交渉相手を魅了する術を熟知していた。陸軍が砲弾殻供給の多様化を目指して2020年に新しい企業と契約を交わそうとした際、この企業を素早く買収して155mm砲弾弾殻の独占供給体制を維持することに成功し、GDにとってウクライナで何千発もの砲弾が毎日消耗される状況は理想的だった”

“GDはペンシルベニア州のスクラントン工場で155mm砲弾殻を伝統的な鍛造方式で生産していたため、155mm砲弾増産における有力な選択肢だったのだが、ゲゼン氏は2022年秋の会議で新技術による生産を国防総省に提案し、これこそがレプコンのフロー成形機器に基づいた生産ラインだった。ゲゼン氏は「レプコンの設備なら様々な口径の砲弾殻を1つの装置で作れる」「しかもレプコンは完成済みの設備を持っているため一から発注するよりも圧倒的に早く砲弾殻の生産を開始できる」と売り込んだ”

出典:General Dynamics Ordnance and Tactical Systems

“陸軍はレプコンの設備がM795ではなくM107を生産するために設計されたものだと把握しており、GDもレプコンの設備でM795で使用する鋼材を加工できるのかどうか分かっておらず、陸軍の担当者はGDの提案に難色を示したものの「時間がない」という理由で契約を授与してしまい、議会も国防総省に「ウクライナ支援については通常契約で実施される確認作業など安全策を講じなくよい」という異例の権限を与えてしまう。最終的に陸軍もGDの提案に魅了されていき、本当にM795の砲弾殻が加工できるのか分かってもいないレプコンの設備をいきなり3つの生産ライン分購入することにした”

“計画から2年以内でメスキート工場は開所の日を迎えて祝賀ムードに包まれたが、この祝賀式典で披露された砲弾殻はメスキート工場ではなく他の工場から持ち込まれたもので、12人の元工場従業員の証言によれば砲弾殻を生産する火を噴くロボットアームは頻繁にCNC工作機械に激突して窓を割り、ドアを破壊し、砲弾殻をなぎ倒して安全柵に突っ込むため「Rogue=ならず者」とあだ名で呼ばれ、最終的には1980年代の映画に登場する自我を持った軍用ロボットにちなんで「ジョニー5」と呼ばれるようになったらしい”

“さらにシンプルなベルトコンベアも故障し、自動運搬カートは工場で迷子になり、従業員が近づいた際に機械を停止させるはずの安全装置も機能せず、パイプさえも破裂して工場の天井まで水が噴き出した。ある従業員が変形したレプコンの機械部品を調べたところ、連邦規制に違反する中国製の鋼鉄で作られていることが判明した。ロボットがプレス機に潤滑油を吹きかければ煙が巻き起こり、シフトを終えた従業員が鼻をかむと鼻水は真っ黒だったという。さらに炉やプレス機が稼働すると工場内はサハラ砂漠並な温度に達し、従業員らは「ここは文字通り地獄だ」と思うようになった”

“この状態は何も改善せず、毎日機械が壊れ慌てて修理しても形の崩れた砲弾殻が積み上がるばかりで、検査を通過する砲弾殻がほとんどないため後工程の従業員はなにもやることがなく、スマホで時間を潰していると工場の管理者はスマホの使用を制限し、今度はクロスワードパズルの本を持ち込むようになるとこれも禁止され、何もやることがなくなった従業員が居眠りをするという理由で椅子すら撤去されてしまう。GDの従業員とレプコンが派遣したトルコ人労働者の関係も良くなく、とにかくレプコンはフロー成形機器について秘密主義を貫いたため操作に関する質問には何も答えなかった”

Bir metal parça, hassasiyetini kaybetmeden nasıl şekillendirilir? Hassasiyetin kritik olduğu üretimde, teknoloji fark yaratır. Flow Forming, Hot Spinning ve Hot Swaging teknolojileriyle ileri metal şekillendirme çözümleri.

REPKON — Setting Flowforming Free. #REPKONpic.twitter.com/jdikT7qbhq

— Repkon (@Repkon_Inc) August 10, 2026

“工場ではもはや「トルコ人が意図的に機械をサボタージュしているのではないか」「トルコ人は何かのスパイ稼働に従事しているのではないか」という噂まで蔓延したが、新しく建設されたメスキート工場の建物も壁にひびが入り、窓枠の周りからは隙間光が見えるようになり、ドアはコンクリートの床を引きずるようになり、雨が降ると水が流れ込んで工場内に洪水が発生した。陸軍もGDも工場を上手くいっていると誤魔化し続け、最終的に2年の歳月をかけても出荷可能な砲弾殻を1発生産することができなった”

“そこでGDはメスキート工場の問題を解決するため誰も聞いたことがない「ディタレンス」という会社と提携し「AIを活用した機能で問題を解決する」と言い出した。ディタレンスは「AIは生産施設を戦略的資産へと変革する」「我々はリアルタイムで学習し、適応し、規模を拡大する自律型の製造システムを構築している」と喧伝したが、メスキート工場の元従業員たちは「一体何を言っているんだ?あそこには学習することも、適応することも、規模を拡大するものもない。すべてが壊れているんだ」という”

出典:Deterrence

“GDはメスキート工場のレプコン製設備の大部分をスクラントン工場で使用している従来機器に置き換え、ここにAIを導入することで奇跡を引き出そうとしているが、ディタレンスのAI技術に賭けるという選択はレプコンのフロー成形機器に賭ける選択よりもリスクが高い。ディタレンスは3年前に防衛産業とは無関係の3人によって創業され、1人はテスラで働いた経験があり、残りの2人はスマートフォンで建物の施錠・解錠を行うスタートアップ企業を設立した人間で、これまでディタレンスがAI支援で何かの実績を残したという形跡もない”

“匿名を条件に語った他の関係者たちは互いに指を指し合って責任をなすりつけ合っている。ホワイトハウスがあまりにも早く多くを求めすぎた、レプコンとGDが過大な約束をした、陸軍が適正な評価を怠った、議会がこれらすべての資金を裏書きしたのだと非難し合っているが、もう砲弾増産に関する興味は完全に失われ、現在は誰もが迎撃ミサイルや精密誘導ミサイルの話ばかりしている”

出典:Repkon

GDはAIと数十年前の技術を組み合わせることで「来年までにはメスキート工場で砲弾殻の生産を開始できる」「メスキート工場での砲弾殻生産は月2万発に相当する」と述べているが、ディタレンスのプレスリリースはテクノロジーやビジネスの専門用語で溢れかえっており、ProPublicaは「GDとディタレンスがどのようにしてメスキート工場から奇跡を引き出すのかは不明だ」と指摘している。

とにかくレプコンの設備がM795ではなくM107を生産するために設計されたものだと把握し、レプコンの設備でM795で使用する鋼材を加工できるのかどうかも分からない時点で契約を取りやめるべき事案で、ここまでひどい話を見たのは本当に久々だ。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo by Cpl. Geordan J. Tyquiengco, Operations Group, National Training Center

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